©「おばあちゃんの秘密」製作委員会2026

関西では、アップリンク京都では7/24、シアターセブンでは7/25から映画『おばあちゃんの秘密』が公開されている。新潟県胎内市を舞台に、孫娘が亡くなった祖母が残した113通の手紙でその秘密に触れることで真実の母の姿を知っていく。

祖母・時子に竹下景子。時子が抱えてきた葛藤を滋味豊かに表現している。孫の鴨下莉莉役に島⽥愛梨珠。傷付きながらも祖母と向き合おうとする莉莉の姿は繊細で瑞々しい。莉莉と本音をぶつけ合う友人に、胎内市出身の長谷川玲奈、『恋脳 Experiment』の篠原雅史が好演。時子が長年密かに想いを寄せ続けてきた宝井に江藤潤。『祭りの準備』以来の竹下との共演は50年ぶりとなる。
今関作品常連の利重剛、⼤島葉⼦が莉莉の両親役で大人のほろ苦さを演じている。

メガホンを取ったのは今関あきよし。映画『アイコ⼗六歳』(83)で監督デビューして以来、女性の繊細な心の動きを切り取る手腕でファンを獲得してきた。近年は『カリーナの林檎』(11)、『クレヴァニ 愛のトンネル』(15)、『恋恋⾖花』(20)など東欧、台湾を舞台に新たな表現に取り組んできた。2023 年以降は『釜⽯ラーメン物語』『⻘すぎる、⻘』『顔さんの仕事』 『しまねこ』など、精力的に地方とその地に住む人の魅力を発信している。
脚本は『⻘すぎる⻘』に引き続き今関とタッグを組む⼩林弘利。撮影・編集は、「カリーナの林檎〜チェルノブイリの森〜」「釜⽯ラーメン物語」「⻘すぎる、⻘」「しまねこ」「顔さんの仕事」など、今関の信頼が厚い三本⽊久城が手掛けている。

祖母の遺言

亡き祖母の遺言を受け、東京から新潟県胎内市へやって来た莉莉。遺品整理を進める中で、受け取った荷物の中身は、祖母が祖父以外の男性に宛てた113通の手紙だった。父が外に家庭を作ってしまったことから、人の誠実さに対して敏感になっている莉莉。「祖母は祖父を裏切っていたのではないか」。大好きだった祖母の知られざる一面を前に、リリは戸惑いと怒りを抱く。

祖母との思い出が溢れる胎内市の風景

©「おばあちゃんの秘密」製作委員会2026

莉莉を時子の孫と知って声をかけてくる人懐っこい住民たちとの交流、懐かしい風情を残す家並み。舞台となる新潟県胎内市のそんな穏やかな風景も作品の魅力である。家の中に残る祖母の生活の痕跡は、祖母との思い出を呼び起こす。幼い頃、お風呂場で汚れた足を洗ってくれた記憶。お日様の匂いがする布団。若かりし頃の祖父との写真。ショーケースに並ぶ愛らしいこけしたち。風鈴の音。その一つ一つが、祖母という人間の温もりを伝えてくる。 止まった時計に新しい電池を入れながら、その上に積もった埃には気付かない莉莉の姿は、彼女の未熟さを暗示しているように見える。

父への複雑な感情と有難い友人たち

一方で、他の家庭を築いた父への複雑な感情も描かれる。ガスコンロの前で一人涙を流す莉莉。その涙は、父への思いなのか、それとも父と同じように家族を裏切ったように見える祖母への戸惑いなのか。答えを明示しない演出が想像を広げる。

莉莉の母の頼みで遺品整理を手伝うことになった浩太。最初は小競り合いを繰り返す二人だが、浩太と一緒に祖母との思い出でもあるうどん作りをする中で、支えてほしい時に差し伸べられる手の大切さに気付く。その温かさが、莉莉の心を少しずつほどいていく。

同じく助っ人として召喚された親友くるみとの衝突も印象深い。全てにズバズバと切り返すくるみは、莉莉と合わせ鏡のようだ。祖母を一方的に有罪判定をしようとする莉莉に対し「本当のおばあちゃんを知ったら嫌いになるかもなんてひどくない?」と直球を投げつける。一見 繊細な部分は持ち合わせていないように見えるくるみだが、実は一番思いやりを持って莉莉のことを見守っている。「莉莉は傷ついてもそれで壊れたりなんかしない。自分を必死に守らなくていいんだよ」という言葉は、自分を守り続けてきた殻を破り、莉莉が自分自身とも向き合うきっかけとなる。

手紙に託された時子の真実

消印順に並べた時子による113通の手紙と、文通相手であるタクシー運転手・宝井の返信の手紙のカットは圧巻だ。迷いながら一通ずつ声に出して読み進めていく3人。40年にも及ぶ手紙に綴られた率直な言葉から、祖母・時子が胸に秘め続けてきた思いが少しずつ浮かび上がる。平成16年の豪雨の日、彼女が行った決断とは。それは決して単純な善悪では測れない彼女の生き方そのものだった。

 「10年前も災害に襲われ、会いたくても会えなくなった人がたくさん生まれた。二度と再び声を聞くことはできない」「会おうと思えばまたいつか会える人がいる。今はそれが慰めです」その言葉は、本作が描き出す喪失と希望を静かに照らし出す。

手紙を追うミステリーでは終わらない本作

夫が倒れ介護に明け暮れる時子が宝井との文通を再開した中で、「黒く見えたとしても、白く見えたとしても、一人の人間がその一色だけでできているわけではない」。時子の言葉を受けた宝井のこの言葉は、作品全体を象徴するメッセージだろう。

タクシー運転手としてさまざまな人生を乗せてきた宝井は、引退の時を迎える。そして更に物語は、桜を思いながら人生の終末を迎える2人の静かな決意へとたどり着く。

冒頭でも登場する美しい千本桜の風景。舞い散る桜の花びらをつかんでも、元の花の形は分からないまま、ばらばらに散ってしまう。人は一つの側面だけでは決して語れない存在なのだ。 私たちはこの世に別れを告げるときに、どんな気配を残していくのだろうか。

『おばあちゃんの秘密』は、そんな問いを静かに胸へ届けてくれる。

(Text:デューイ松田)

作品情報

作品情報

島田愛梨珠
⻑谷川玲奈 篠原雅史 大島葉子 利重 剛 米田 敬 松宮 倫 大田雄磨 五十嵐乃々空 江藤 潤
竹下景子
原案・監督 今関あきよし
脚本 小林弘利 撮影 三本木久城(JSC) 音楽 宮﨑 道 録音 池田知久 編集 鈴木 理 音響効果 田中 俊
主題曲 「シャボン玉 飛んだ」
歌 洸美-hiromi-&はなちゃん
編曲 田中どぼん俊光
美術 竹内公一(A.P.D.J) 竹内悦子(A.P.D.J)
プロデューサー 高瀬博行 今関あきよし
ラインプロデューサー 佐伯寛之
アソシエイトプロデューサー 池田真一(中条グランドホテル)
配給宣伝 ムービー・アクト・プロジェクト
配給協力 ミカタ・エンタテインメント
製作 TKS plus / AKIYOSHI IMAZEKI FILM
2026/日本/カラー/100分/ビスタサイズ
©「おばあちゃんの秘密」製作委員会2026
HP:https://mapinc.jp/film/gram/
X: @obaachan_no_
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配給 ムービー・アクト・プロジェクト
2026 年6 月20 日よりシネ・ウインドにて先行公開