第30回釜山国際映画祭、『国宝』『旅と日々』など日本勢が存在感

左からイ・ビョンホン、イ・ソンミン、ヨム・ヘラン、パク・チャヌク監督、ソン・イェジン、パク・ヒスンⒸ釜山国際映画祭

韓国の釜山市で2025年9月17日~26日、「第30回釜山国際映画祭」が開催された。今年は64カ国・地域の241本を上映し、16万2,405人の観客が訪れた。映画祭組織委員会によると、市民向け上映や監督・キャストのトークイベントも含めた動員数は23万8,697人。多くの映画ファンが秋の祭りを楽しんだ。
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■『国宝』、李相日監督と吉沢亮が登場

日本映画は合作含め24作品が招待された。話題作を上映するガラ・プレゼンテーション部門では、興行収入が150億円を突破した『国宝』を韓国初上映。李相日監督と主演の吉沢亮の記者会見には大勢の韓国メディアが参加した。

「本作を通して成長したと思う点は」という質問に対し、吉沢亮は歌舞伎の踊りの稽古に1年半かけたエピソードを紹介し、「こんなに芝居のことだけ、感情のことだけを考えて現場にいられるのはものすごく幸せだった。役のことだけで悩んでセリフや1つ1つのシーンの積み上げにこんなに時間をかけていいんだというのは学びになったし、贅沢な時間だった」と振り返った。

韓国メディアからは李相日監督に対し「大ヒットの理由は」との質問も。李監督は「よくわかりません。想像すらできませんでした」と韓国語で答えて笑わせ、「多くの日本人が歌舞伎を実際に見ているかというと、そうでもない。映画の中で歌舞伎という存在を新しく発見することが多かったのではないか。同時に吉沢くんや渡辺謙さんなどなじみの深い俳優たちが今まで見せていなかった姿を、歌舞伎役者として役者生命をかけて臨んでいる気迫が観客に届いたのかと思う」と話した。

■釜山が結んだ縁、三宅唱監督『旅と日々』

三宅唱監督の新作『旅と日々』が、最高賞(金豹賞)を受賞したイタリアのロカルノ国際映画祭に続き、釜山映画祭の新設コンペティション部門にノミネートされた。新設の「釜山アワード」は新人監督の作品だけでなく、商業映画やベテラン監督の映画も対象とするコンペ部門。『旅と日々』は惜しくも受賞は逃したが、韓国のシム・ウンギョンが出演していることもあり注目度は高かった。
本作の原作はつげ義春の漫画「海辺の叙景」「ほんやら洞のべんさん」。脚本家が旅先での出会いをきっかけに人生を見つめ直す物語だ。


記者会見には三宅監督とシム、高田(*高ははしごだか)万作が登壇。三宅監督は「実はシム・ウンギョンさんとの出会いも釜山映画祭だった。本作の原作は日本人男性だが、これを国籍も性別も関係なくシムさんにやってもらえばいい映画になると思い、『李』というキャラクターを作った」と明かした。

シム・ウンギョンも以前から三宅監督の作品に出演することを熱望していたという。初めての三宅監督の現場の感想を聞かれると「監督は俳優のもつ個性を観察しながら、キャラクターに合わせて演出するスタイル」と、その独特の演出方法を振り返った。高田も「難しいことを考えて現場に入るより監督に身を委ねればすばらしいものができると信じていたので、難しいことは考えず自然体で挑んだ」と話した。

日韓両国で活躍するシム・ウンギョンだが、日本語で演技することはまだ難しいといい、「ずっと練習していないとせりふが自然に出てこない。韓国語で演技する時の2倍は時間をかける」と苦労ものぞかせた。

『旅と日々』は11月7日に日本で劇場公開される。
■西島秀俊、山田孝之も


「アジア映画の決定的瞬間」のセクションでは濱口竜介監督の『ドライブ・マイ・カー』が上映。新作の『ディア・ストレンジャー』で釜山を訪れていた西島秀俊が上映後のQ&Aに登場し、ファンとの交流を楽しんだ。
またNetflixの韓国映画『グッドニュース』の野外トークイベントには、ピョン・ソンヒョン監督、主演のソル・ギョング、ホン・ギョンとともに山田孝之と笠松将が参加した。本作は1970年のよど号ハイジャック事件をモチーフにしたもので、日本人キャストも多く出演する。日韓の俳優の競演が楽しみな本作は、10月17日に配信開始となる。




■北村匠海らに「最優秀俳優賞」
最終日の26日に行われたコンペティション部門の授賞式では、『愚か者の身分』(永田琴監督)の北村匠海、林裕太、綾野剛がそろって最優秀俳優賞を受賞した。

グランプリには張律(チャン・リュル)監督の『羅目的黄昏』(原題)が選ばれた。張律監督は朝鮮系中国人で、中韓で活動する釜山映画祭の常連。今回は中国映画での受賞となった。

(レポート&撮影:芳賀恵)
※「Ⓒ釜山国際映画祭」表記以外の撮影は全て芳賀恵