大阪アジアン映画祭2025リポート①「来るべき才能賞」受賞のパク・イウン監督「朝の海、カモメは」
毎年3月に大阪市で開かれる「大阪アジアン映画祭」。日本で一般公開されることが少ないアジア各地域の作品を発掘する映画祭だ。21回目となる次回は、来年の開催を前倒しして今年8月末に行われる予定となっている。その開催を前に、3月の第20回映画祭で注目された作品をピックアップしておきたい。
初回は、コンペティションで「来るべき才能賞」を受賞したパク・イウン監督(韓国)の「朝の海、カモメは」。監督へのインタビューの内容を交えて紹介する。
■取り残された人々の物語

「朝の海、カモメは」は寂れた漁村の老船長と突然行方不明になった船員、船員の母親とベトナム人妻を取り巻く物語だ。限界集落の貧困問題が下敷きになっている。
22年に同映画祭に招待されたパク監督の前作「ブルドーザー少女」も、貧困と社会の不条理に立ち向かう少女が主人公だった。本作ではより普遍的な問題をテーマに据えて、監督が「単に小さな漁村の話にとどまらず韓国全体の社会的な問題」と言うように、構造的な貧困にあえぐ人々が自分の人生をどう選択していくのかを描いている。
本作で存在感を見せるのはベテラン俳優たちだ。老船長役のユン・ジュサン、行方不明になった船員の母親役のヤン・ヒギョン。ドラマや演劇で長く活躍する彼らの演技が作品に力を与えている。

22年はコロナ禍の影響で来日できなかったパク監督は、今回が初の大阪訪問。満席の会場で上映後に行われたQ&Aでは、映画に登場する“保険金詐欺”や“外国人花嫁”に関する質問が相次いだ。監督は「犯罪を犯すしかない人々の切迫した気持ちを表現したかった」と説明し、「これは特異な事件を通して真実を見つめ、共有する映画だ。次回作もこのような作品を作りたい」と意欲を見せた。
■40代での監督デビュー

コンペ部門の「来るべき才能賞」の発表で名前を呼ばれたパク監督は、「47歳で新人賞をいただきました」と控えめにあいさつし、大きな拍手を受けた。
1978年生まれのパク監督は、大学卒業後に映画メディアの記者や商業映画のスタッフとして活動した日々を「生活のために働き、合間に脚本を書いてきた」と語る。「朝の海、カモメは」の脚本には「ブルドーザー少女」よりも早く着手し、何度かの修正を繰り返して完成にこぎつけたという。
商業映画の現場をよく知る監督に、韓国の映画産業が低迷していることについて尋ねてみた。「観客の見たいもの、見る価値のあるものが提供できていない。映画館に足を運んでまで見たいと思うような映画がないようだ。そもそも映画への関心そのものが下がっている気がする」と危機感を募らせ、政府の支援が急減していることも要因のひとつだと指摘した。
(リポート:芳賀恵)
画像提供:大阪アジアン映画祭事務局