長谷川千紗さんと塩田時敏監督

6/14(土)、愛媛県松山市のミニシアター、シネマルナティックで「りりかの星」と「極道恐怖大劇場 牛頭」の公開がスタート。公開初日の上映後、「りりかの星」の塩田時敏監督と長谷川千紗さん(映画監督、俳優)による舞台挨拶が行われた。

開口一番、「『牛頭』の途中で女性のお客さんが二人お帰りになられました。何やってくれるんだ、三池崇史!『りりかの星』はどうなる!と思ったんですが(笑)」と塩田監督。

「『牛頭』は作品が観客を選ぶ」とし、完走した勇気ある観客たちに感謝を述べた。

ストリップ劇場の妖精役で出演した長谷川さんは高知出身。
「今日初めて四国で舞台挨拶をさせていただきまして嬉しいです」と喜びを伝えた。
「愛媛は四国唯一、ニュー道後ミュージックのある素晴らしい文化的な土地だと思います。明日行ってみようと思っているんです」と塩田監督。

■監督だらけの撮影現場

「りりかの星」は、突然ストリッパーになりたいと言い出した高校生の娘と、父親の葛藤と和解を描く。映画評論家として知られる塩田時敏さんの初監督作品。

企画が始まったのは、小室りりかさんのステージを記録する目的だったという。当初は小室さんの3役の構想で進んだが、紆余曲折あり主軸となる親子の娘・萌役に水戸かなさんを抜擢し内容を変更。プロデューサーからの要請でサイレント形式で制作され、劇場のシーンに幻想的な展開が加えられた。

「ヴァイブレータ」(03)「夕方のおともだち」(22)で知られる廣木隆一監督が萌の父親を演じ、「殺し屋1」(01)「初恋 FIRST LOVE」(20)の三池崇史監督が意外な役どころで出演。いずれも各監督の作品に塩田監督が出演したという経緯があり実現した。

「演技をつけるプロですからね。下手な役者だけはうまいだろうと踏んで、お願いした次第です」
撮影監督の芦澤明子さんは黒沢清監督作品で知られており、長谷川さんも「エターナルラブが蔓延した日」等の監督作品がある。
「(芦澤さんは)昔自主映画を撮っていたし、現場は監督だらけで。一番 ペーペーなのが僕と言うわけです(笑)」と振り返る。

長谷川さんはその言葉を受け、
「(萌役の)水戸かなさんも自分でダンスとかも全部演出されて衣装も決められていたので、ほぼ監督だなと思いました」と語った。


塩田監督は長谷川さんの役どころについて、妖精が父親を劇場に誘うシーンの芝居が長谷川さんのアイディアだったと披露。
「廣木さんをどうやって招き入れようか考えました。せっかくだから小道具も使いたくて」と長谷川さん。
「後に監督になる才能がすごく表れている気がしました。あれは非常に良い芝居だと思いますよ。残念ながら僕の演出ではないんですけど」と新たなる才能が垣間見えた瞬間について語った。

左:シネマルナティックの橋本支配人。同館では2014年、会館20周年の折に佐藤佐吉さん(脚本、監督、俳優)の特集上映を行った。橋本支配人から佐藤さんとの仕事の可能性を聞かれた塩田監督。「俺のために脚本 書いてくれるかな。佐藤佐吉も結構高そうですからね(笑)」とまんざらでもない様子。

■「極道大恐怖劇場 牛頭」との併映

「りりかの星」は短編であることから、併映作品として「極道大恐怖劇場 牛頭」(03)(監督:三池崇史、脚本:佐藤佐吉)が選ばれた。同作はかつてカンヌで話題となったが、
「三池さんが V シネマで育ったので、こだわって正式な劇場公開はしなかったんですよ」
この機会に劇場公開として興行させてほしいと打診し、快諾された。
同作での塩田監督の怪演にも注目して欲しい。

Q&Aでは、長谷川さんに「りりかの星」にかかわるまで、実際にストリップ劇場に行ったことがあるかと質問が挙がった。
「Vシネなどで共演した倖田李梨さんや海空花さんが出演されていたことがあり、浅草ロック座に行きました。『りりかの星』に出演してからは塩田さんと一緒にりりか様を追いかけたりしてるんですけど(笑)」

自身の監督作「エターナルラブが蔓延した日」のパンフレットを紹介する長谷川千紗さん。近日配信開始予定とのこと。

また、塩田監督に「りりかの星」がフィルム撮影となった理由について質問が挙がった。
塩田監督に強いこだわりはなかったが、プロデューサーの意向が大きく、予算の問題から35mmの予定を16mmへと移行。後から音声を入れる予算がなかったためサイレントにすることに決まったが、それを逆手にとった実験的表現となったという。劇場に入るまでがフィルム、入ってからがデジタルで撮影を行い、ストリップ劇場が持つ異空間性を表現したことについても注目して欲しい。

塩田監督は、ストリップ劇場を「文化」と捉え、従来の映画とは一線を画すように踊り子たちの演出力や芸術性に焦点を当てて作品を作ったと語る。
三池監督が出演するシーンについて、
「あの空間が物凄いエネルギーを持っているんだということ感じて欲しかった」
評論家として、現代の映画がコンプライアンスに縛られてエロスを扱わなくなったことに対して退屈だと語る。描きかったのは“エロスの生命力”であり、「エロスとタトナス」こそ映画だと力強く語った。

最期に長谷川さんは
「映画館で沈黙を共有しているのが気持ちいいなと思いました。自分の頭の中で画面の音が流れるのが面白くて、今までにない映画体験でした。その後に ダンスで急に音楽が鳴って。音の映画だなと改めて感じました」と、改めて劇場で鑑賞した感想を披露し、シネマルナティックでの上映と今後の全国上映の応援を呼びかけた。

塩田監督も「仮に気に入らなくても悪口でもいいですから口コミをよろしく。私は映画評論家で、普段は悪口を言います。悪口もまた宣伝ですので、ベスト10とワースト10、両方に出てこそ本物と言えます。ぜひ皆さんよろしくお願いします」と毒舌家らしく締めた。

シネマルナティックの上映は6/20(金)まで。どうぞお見逃しなく!


リポート:デューイ松田