この禍々しき秀作たちを6/28(日)、たった1日で全部鑑賞できるというのだから、神戸映画資料館恐るべし!

1985年にPFF入選 、1990年に商業映画デビューを果たし現在まで様々な作品を撮り続けてきた常本琢招監督。その確かな演出力は黒沢清監督、高橋洋監督、 塩田明彦監督など多くの監督たちからも信頼を集めてきた。

さて、今回の特集である。「ヒロイン」という言葉は古き良き時代の映画を想起させるが、常本琢招監督が描くのは、男性が理想とする抜型で量産される女性像を踏み潰す爆走のヒロインたち。

作品に共通するのは、「過去に囚われた女性」。それに翻弄される男たちという構図だ。

『蜘蛛の国の女王』

『蜘蛛の国の女王』のヒロインは、かつて憧れた先輩建築士・美子(西山朱子)と再会した気鋭の建築家・映子(久遠さやか)。巧妙な罠で女性を取り込み、男性は捕食していく美子。過去を突き付けられ混沌とする現実に浸食されていくヒロインの行く末は?目に映るものは真実なのか、映画は観客をも巻き込んでいく。

『みつかるまで』©映画美学校

『みつかるまで』では、画家としての希望を失ったヒロイン・芳美(板谷由夏)が、生きる実感を求めて電車での置き引きに依存する。追われる男(水橋研二)との出会いで彼女の日常は変化していくが…。ヒロインが安らぎを求めたのは、都会の真ん中で空へと枝を伸ばしながら立ち枯れたように見える1本の木。彼女が追い求める絵の象徴であり、失われた情熱を取り戻すために彼女がとった行動とは…?

『アナボウ』

一転して本特集上映で一番の問題作と言えるのが、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2011年にてオフシアターコンペティション部門に選出された『アナボウ』。セックス甲子園を目指す鬼キャプテン・一子(吉谷彩子)がヒロインだ。これはまぎれもない青春映画!?暴走するヒロインは部活に対してどこまでも真剣である。脚本家であり現在公開中の漫画『穴棒』原作者・香川まさひと氏も困惑気味という20分。ツネモト・リトマス紙とも言えそうな本作。不機嫌顔のヒロインの狂気の暴走に爆笑するかドン引きするか。制作から15年の2026年、本作をどう見るかは常本監督と西田博至氏(批評家)のトークショーを待ちたい。

ル・ジャルダンのオーナーである望月明美氏の『ル・ジャルダンへようこそ3』を原作とする『何もない部屋』では、妻に去られた佐山(木原勝利)が主人公。天真爛漫な銀座・高級クラブのホステス優香(川添野愛)との新しい生活に希望を見出す。しかし、選択を迫られる場面で疑心暗鬼となった佐山は…。一見すると軽妙で切ない恋愛劇だが、「何もない部屋」とは実は佐山自身の空虚な心を指しているのではないかと思わせる。

そして『蒼白者 A Pale Woman』は、常本監督がゆうばり国際ファンタスティック映画祭でキム・コッビと出会い、生まれたCO2助成作品。ヒロイン・キム(キム・コッビ)は、血と欲にまみれた家で一緒に育ったシュウ(忍成修吾)を暗黒の世界から救うため韓国から大阪へ戻ってくる。母との確執、兄との騙し合い。月の女王を思わせる寂しげな笑顔をまとったキムは、シュウの敵を排除するため暗躍する。常本監督会心の再編集版は、彼女の常軌を逸した行動に見え隠れする、喪失を埋めようとする切実さが鮮やかに胸を突く。

常本監督のヒロインたちは、誰よりも孤独で、身を滅ぼすことも厭わず過去と正面から向き合う強さを持つ。その圧倒的な存在感の前では、男たちはただ翻弄されるしかない。『何もない部屋』の主人公・佐山は、常本作品における「B面」=男たちの姿ではないか――そんなことを想像するのも、本上映会の楽しみ方の一つである。

(Text:デューイ松田)