在日コリアン三世が育むアイデンティティの花。映画『雨花蓮歌』11/15舞台挨拶@出町座&シアターセブン

在日外国人と日本人学校のいまを描き、衝撃を与えた『ムイト・プラゼール』(2022)から3年。朴正一監督の長編デビュー作『雨花蓮歌』(うわくれんが)が、11月14日より出町座、11月15日よりシアターセブンにて公開される。
そして11月15日には出町座、シアターセブンともに朴正一監督の舞台挨拶が予定されている。
映画『雨花蓮歌』は、在日コリアン三世の大学生ハルミとその家族の日常を通して、国籍をめぐる思いや悩み、周囲の認知バイアスなど、時にはユーモアを交えながら描いた作品だ。
在日三世である朴正一監督の経験と、日本人、在日外国人、さまざまな国籍の若い世代への取材で受け取ったリアルな声をもとに作られた本作。タイトルの「雨花」は雨の中で咲く花を、「連歌」は上の句と下の句をリレー形式で詠む日本の伝統的な詩歌の形式のこと。1人1人の声が交わり、揺らぎながらハルミ達の日常が紡がれていく。

物語はハルミと姉のレイコ、母、叔父の4人の豚足談義が飛び交うにぎやかな食卓から始まる。映画全体で食事のシーンは、お菓子をつまむシーンも含めれば12回も登場し、食を介した対話が人と人を結ぶ絆を育んでいることが見て取れる。
ハルミの明るさと率直さは、上の世代が避けて通る話題にもためらいなく踏み込む。サクランボのキムチを食べながら「種なしのサクランボは作れない」という在日コリアン二世の叔父の言葉は、 “国籍”という核になるものと人間の関係を表している。ハルミが「国籍とかめんどうくさい」と応じる場面には、現代の若者らしい達観が見える。
一方で、ハルミは友人たちの悪意のない国籍をネタにしたステレオタイプな冗談を笑顔で聞き流すが、自身の出自を語ることによる友達との関係の変化を恐れている。在日コリアン三世の複雑な心の揺らぎが、 “軽やかさ”の裏にあることに気付かされる。

姉のレイコは日本人の恋人との結婚を控えた新居探しの中で、不動産業者の認知バイアスのある発言に直面する。いらだちをぶつけたことで恋人との信頼関係も揺らぐ。
在日コリアン二世の母の友人がレイコに見合いを勧めて語る「同じ国籍、同じ血、同じ境遇が大切」という言葉は、若い世代との乖離を映し出す。しかしまた、同じ若い世代でも軽やかなハルミと切実に思い悩むレイコの姿からは、世代では括れない個の葛藤が見えてくる。
終盤、レイコの新居に置かれた母より鉢分けされたムクゲ(韓国の国花)の花が象徴的に映し出される。国際結婚で家族の形が変わっても、その精神はたおやかに受け継がれていくことを示すように。
そしてひいたカメラがとらえる、大学の教室での生徒たちの賑やかなやり取り。一見「学生たち」という一括りの集団に見えるが、もしカメラが寄ったなら、境遇や事情も異なる「個」の集まりだ。国籍や世代ではなく“その人自身”に寄り添って見ようとする監督のまなざしが、明るくエネルギッシュな空気を祝福する。

主人公ハルミを演じたのは舞台『アサルトリリィ』シリーズ、『女王ステ』シリーズ、『降臨 SOUL』シリーズほか演劇、映像作品で存在感を増す山﨑悠稀。
姉のレイコを『一秒先の彼』(2023)、『ぼくが生きてる、ふたつの世界』(2024)など話題作で活躍する齊藤由衣が演じている。自分らしさを模索する彼女たちの新鮮な演技をぜひ劇場で!
(Text:デューイ松田)

映画「雨花蓮歌」上映&舞台挨拶情報
出町座
11/14 (金) 〜 11/20(木) 連日16:25(~17:46)
11/15(土) 上映後舞台挨拶 登壇者:朴正一 監督
シアターセブン
11/15(土)13:40(~15:04)上映後舞台挨拶 登壇者:朴正一 監督
11/16(日) 13:40(~15:04)
11/17(月)~19(水) 15:00(~16:24)
11/20(木)16:30(~17:54)
11/21(金) 16:30(~17:54)※上映終了
映画「雨花蓮歌」
出演:山﨑悠稀、齊藤由衣、大藤喜美子、川合智、林光哲、目黒天音、竹内しのぶ
監督:朴正一 脚本:高橋優作、朴正一 撮影:高橋優作 MA:落合諒磨 音楽:Hitomi 録音:岩瀬航 助監督:日向寺一
配給・宣伝:ミカタ・エンタテインメント
2024 年/日本/79 分/2ch/カラー ©Jengilpark
2025 年 10 月 25 日(土)より 新宿 kscinema ほか全国順次公開