【韓国・全州国際映画祭リポート①】俳優イ・ヒジュン、監督作をプレミア上映

提供:全州国際映画祭事務局
韓国の全州市で4月30日~5月9日に「第26回全州国際映画祭2025」が開催された。今年は57カ国・地域の長編・短編224本を上映。その中から韓国映画の注目作品をリポートする。
俳優から監督へ
俳優イ・ヒジュンが脚本・演出を務めた2本の映画が上映され、上映後のQ&Aに登場。多くのファンが詰めかけた。今回が初上映の「長方形、三角形」(2025)と初演出作品「ビョンフンの一日」(2018)だ。
イ・ヒジュンといえばドラマ「棚ぼたのあなた」(2012)で注目されて以降、オファーが途切れない売れっ子。映画「1987、ある闘いの真実」(2017)「KCIA 南山の部長たち」(2020)やNetflixドラマ「殺人者のパラドックス」(2024)「悪縁(アギョン)」(2025)などで幅広いキャラクターを演じ、今や韓国の映像作品に欠かせない存在となっている。

「長方形、三角形」は46分の中編コメディー。ロマン・ポランスキーの映画「おとなのけんか」にインスピレーションを受けたという。老夫婦と息子・娘、その配偶者たちが一堂に会するマンションの一室。和やかに会話していた彼らがささいなことから言い争いとなり、収拾がつかなくなる。彼らの対立は同じ物事を別の角度から見ているために起きたことなのだが、本人たちはそれに気づかない。その面白味がテンポの良い会話劇に詰まっている。

短編「ビョンフンの一日」は、パニック障害と向き合う青年を本人が演じている。自身がかつて患ったパニック障害の体験を投影した作品だという。イ・ヒジュンは「治そうと焦るほど、症状がひどくなった。病気を受け入れて生きていく姿を描きたかった」と制作時の思いを語った。

提供:全州国際映画祭事務局
監督として今後も活動を続けるのかという質問に、イ・ヒジュンは「実は演出よりも演技の方がはるかに面白い。でも自分が見たいのに誰も作らない映画があるとき、自分で作りたくなる」と答えた。演技への意欲と自信にあふれたコメントも。「自分の映画に出演すれば、演出の意図が分かるので100%の演技ができる。でも他の監督の作品では100%以上を出せるし、監督の意図以上のものを提示できる」。
主演映画も上映

その言葉の通り、今回の映画祭で上映された主演映画「ギュレギュレ」(コ・ボンス監督)では、俳優イ・ヒジュンの新たな顔が堪能できる。イ・ヒジュンは上司とトルコに出張した内向的な男を演じている。男は現地で参加したツアーで学生時代の片思いの相手にばったり出会い、困惑する。彼女も夫との関係に悩んでいた。二人は率直な対話の中で互いに過去の日々を省察し、やがてそれぞれが再生への一歩を踏み出そうとする。
タイトルはトルコ語で「さようなら」を意味する。カッパドキアの光景と主人公の心の変化が重なり、観る者の胸を温かくする映画だ。韓国では6月に一般公開。日本での公開が待たれる。
(リポート/芳賀 恵)