南米ベネズエラのカラカスには、30年以上前から音楽家のホセ・アントニオ・アブレオによって創設された画期的な音楽教育制度、エル・システマが存在する。
貧困世帯が多く、犯罪が蔓延する中であっても実に生き生きと希望を持って音楽を奏でる子供たち。
エル・システマに関わる子供たち、創設者のアントニオ、カラカスの街並みなど、軽快なオーケストラの音楽に乗せて音楽の素晴らしさの根源を描くドキュメンタリー、
『エル・システマ〜音楽の喜び〜』のマリア・シュトートマイヤー監督が登壇し、観客からの質問に答えた。

以下、Q&A。

Q:何故、エル・システマを映画にしようと思ったのでしょうか?また、何に重点を置いて作りましたか?

「私は2002年にヨーロッパのユース・オーケストラで仕事をしていました。そこでベネズエラから客演で来いるコントラバス奏者と出会いました。
どうやってベネズエラでコントラバスを習ったのか聞いたところ、このエル・システマの存在を知ったのが始まりです。
その時に丁度、劇中にも登場したシモンボリバル・ユースオーケストラがヨーロッパをツアー中で、それを見て非常に感動し、その背景を知りたい、ベネズエラに行ってみたいと強く思うようにりました。
そして、始まりから30年以上にも及ぶエル・システマの事を知って、映画に撮ってみたいと思いました。
映画では、エル・システマ創設者のアントニオの事はもちろん、子供たちや、素晴らしいオーケストラができている事を幅広く紹介したいと思い、このような形になりました。」

Q:映画を作るにあたり、一番苦労した事は?

「カラカスという街は非常に治安が悪い場所で、そこで撮影するという事が一番大変でした。
撮影クルーは6人いて、バリオスという居住区で撮影しました。
私の夫も実はそこの出身で、エル・システマのセンターで学んで、ヨーロッパに来たという経緯がある為、夫の家族は今もバリオスに住んでいるのです。
親類が多く、家族がいるという事なので、街の人々も私たちを信頼してくれ、また子供たちも信頼してくれました。」

Q:エル・システマの子供たちと会って印象的だった事は?

「子供たちが恐れを知らずに音楽に向かっていく姿が印象的でした。ベートーベンの9番や5番などの本当に難しい曲を弾くのです。
そして、彼らからほとばしる生きる喜び、センターの先生たちの“心で弾きなさい、技術は後からついてくる”という心の教育に非常に感銘を受けました。また、それを貫くための意志の力というのも印象深いものでした。」

Q:トランペット奏者の男の子が「パーカッション奏者の子は、言う事を聞かないから駄目だよ。」と言っていましたが、楽器ごとにそのような違いがあるのは何故ですか?

「それはヨブラン君という子の発言で、私は“かわいいな”と思ったのですが、センターに来る子たちは最初は簡単なので打楽器から始める子が多いのです。
だけれども、しばらくやっていると他の楽器が演奏したくなり移ってしまう子がほとんどなのです。
ヨブラン君は早熟な男の子で、最初からトランペットを希望して演奏しているので、そのような風潮を少し皮肉った発言だと思います。」

Q:監督自身は、これまで音楽とどのような関わり方をしてきたのですか?

「私は5歳の時にバイオリンを始めて、25歳ぐらいまで続けていたのですが、その後は音楽家になるのではないけれども音楽に関わる仕事がしたいと思ってこのような仕事をしています。
夫も音楽家ですし、私の家族も音楽に造詣が深かったので、子供の時から音楽は空気のような存在でした。
ベネズエラとクラシックというのは、それまで私の中ではリンクするものではなかったので、エル・システマの存在を知り人間的な要素を知ったと思います。」

撮影期間は2年にも及んだとの事で、ヨーロッパでは、本作品をきっかけに音楽教育についての論議が起こっているそうだ。
Q&Aの時間が終了後も、監督の元には多くの観客が集まり、作品への質問や感想が寄せられていた。

(池田祐里枝)