開幕作レッドカーペットⒸ釜山国際映画祭
開幕作はパク・チャヌク監督『No Other Choice』(原題)。
左からイ・ビョンホン、イ・ソンミン、ヨム・ヘラン、パク・チャヌク監督、ソン・イェジン、パク・ヒスンⒸ釜山国際映画祭

韓国の「第30回釜山国際映画祭」では、イ・ビョンホンがオープニングセレモニーの司会を務めた。パク・チャヌク監督の新作『No Other Choice』の主演としてレッドカーペットを歩き、9月19日にはトークイベント「アクターズハウス」に登場して観客を沸かせた。

■パク・チャヌク監督の第一印象は「最悪」

イ・ビョンホン2
イ・ビョンホン

アクターズハウスでイ・ビョンホンは35年の俳優人生を振り返った。まず、自身のブレークのきっかけとなり、パク・チャヌク監督との初仕事となった『JSA』(2000年)について回想。「台本を渡されて『読んでほしい』と言われたが、初対面のパク監督はポニーテール姿。個人的にその髪型が嫌いなので印象が悪く、この人とは一緒に仕事をしないだろうという予感がした」と驚きのエピソードを披露した。結局イ・ビョンホンは『JSA』に出演し、当時としては破格の500万人以上の観客を動員したことはよく知られたとおりだ。

『No Other Choice』はパク監督との久しぶりの現場となったが、今回も多くの気づきを得たという。「私に監督をしてみろという提案もあるが、パク監督のディテールへのこだわりを見ていると、あのような作業は自分には無理だと思う。また、パク監督のアイデアは単に面白くするだけではなく意味を込めたクリエーティブなもの」と称賛した。

■グローバル俳優として

アクターズハウス会場
大盛況のアクターズハウス

演技の技術に話題が及ぶとイ・ビョンホンは「方言や英語のせりふは言葉を頭で考えていると感情表現ができない。言葉が口から自然に出るように練習しなければならない」と即答。どんな役柄も自分のものにして説得力を持たせるイ・ビョンホンだが、その演技力の陰にはたゆまぬ努力があったのだ。

2009年に『G.I.ジョー』でハリウッドデビューを果たし、現在もNetflixのドラマシリーズ『イカゲーム』などグローバルに活躍するが、海外での活動はいまだに慣れず緊張するという。2016年にアメリカのアカデミー賞でプレゼンターを務めた際、イタリアの名優アル・パチーノとの食事の席で「オスカーの授賞は緊張する」と言ったところ、「カメラの前で別のキャラクターを演じるように」とアドバイスされたそうだ。その言葉を胸に本番に臨んだものの、「マイクの前で『こんにちは、イ・ビョンホンです』とあいさつすると、結局自分のことなのでキャラクターが作れなかった。舞台で緊張するのは演劇の経験が少ないからかもしれない」と、笑いを交えて語った。

『G.I.ジョー』のオファーがあった頃はキム・ジウン監督の『グッド・バッド・ウィアード』、フランス映画の『アイ・カム・ウィズ・ザ・レイン』のオファーと重なり、どの作品を選ぶかで悩んだというイ・ビョンホン。監督たちに相談すると、パク・チャヌク監督には「やってみたら?」、キム・ジウン監督には「やめておけ」と言われ、悩みはさらに深まった。最終的にはすべて出演することになったが、どれもアクションが必要な映画で、人生の中で最も肉体的に大変な時期を過ごしたという。

■演技指南もイ・ビョンホン流

イ・ビョンホン1

質疑応答では、演技を専攻する学生が「表現をうまくできないときにどうすればいいか」と質問した。イ・ビョンホンは「まずは緊張を解くこと。緊張すると限度が生まれてしまう。ストレッチや軽い運動をするとか、スタッフと親しくなって冗談を言い合うとかして不自然な雰囲気をなくす。それから感情を出すとやりやすい」とアドバイス。さらに「テレビドラマでは、あまりはっきり感情を見せると時には過剰になりかねないが、映画は感情を出せばそのまま観客に伝わる。あまり何かを見せようとすると観客は違和感を覚えるかもしれない」と演技論を展開した。

また「俳優は“待つ“職業。1つの作品が終わったら、次にいつオファーが来るかわからない。待っている間は何かを準備する時間。英語などを学んで、キャラクターづくりのために小説も読む。休む暇がないのが俳優だ」と熱っぽく語った。

トークの終盤には食の嗜好も明らかに。MCが「チェユクポックム(豚肉の甘辛炒め)が好物と聞いているが」と振ると、「釜山に来て3日目だが、もう2回食べた」と会場を笑わせた。

アクターズハウスは人気と実力を兼ね備えた俳優を1人ずつ招き、じっくりと話を聞く釜山映画祭の人気プログラム。今年は他にソン・イェジン、キム・ユジョン、二宮和也も登壇した。

(レポート&撮影:芳賀恵)
※「Ⓒ釜山国際映画祭」表記以外の撮影は全て芳賀恵