生と死の間にある“ゾンビ”という穏やかな選択肢──佐藤智也監督『DEAD OR ZOMBIE ゾンビが発生しようとも、ボクたちは自己評価を変えない』

映画『DEAD OR ZOMBIE ゾンビが発生しようとも、ボクたちは自己評価を変えない』が、北海道国際映画祭の招待作品として、2月14日(土)15:30から 倶知安町(くっちゃんちょう)文化福祉会館大ホールにてワールドプレミア上映となる。
その後、2月21日(土)よりK’s cinema他にて劇場公開が予定されている。
短編から長編へ進化を遂げる
2019年製作の日中韓合作映画『湖底の空』でゆうばり国際ファンタスティック映画祭2020グランプリを受賞した佐藤智也監督。次回作支援金と文化庁のコロナ禍支援策(AFF)を活用し、42分の短編『DEAD OR ZOMBIE ゾンビが発生しようとも、ボクたちは自己評価を変えない』を完成させた。
本作はゆうばり国際ファンタスティック映画祭2022にてプレミア上映され、ミニシアター公開を経て、現在はAmazon Prime VideoやU-NEXTで配信中だ。
短編制作から3年。構想段階ではオムニバス風の長編だった企画に沿って、残りのエピソードを映像化し、1本の長編作品として完成。それがこの度公開となる『DEAD OR ZOMBIE ゾンビが発生しようとも、ボクたちは自己評価を変えない』だ。
覚醒しないヒロインにゾンビ志願の少女

短編から引き継がれたのはエピソード1。主人公は、引きこもりの女子高生・早希だ。ドローンが投下する最低限の水と食料を受け取り、ゾンビとなった家族と同居する彼女の日常が描かれる。
ゾンビ映画のフォーマットに従うなら、感染者は排除される存在で、主人公は脱出や再生へと駆り立てられる。しかし、早希はありがちなヒロインとして覚醒することもなければ、自己肯定感を急激に高めることもない。彼女はあくまで「自己評価を変えない」まま、世界の終わりを日常として受け入れる。
そんな早希を演じたのは倉島颯良。「ちゃおガール2012☆オーディション」準グランプリを受賞し、2014年から3年間さくら学院に所属した。

長編の流れは、感染拡大前夜の若い夫婦を描くエピソード0、その5年後にゾンビ研究のため日本へ派遣される中国人学者たちのエピソード2、そして隔離地域へ戻る早希とゾンビ志願の少女を描くエピソード3として紡がれる。
もう一つの主役でもあるゾンビは、特殊メイク第一人者の江川悦子(メイクアップディメンションズ)が手掛けている。
観客の予想を静かに裏切る異端のゾンビ映画

本作は、『湖底の空』に続いて多国籍キャスティングによって、国籍も立場も異なる登場人物たちが描かれ、パンデミック状況下における国家と個人の関係性を浮かび上がらせる。また、ゾンビがレイシズムとは無縁であることも。
印象的なのは、ゾンビをセンセーショナルに扱わない演出だ。歩くゾンビは、佐藤監督の原体験だというジョージ・A・ロメロ監督の『ゾンビ』に倣っている。しかしロメロ版よりはるかに敏捷性に劣る彼らは、人の肉を求めるが、簡単にかわせるほどのスピード感でしか動かない。
静謐に満ちた夕暮れの中、遠景に2体のゾンビが奇妙なダンスに興じているかのような場面は、あまりにも美しい。
本作は、ジャンル映画としての緊張感やカタルシスを期待する観客の予想を静かに裏切る。描かれているのは「日常にゾンビがいる風景」だ。
ゾンビという第3の選択肢
佐藤監督は「生きるか、死ぬか、ゾンビになるか。選択肢が多いほうが人生は豊かなはずだ」と語る。
早希が描く可愛らしくもどこか諦念が漂うイラストには、多くの人が生き辛さを覚える現代、マグマのように滞留する自己否定の感情が反映されている。「自己肯定感を高めるべき」「前へ進もう」「克服せよ」──そういった社会的価値観から距離を置き、「そのままでいる」ことを淡々と受け入れる早希の選択と、ゾンビという第3の選択に優劣はなく同等に尊重される。

また、ゾンビに憧れる少女(涼井菜生)の存在も重要だ。彼女にとってゾンビは恐怖ではなく、別の生き方そのものである。阿部力が演じる研究者は絶望的な状況の中、仕事と祖国に残してきた家族の間である決断へと向かう。
消費社会、パンデミック、格差対立など社会不安のメタファーとして機能してきたゾンビ映画。本作では、ゾンビという第3の選択肢に現代的なリアリティがある。シンプルな衝動で動くゾンビは、様々な制約に支配され削られる社会生活からすれば穏やかな生活と言えるかもしれない。ゾンビが歩く風景の中で、私たちは自己評価と静かに向き合うことになるだろう。
(Text:デューイ松田)
上映情報
東京都/K’scinema 2/21(土)~
連日20:30回上映後舞台挨拶あり
・2/21(土)倉島颯良 、涼井菜生 ※上映前
・2/22(日)テイ ハ、ジョン ハオ、ゴ カン、サイ ツキ
・2/25(水)涼井菜生
・2/26(木)紀那きりこ、宮澤寿
・2/27(金)倉島颯良
栃木県/小山シネマロブレ 2/27(金)~
京都府/アップリンク京都 3/13(金)~
大阪府/シアターセブン 3/14(土)~
栃木県/宇都宮ヒカリ座 5/1(金)~
※2/13現在
映画『DEAD OR ZOMBIE ゾンビが発生しようとも、ボクたちは自己評価を変えない』作品情報
【キャスト】
倉島颯良 みやべほの 紀那きりこ 宮澤寿 程波 阿部力 涼井菜生 和田光沙
松村光陽 大西多摩恵 吉川勝雄 上村愛香 長谷川千紗 石川秀樹 ジョン ハオ 吴翰 斉玥 金光竜佑 小田原麗 中村朱貴 加藤伊織 村上秋峨 川村桜禾 Phillip Bachman Sergio Elias Liza Waldron Jasmine Rose
【スタッフ】
プロデューサー/吉田邦彦 熊谷睦子 アソシエイトプロデューサー/猪股祐一郎
ラインプロデューサー/玉置太郎 撮影・照明・編集/永野敏 録音/西田敬 古賀陽大
音楽/谷口尚久 歌唱/Cloe 音響効果・整音/谷口広紀 荒川翔太郎 井口勇
VFX/内田剛史 特殊メイク/江川悦子 特殊造形/工藤秀昭 イラスト/宇野晶紀子 ヘアメイク/山本仁美 碧池色抄浬 スタイリスト/濱田恵 宣伝デザイン/内海由 小林敦子
スチール/鈴木教雄 ロケーション協力/ぐんまフィルムコミッション
配給宣伝/ムービー・アクト・プロジェクト 配給協力/ミカタ・エンタテインメント 製作協力/アルゴ・ピクチャーズ ゆうばり国際ファンタスティック映画祭 ARTS for the future!
製作プロダクション/マレヒト・プロ
共同脚本/山本裕里子 監督・脚本/佐藤智也