Q:キャストたちの表情が見応えがありました。特に印象的だったのが、長澤さん演じる佳乃が
加瀬さん演じる坂下さんに前の会社を辞めた理由を聞くシーンでの二人の表情です。

是枝監督:坂下さんは辞めた理由を「ここは自分の居場所じゃないと思ったから。」と答えるんだけど、
この作品は“居場所”というのが重要なキーワードであると感じていて。佳乃は坂下さんのその言葉から、
すずがなぜ鎌倉にきたのかということに思いを巡らせたんじゃないかなというはなしをを長澤さんには伝えました。

樹木さん:この映画は人の器がどんどん広がっていく経緯が自然に撮られていると感じますね。

Q:樹木さんは直近で『あん』に出演されていて違う役を演じられていますが、
役の切り替えなどは大変ではないですか?

樹木さん:そんなの簡単よ!一日寝れば治ちゃうもの(笑)

Q:少ないながらも樹木さんが登場するシーンがとても印象に残りました。

樹木さん:ちょっとの役ならということで出演させていただきました。
映画を観ていて思ったのが、この家は女で土台がつくられているという気がしたわね。結局家っていうのは女の出来なんですよ。
だから、大竹さんをキャスティングしたのは監督は上手だなと感じたわよね!この人だったらあー壊れていくなってわかるもの(笑)

是枝監督:演技がね!大竹さんの演技がそう感じさせてくれていましたね!樹木さん演じる叔母さんが、家におはぎを持ってくるシーンで、
幸に楔をうつところがあるんだけど、そこが大事だと感じました。あと法事のシーンでは、すずにはじめて会った叔母さんが
すずにあれこれ聞いてそれを幸にたしなめられると「いろいろ大事なことよ」って扇子でポンと叩くシーンがあって、そこが個人的に好きです。

樹木さん:あら、そうだったの?本人が演じていてもわからないものね(笑)

Q:映画の中でお気に入りのシーンはありますか?

樹木さん:私はお風呂上りのすずちゃんがバスタオルをバッと広げて扇風機に当たるシーンが気持ちよさそうと思ったわね。

是枝監督:法事が終わって、四姉妹と叔母さんとお母さんとみんなで家に帰ってきて、それぞれ行動するワンカットが好きです。
みんなそれぞれ動きがすごくうまくいっていると思っています。

樹木さん:あそこに実際に住んでいる感じがするものね。生活が染み付いている感じがでていた。大勢になればなるほどうまくいくのよね。

Q:この作品を他の監督には撮らせたくないと思ったということを仰った是枝監督のインタビューを拝見しました。

樹木さん:それはそうですよ!監督はね、綺麗な人がでてくるのが好きなんですよ!

是枝監督:まぁそれもあるんですが・・・(笑)僕は原作が大好きなんですが、一巻目に描かれている、法事が終わった後に
四人で高台に上るシーンがあるんですが、そのシーンをみて、これ映画だ、と思ったんです。それで、絶対これだれかが映画にするなと
。誰かにされる嫌だと思って、自分で手を挙げました。

樹木さん:私はちょっと前から監督と知り合いですけど、この方はあまり欲を露にしないのよね。
人間的にみんなに好かれる監督なわけなんだけど。今の話を聞いてとっても面白いわね(笑)

Q:映画を観ていて何度も笑ってしまいました。カンヌでも笑いがおきましか?

是枝監督:浜田店長の登場シーンや、酔っ払ったすずをみて、姉たちが顔を見合わせるシーンとかはカンヌでも笑いが起きていましたね。
コメディ作家ではないのですが、そうやって笑っていただけるのは嬉しいですね。

樹木さん:笑いっていうのはその人の気持ちがわかったときに笑える、というのが上質な笑いよね。

Q:「風とロック」でレキシの池田さんと対談されていましたね。それが池田さん出演のっきっかけなのでしょうか?

是枝監督;そうなんです。箭内道彦さんに誘われて野音にいったときに、メロディももちろんいいんですが、トークがすごい面白くて(笑)
キャスティングを考えたときに、きっと彼ならやれるだろうと思って声をかけさせてもらいました。

Q:花火大会の日に浴衣を着たらといわれて着ないと言っていたすずが結局当日は浴衣を着ていたんですが、
その心境の変化は撮影していたけどカットしていたりするのですか?
是枝監督:撮影は特にしていなくて、まぁ、こうゆうことってあるよねって感じで。
多分出かける前に玄関でお姉ちゃんたちに絶対着たほうがモテるよーとか言われたんだと思うんですよね。

樹木さん:普通若い子だったらもっと明るい色を着るんでしょうけど、
おばあちゃんの浴衣だから色がとっても地味なのよね(笑)そこが面白かったわね。

Q:綾瀬さんと長澤さんは『世界の中心で愛を叫ぶ』でドラマと映画で同じ役を演じられているのに、
今回の役は二人が間逆の性格だったので驚きました。監督の中でそういったことは意識されなかったのでしょうか?

是枝監督: 今までやった役がどうこうっていうのは考えないですね。綾瀬さんとはこの映画の企画が始まる前に一度お会いしていて、
TVでみるような印象とは違って、所作も美しくてしゃんとしている凜とした方だなと感じたんです。だから長女は彼女だなと。
佳乃は幸が“死”の側に近いとしたら対照的に“生”の役割を担っているので、だれかなと考えたときに『奇跡』でも少しでてくれた
長澤さんを思い出して決めました。

Q:この映画はいろんな人たちのエピソードが繰り広げられていく原作と違い、幸とすずを中心としたエピソードとなっていますが、
惜しくもカットしたシーンなどはあったのでしょうか?

是枝監督:カットすべきショットだからカットしているのであって、惜しくもというのはあまりないですね。
あえてあげるなら、幸がすずの前髪を家の庭で切ってあげていて、それを佳乃と千佳が縁側から眺めているというシーンがあって、
そこはいいシーンだったんんだけど編集していたら合わなかったのでカットしました。

樹木さん:そういうカットしたシーンも役者にとっては糧になるから無駄ではない。ということにしましょう(笑)。

最後の質問者としてあてたお客さんが樹木さんの大ファンだということで、その好きな気持ちをぶつけられると樹木さんは
「なんだか最後にこんなに褒められちゃうと私が仕込んだみたいね(笑)」と話し、笑いを誘いました。
最後に是枝監督より樹木さんへ一言。

是枝監督:樹木さんは、大好きな役者さんではあるのですが厳しい方なので、現場にはいるとき、脚本をみせるとき、
完成した映画を観ていただくときにちゃんとしたものをつくっていると思っていただかなければという気持ちになります。
是非また出てください!

以上。