本作は、今年初めに開催された第86回アカデミー賞授賞式にてスパイク自身、初のオスカー獲得となる脚本賞を受賞し、作品賞を含む5部門にノミネート。
ゴールデン・グローブ賞、ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞ほか世界中の賞レースで
全45部門を受賞、73部門にノミネートされるなど、数々の映画賞を席巻し、世界中から絶賛を浴びております。

人間と人工知能との恋という異色のラブストーリーながら、恋する気持ちを丁寧に描き、批評家や試写会で観た観客から「共感した!」「感動した!」「泣けた!」などの感想で大絶賛されている本作。この度公開を直前に控え、映画公開記念として日本初のライブストリーミングスタジオ兼チャンネルDOMMUNEにて特集番組を放送。

文筆家の五所純子を司会に、社会学者の宮台真司、現代アーティストのエリイ(Chim↑Pom)、映画解説者の中井圭、「DOMMUNE」代表の宇川直宏(声の出演)と、本作を愛する豪華ゲストが集結し、スパイクの手がけたプロモーションビデオも含めスパイク・ジョーンズの魅力についておさらいするとともに、本作の魅力や、見どころ、テーマについて語っていただきました。

『her/世界でひとつの彼女』公開記念DOMMUNE特番 詳細

実施日:6月18日(水)
会場:DOMMUNE (〒150-0011 東京都渋谷区東4-6-5 ヴァビルB1F)
ゲスト:宮台真司、エリイ(Chim↑Pom)、中井圭、宇川直宏(声の出演) ※敬称略・順不同
司会:五所純子

番組では、ミュージックビデオからスタートしたスパイク監督のこれまでの歩みや変遷を、実際のMV作品を通して分析したほか、映画監督としての過去作品『マルコヴィッチの穴』『アダプテーション』『かいじゅうたちのいるところ』、そして注目の『her/世界でひとつの彼女』に対するそれぞれの評論を展開。
「(『マルコヴィッチの穴』『アダプテーション』の)チャーリー・カウフマンの脚本から離れたことによって、スパイク・ジョーン監督の作品はダメな主人公から凄い主人公に変わった」と評する宮台は「今回の映画のパターンはギリシャ悲劇に似ている。“所詮社会や人間はこんなものだ”としながらも、“でも三文小説的ドラマがあること自体が奇跡。だから世界は素晴らしい”と言っているように」と本作にある伝統的モチーフを紹介する。

中井はジョーンズ監督が2010年に製作したロボットの恋愛を描いた短編「I’m Here」を引き合いに出して「スパイク監督が単独で書いた脚本で、自己犠牲をモチーフに非人間の愛を自分なりに解釈した作品。
『her/世界でひとつの彼女』にとっては重要作です。だからこそ『her/〜』を観たときに一歩突き進んだと感じた」とスパイク監督の成長を強調。さらにセオドアが愛したAI(人工知能)型OSの声はスカーレット・ヨハンソンではなく、当初サマンサ・モートンの予定だったと明かしながら「でもスカーレット・ヨハンソンのかすれ声こそがポイント。機械ならば完璧な声は出せるはずなのに、あえてそこをかすれ声にしたことによって機械と人間の境目が見えなくなるような演出をしている。
サマンサ・モートンでは意味合いが違ったはず」とキャスティングの妙を語った。

一方、エリイが「AIとのセックスシーンには驚いた」と劇中に登場する、映画史に残るであろう本作のラブシーンに話を向けると、宮台は「声でセックスするのは基本中の基本。
セックスの本体は体なのか、声なのか、そこは重大な問題で僕は声が大事だと思う」と持論を展開。
宇川も「バーチャルセックスを扱った場合、ダッチワイフのようにフォルムはあるけれど中身がないというのは設定が多い。でも今回の場合、フォルムはないけれど中身はある。まさにスパイク監督がこれまで描いてきた着ぐるみや操り人形のモチーフにも繋がっている」と本作が過去作と地続きである点を強調。そんな中、エリイが「ネットワークは網状になっていて、たくさんのネットの世界があると人格が生まれるという話を聞いたことがある。今回もネットワークを超えたところに、人間の脳のようなものが生まれるということなのかな?」と考察する一幕も。

最後に宇川は「つまりは、いつかは朽ち果てる物質世界と残り続ける意識世界の2つの愛の物語。
『She』ではなく『her』というのも意味深ですよね」と本作を総括し、2時間を超えた熱きトークショーは「もう終わり?」「まだまだ喋れるのに」などの名残惜しみの声が聞こえる中で幕を閉じた。