第66回カンヌ国際映画祭便り【CANNES2013】18
映画祭11日目の25日(土)。 “コンペティション”部門の正式上映も今日が最終日となり、巨匠ロマン・ポランスキー監督の『ヴィーナス・イン・ファー』とジム・ジャームッシュ監督の『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』が登場。また、短編コンペティション部門の出品作10本の正式上映も11時&15時の2回に渡って行われた。
◆巨匠ロマン・ポランスキー監督の『ヴィーナス・イン・ファー』は戯曲を映画化した2人芝居!
2002年の『戦場のピアニスト』でパルムドールに輝き、(米アカデミー賞では監督賞&脚色賞&主演男優賞:エイドリアン・ブロディの3賞を受賞)した大御所監督ロマン・ポランスキーのコンペ参戦作『ヴィーナス・イン・ファー』は、マゾッホの小説「毛皮を着たヴィーナス」にインスパイアを受けたアメリカの劇作家デヴィッド・アイヴスによる同名舞台劇の映画化で、デヴィッド・アイヴス自らが脚色している。
パリのとある劇場で主演女優のオーディションを1日中続けていた演出家のトマは、お粗末な演技ばかりを見せられてウンザリ。収穫がなく、徒労感に襲われながら帰り支度をする彼の前にヴァンダという女優が現れる。見るからに下品でがさつな彼女は、まさにトマが嫌悪するタイプ。嫌々ながらもヴァンダにチャンスを与えたトマだが、演技を開始した彼女の豹変ぶりに愕然となり……。
本作はロマン・ポランスキー監督にとって、前作の『おとなのけんか』(2011年)に続く戯曲の映画化で、完全な2人芝居。オーディションで台本の読み合わせをし始めた演出家と女優の力関係が、やがて逆転していく過程を濃密かつスリリングに描いた心理劇の秀作で、マチュー・アマルリックとエマニュエル・セニエ(ポランスキー監督の妻)の熱演とカメラワークが光る密室劇だ。
朝の8時半からの上映に続き、11時から行われた公式記者会見には監督のロマン・ポランスキー、脚本のデヴィッド・アイヴス、撮影監督のパヴェル・エデルマン、作曲家のアレクサンドル・デスプラ、プロデューサー3人、主演したマチュー・アマルリックとエマニュエル・セニエが出席。波瀾万丈の人生を歩んできた名匠(今年の8月で80歳!)が登壇するとあって会見場は瞬く間に満杯となった。
昨年、『テス』(1979年製作)が、“カンヌ・クラシック”部門で上映された際に、新作の製作依頼を受けて即決し、初のデジタル撮影に挑んだというロマン・ポランスキー監督は、「実は、フランスで撮影を行ったのも初めてなんだ。劇場内部はセットで、外観は実在するシアターで撮っている。戯曲を読み、これはエマニュエルにぴったりの作品だと思ったよ。彼女がキャラクターを上手く演じるためには、フランス語でなければならなかったのさ」と語り、愛妻ぶりを垣間見せた。
一方、18日(土)の『ジミー P.』の公式記者会見に続き2度目の登壇となった売れっ子俳優のマチュー・アマルリックは、本作の魅力を「登場人物が2人ではなく、4人ではないかと思えるような劇的な展開と鳥肌がたつほどの心理合戦だよね」とコメント。
◆掉尾を飾るジム・ジャームッシュ監督の『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』はヴァンパイア映画!
1984年に“監督週間”で上映された『ストレンジャー・ザン・パラダイス』でカメラドールを獲得したジム・ジャームッシュ監督は、続く1986年の『ダウン・バイ・ロー』でコンペに初参戦。1989年の『ミステリー・トレイン』で芸術貢献賞、1993年の『コーヒー&シガレット3』で短編部門のパルムドール、2005年の『ブロークン・フラワーズ』ではグランプリを受賞した。アメリカ・インディーズ映画界の雄にしてカンヌの常連監督であるジム・ジャームッシュの8年ぶりのコンペ出品作となった『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』は、現代社会に生きるヴァンパイアのカップルの姿をダークなユーモアで彩ったミステリアスな物語で、アメリカのデトロイトやモロッコのタンジールなどでロケをしたスタイリッシュな映像が出色だ。
アングラ・ミュージシャンに身をやつし、人間界で暮らしているヴァンパイアのアダム(トム・ヒドルストン)は、昨今の人間たちの行動を憂いていた。ヴァンパイア仲間で、彼の恋人でもあるイヴ(ティルダ・スウィントン)とは、つかず離れずの関係を数世紀に亘って続けている。だが2人の前に、奇矯な言動を繰り返すエキセントリックなイヴの妹エヴァ(ミア・ワシコウスカ)が現れ、穏やかな生活を脅かされた2人は……。共演はジョン・ハート、アントン・イェルチンら。
夜の正式上映に先立ち、13時から行われた公式記者会見には、監督&脚本したジム・ジャームッシュ、プロデューサー2人、俳優のトム・ヒドルストン、ティルダ・スウィントン、ジョン・ハートが登壇した。
7年ほど前からヴァンパイアのラブストーリーを構想し始めたというジム・ジャームッシュ監督は「その直後からティルダには話を持ちかけていた。なかなか資金調達できずににいたが、彼女は諦めず、絶対にこれは製作にすべきよと励まし続けてくれた。そうこうしているうちに昨今のヴァンパイア映画のブームが起きてしまったんだよ」と述べた後、「鏡やニンニクなどの伝統的なヴァンパイア映画のお約束事は用いず、“手袋”を意味深に使ったりしたのは、ヴァンパイアを洗練された“クリーチャー”として描きたかったからさ」と言い添え、従来の吸血鬼映画とは一線を画していることを強調した。
また、オスカー女優のティルダ・スウィントンは「私たちは皆ヴァンパイアに魅了されています。それは永遠の命を持っているからです。この映画で好きなところは、命の考え方と目に見えない仕事の考え方ですね」とコメント。人気急上昇中の英国俳優トム・ヒドルストンは「憂いやロマンティックな性格を持つ人物を演じられて楽しかったです。この映画は愛し合い、受け入れあう2人の素晴らしい物語です。不死という状況下における“愛”を深く描いているんです」と語った。
(記事構成:Y. KIKKA)