第66回カンヌ国際映画祭便り【CANNES2013】10
映画祭6日目の20日(月)。“コンペティション”部門では、三池崇史監督の『藁の楯』、フランスを拠点にして活躍する女優ヴァレリア・ブルーニ・テデスキが母国イタリアで撮った『ア・キャッスル・イン・イタリー』が正式上映。招待部門ではフランスの人気俳優ギョーム・カネの長編監督4作目『ブラッド・タイズ』とアメリカの俳優アレック・ボールドウィンをフィーチャーしたジェームズ・トバック監督のドキュメンタリーが上映。“ある視点”部門にはハリウッド・スター、ジェームズ・フランコが、ウィリアム・フォークナーの小説を自ら出演&監督して映画化した『死の床に横たわりて』とパレスチナ映画『オマール』が登場し、“カンヌ・クラシック”部門では、ルキノ・ヴィスコンティ監督の『家族の肖像』(1974年)とアラン・レネ監督の『二十四時間の情事』(1959年)が上映されている。
◆3年連続でカンヌ出品を果たした三池崇史監督、今年はサスペンス・アクション『藁の楯』でコンペに参戦!
一昨年は時代劇の『一命』がコンペに選出され、昨年は『愛と誠』が“ミッドナイト・スクリーニング”部門で上映された三池崇史監督。今回、コンペに選ばれた『藁の楯』は、木内一裕の同名小説を映像化したサスペンス・アクション大作だ。
日本の財界を牛耳る大物・蜷川隆興(山?努)の孫娘が惨殺された。容疑者は8年前にも少女への暴行殺人を起こして逮捕され、出所したばかりの清丸国秀(藤原竜也)。彼は全国指名手配され、警察による捜査が続いていた。そんなある日、大手全国紙に「この男を殺してください。御礼として10億円お支払いします」という前代未聞の見開き全面広告が掲載された。それは、並外れた財力とコネクションと実行力を持つ蜷川の、周到に練られた復讐の始まりの合図だった。「誰の目にも明らかな『人間のクズ』を殺せば、10億円が手に入る!」と、日本中がにわかに殺気立つ中、観念した清丸国秀が九州の福岡で自首をする。警視庁警護課SPの銘苅一基(大沢たかお)と白岩篤子(松嶋菜々子)は懸賞金を懸けられたままの清丸を東京の警視庁まで護送する任務を命じられるが……。凶悪犯の護送ミッションを担うSPたちを待ち受ける過酷な闘いと葛藤を大スケールで描き出した本作は、日本でも公開中の娯楽大作だ。
夜の正式上映に先立ち、11時から行われた公式記者会見には、三池監督、大沢たかお、松嶋菜々子が登壇した。
三池監督は本作について「人間を描く場合、その全ての面を見せたい。これは警官と犯罪者の物語ですが、彼らはそれぞれに私生活や日常を持つ、我々と変わらない人間。それを描いた結果、縦社会、日本社会で解決しづらい問題が自然に浮き彫りになった」とコメント。
台湾の高速鉄道でのロケ撮影に関しては「JRは新幹線を貸してくれないから(笑)。まあ安全に列車を運行するのが彼らの仕事だからね」と理解を示しつつ、大いに協力してくれた台湾当局に謝意を表明、「今、東京ではパトランプをつけて走るのも現実的には不可能で、地方で撮影しなくちゃいけない。映画を作る側の人間にとって、東京は生きにくい場所になった。もう少し変わっていってくれたら……」と映画作りの環境の改善を呼びかけた。
また、小説では男性の設定であった役柄を演じた松島菜々子は「小説と異なるのは、新しい要素をもたらすことなので、良いことだと思います。私の演じる人物は女性警官であり、犯罪者に対して厳しい目を持っています。でも、それは仕事の面においてだけで、普段はふつうの母親なんです」とコメント。一方、大沢たかおは、「登場人物がそれなりの正義、見方を持っていると思います。で、それぞれが内に正義と悪を抱えている。それがぶつかりあって、微妙なバランスを保っているのが、社会そのものかと。でもその均衡が、事件や刺激により、あっという間に歯車が狂うのが、世の中なんだと考えました。そういう意味で、そんな状況になったらどうするのか、自分自身も問われているような気持ちで演じました」とコメント。
◆人気俳優のギョーム・カネが、かつて自身が主演したクライム・サスペンスを監督&脚色してリメイク!
フランスの人気俳優で、監督としても評価の高いギョーム・カネが、ハリウッドに渡って撮った初の英語作品『ブラッド・タイズ』の公式記者会見が14時15分から行われた。本作は、2008年にカネがフランソワ・クリュゼと共演したジャック・マイヨ監督の『Les Liens du sang』の舞台をアメリカに移してリメイク、豪華キャストで描いたクライム・サスペンス。
1974年のNY、ブルックリン。殺人罪の刑期を終えて出所したギャングの兄を温かく迎えた弟。彼は将来を嘱望される刑事で、兄の更生を見守ろうとするが、昔のしがらみから逃れられない兄は……。主演はクライヴ・オーウェン(兄役)とビリー・クラダップ(オリジナル版でギョーム・カネが演じた弟の役)。
カンヌの常連であるアメリカのジェームズ・グレイ監督(今回も『ザ・イミグラント』でコンペに参戦!)がギョーム・カネと共同で脚色に当ったことも話題となった本作の公式記者会見には、カネ監督とプロデューサー、そしてクライヴ・オーウェン、ビリー・クラダップ、マリオン・コティヤール、ゾーイ・サルダナ、ジェームズ・カーン、リリー・テイラー、ノア・エメリッヒ、ドメニク・ランバルドッツィと出演俳優が大挙して出席。
米国での撮影の困難さを問われたカネは「常連のスタッフを全て連れて行くわけにはいかなかったので、現地のスタッフの信頼を得ることが必要だった。全くルールの異なるボールゲームを行ってるみたいだったね。事前許可がなくては、好き勝手に撮影はできないし、エキストラに指示することすら無理。でも実際には、これらの制約以上に、俳優たちと本当に素晴らしい関係を構築することができたよ」と満足げにコメント。NYの描写については「70年代のニューヨークを再現したかったんだが、リサーチする中で、当時と比べて今がどれほど激変したのかを知った。なので、衣装、照明、セットを駆使して描写していった」という。
(記事構成:Y. KIKKA)