第66回カンヌ国際映画祭便り【CANNES2013】7
運悪く、最悪の天候となった18日(土)。12時半から我らが是枝裕和監督のコンペ出品作『そして父になる』の公式記者会見に出席した(プレス向けの試写は昨夜の19時から&22時からの2度、上映されている)。
◆現地入りしたのは是枝裕和監督、福山雅治、尾野真千子、真木よう子、リリー・フランキーと子役の2人!
2001年の『DISTANCE』、2004年の『誰も知らない』(柳楽優弥がカン史上最年少で男優賞を受賞)に続き、3度目のコンペ参戦(2009年の『空気人形』は“ある視点”部門での上映)となる是枝裕和監督だが、本作『そして父になる』は、小学校受験真近い愛息が、実は出生時に病院で取り違えられた別の夫婦の子供だと知らされたエリート・ビジネスマンの葛藤と苦悩、そして彼の成長を繊細な演出で描いた家族ドラマだ。
学歴、仕事、家庭と全てに恵まれ、自分は人生の勝ち組だと信じて疑わなかった良多。だが、ある日病院からの連絡で、これまで6年間も赤の他人の子供を育ててきたことが判明する。愕然とする良多だが、相手側の夫婦と面会し、様子見で家族ぐるみの交流を始めることに。だが、血の通わない息子に変わらぬ愛情を注ぐ妻と、決して裕福でもないし粗野だが気さくで明るい相手側の家族とのふれあう中で、“父親”としての自分の姿を問い始めた良多は……。親子の絆という普遍的なテーマを扱っている上に、方や高層マンションに住むエリート・サラリーマン夫婦で教育熱心、もう一方は地方都市に暮らす放任主義の電気屋夫婦という判りやすい構図のためか、昨夜のプレス試写での反応も好感触であった。
公式記者会見には是枝裕和監督と良多役の福山雅治、妻役の尾野真千子、そして相手側の夫婦を演じたリリー・フランキーと真木よう子、そして子役の二宮慶多と黄升玄が登壇。海外プレスの注目度も非常に高く、子役から自然な演技を引き出した監督の巧みな演出法について等、質問が次々に飛び出し、まさに盛況であった。
是枝裕和監督は、“家族”という題材について「毎回、取り上げている訳ではありませんが、もっとも近い題材であることは確かですし、探究したいテーマです。両親は亡くなりましたが、子供が生まれて僕自身が父親になりました。ですから、自身の作品の中でこのテーマに関心を持つのは当然の成り行きでした」と述べ、主人公の良多については、「非常に自信家で傲慢な男という設定で始めました。そして彼の価値観を覆していこうと。そのコントラストを出すため、相手側の家族はこのように強いアイデンティティを持たせたんです」とコメント。
一方、主演した福山雅治は「実際に自分は父になったことがないので、このお話をいただいた際には、自分には似合わないのでは? 父には見えないのでは? と不安になり、是枝監督に相談したところ、『この作品はまさにそういう役だから撮影が進むにつれて少しずつ父親に見えてくればよいのでは』という言葉をいただき、理解を深めていきました。監督は、現場で見た人でないと、その凄さはわからないかも。子供たちには脚本を渡さず、口頭で演技付けするのですが、実に自然なんです。僕らの仕事は子供たちのリアクションを捉えること。是枝監督は、子供たちには撮影をほとんど意識させなかったんですよ」と撮影時の模様を振り返ってくれた。
◆『そして父になる』の正式上映は、11時半からのマチネと22時からのソワレ!
激しい雨が降りしきる中、『そして父になる』のソワレ上映(“正装で!”というドレスコードが有る)が、22時よりメイン会場のリュミエールで行われた。びしょ濡れとなったレッドカーペットには、現地入りした7人が仲良く手を繋いで登場。そして上映後は、満場の観客から約10分間にもおよぶスタンディング・オベーションが贈られ、是枝監督は感極まった表情を浮かべた。
カンヌ初参加の福山雅治はソワレ上映後、「大変感動し、泣いてしまいました。自分のことでというより、是枝さんおめでとう! という気持ちがこみ上げ、男泣きをしました」と興奮冷めやらぬ様子で語り、主演作にしてグランプリに輝いた2007年の『殯の森』に続き2度目のカンヌ入りとなった尾野真千子は、「日本の文化や気持ちなどが海外の方にも伝わるんだと知り、とても感動しました」とコメント。カンヌ初参加の真木よう子は、「じわじわと感動を実感しています」と述べ、同じくカンヌ初参加のリリー・フランキーは、「あんな風に多くの方と想いを共有できるなんて! 監督の背中を見て、自分も少しは協力できたのかなって思え、嬉しかった。今後、嫌なことがあったら、この日の映像を見て、あの時は良かった、輝いていたなって思い返すことにするよ」と満面の笑みで語った。
(記事構成:Y. KIKKA)