『ゆれる』『ディア・ドクター』の西川美和監督最新作、松たか子&阿部サダヲ初共演で贈る映画『夢売るふたり』が9月8日(土)いよいよ全国ロードショーとなります。
本作の公開を記念し、9月6日(木)に新宿ピカデリーにて、西川美和監督のデビュー作である『蛇イチゴ』の特別上映会と、西川登壇のトークショーを実施いたしました。

西川美和監督デビュー作『蛇イチゴ』特別上映&トークショー
【日 程】9 月 6 日(木) 21 時 00 分〜21 時 30 分
【場 所】新宿ピカデリー(シアター6)
【登壇者】西川美和監督 MC:森直人氏

2003年の公開時以来、約9年ぶりに処女作である『蛇イチゴ』を観た西川監督。
「自分の作った作品は観返さないですね。見たくないというか…。作ってすぐの頃は欠点のほうが目についてしまうんですが、今日9年ぶりに観てみると、客観的にというか、他人の作った映画を観ているような気持ちになりました。“役者さんが面白いなぁ。松之助師匠が本当にすごい!(劇中で)死なないでー!”と思ったり(笑)」。
そんな記念すべき処女作である『蛇イチゴ』には監督の“想い”がすべて詰まったものになっている?というMCからの質問に対しては
「“自分”というものは変わらないなぁと思いましたね。興味が変わらないんでしょうね。『夢売るふたり』は結婚詐欺を働く夫婦を描いた物語ですが、『蛇イチゴ』の宮迫さんも完全に詐欺師ですよね、エッジのきいた。過去作は今よりロジカルに作られているなぁと思いました。“誰に習ったんだろう?”って(※会場笑)。どんどん、輪郭が曖昧になってきている気がしますね。善悪というのは何なんだ、区分できるのか?というところからこの『蛇イチゴ』を作り出しているんですが、つみきさんの“善”と宮迫さんの“悪”がキレイに出ていると思いました。“嘘”と“本当”が言葉としてもハッキリ出ていたり。昔話とかお伽話のようですね。それぐらいわかりやすいストーリーラインがあるなぁ、と思いました」。
嘘?ホント?善か悪か?という相対するキーワードを、まるでメビウスの輪のようにつなげてゆく西川監督ですが、『蛇イチゴ』の宮迫さん、『ディア・ドクター』の鶴瓶さん、『夢売るふたり』の阿部サダヲさん(夫婦)と、共通して登場する“詐欺師キャラ”については
「デビュー作というのは自分のやりたいことが余すところ無く出るので…。宮迫さん演じる明智周治は、自分の中のヒーローですね。自分の中に棲んでいる、最も魅力的でかっこいい人というものを、明智周治という人物の中に描いたんだと思います。彼はダーティヒーローというか、現実世界には存在しないような人なんですが、『ディア・ドクター』を経て『夢売るふたり』と…少しずつ、“川の向こう側”にいる人をこっちに引き寄せています。『夢売るふたり』の阿部さんは相当“地続き”ですよね。普通の人間でしょ?どんどん翼をもがれていった明智周治というか」。
と、『夢売るふたり』で阿部サダヲさん演じる貫也が、詐欺を働くキャラクターでありつつも、身近で共感しやすい存在として描けたことを明らかにしました。

会場に集った観客はいずれも生粋の西川美和ファン。そんな観客から、西川監督への質問を募ったところ、<これまでは男性を主軸にした作品の中で描かれる女性に、同族嫌悪の意識を刺激されたり自己を省みたりして「なんかヤだな女って」と思わせられるところも魅力的だったのですが、今回は初めて女性を描くにあたって、どのような女性観で描かれたのでしょうか?>という、同性目線からの質問が。
「自分が女性だから、女に対して厳しくなるんですね。男性は異性だからどうしても甘く見てしまうというか。
宮迫さんは悪役ですが、(監督である)私が赦している部分がありますよね。やはり、自分が女であり、女のずるさや残酷さを、根っこの部分で知っているから、なかなか美化して描けないんですよね。美化してくださるのは男性監督にお任せして…。『夢売るふたり』も、同族嫌悪だらけですよ(※会場笑)。同族嫌悪の塊。でもそういうキャラクターを松さんにけっこう任しているんですけれど、結婚詐欺に遭う女性たちというのは、美しいとかカワイイとかキレイではないけれど、なんともいえない優しさや可愛さがあるんじゃないかと。そこは今回、新境地ではないかと思います。女性を暖かく描いてもいるので、それはたぶん今までやってきていないので、楽しみにしていてください」。

また<監督が「ウソ」か「ホント」か、「善」か「悪」か、というテーマを一貫して描いている監督が、少女時代に“これが原点”と呼べる本や絵、芸術作品はありますか?>という質問に対しては、「一つを挙げるというのは難しいですが…。本は好きですね。何年か前にNHKのBSの番組で映像化しているんですが、太宰治の「駆け込み訴え」という作品がすごく好きなんですね。ユダの一人称で書かれていて、キリストのことが憎い、憎いから売る、売ろうと思うけれど、彼のことを愛している、愛しているけれど憎い、という、色んな感情が整合性もなく一つの大きな波のがうねってはさざなみになるように…でも読んでみると、不可思議なところが一つもないんですね。“矛盾しているのが人間なんだ”と、“わからないのが人間なんだ、わからないから魅力的なんだ”と思った記憶があります。初めて「駈込み訴え」を読んだのは中学3年生ぐらいかな。多感な時期ですよね。その時に見たり読んだりしたものは人格形成にはずっと残っていくんじゃないかな。『夢売るふたり』はR-15指定なので残念ながら観ていただけないんですが、若い人たちに複雑なものを見せてぶつけていって、感想を聞きたいですね」。
と、10代の頃から既に現在の西川監督の“原点”があったと語りました。

「人間はわからないからおもしろい」というテーマを、さらに「人間最大の謎は、男と女」という、さらに一歩進めた形の問いを出発点にした『夢売るふたり』。イベントの最後に、監督は「同じ監督が作った作品か?と思いましたけれど…『夢売るふたり』では、また新しいことにもチャレンジしています。『蛇イチゴ』よりももっとモヤモヤになっています。人間というのはもっと複雑で、割り切れないものだ、ということを前面に押し出しているかもしれません。テイストは違いますが、是非劇場に足を運んでいただければと思います」。
というコメントで締めくくりました。