日本で生まれ育ち、黒澤明作品、宮崎駿作品をはじめ多くの邦画の英語字幕を手掛けてきたリンダ・ホーグランドの初監督作品『ANPO』。
『ANPO』は日本の基地問題が緊迫する現在、60年安保を知るアーティストの作品と証言を通して、日米の狭間で育まれた独自の視点から、日米関係の問い直しを迫るドキュメンタリー。
今回のトークショーではホーグランド監督が美術家の会田誠さん、写真家の石内都さんを連続でゲストに迎え、
映画でのインタビューの裏話や基地の背景を語った。

渋谷アップリンクでのトークショーでは、会田誠が「映画の中にも出てきた『紐育空爆之図(戦争画RETURNS)』(1996年)のようなブラックジョークの作品も、他のもっと解りやすいジョークの作品も、政治的な主張とは違う考えで作っている。政治や歴史をモチーフにした作品を作ってるくせに、語るのは苦手。でもこういう場(トークショー)に呼ばれるから、やりたくてやってる拷問みたいなもんなんですよ(笑)」と語り、会田誠と古くからの知人であるホーグランド監督は、

「私にとって会田さんは、物事を斜に見る“ジョーカー”みたいなイメージ。でもこの映画でインタビューしたらすごく真面目に答えるんでショックを受けましたよ(笑)」と語るなど、気心の知れた二人の会話に、終始会場は笑いに包まれた。

横浜シネマ・ジャック&ベティに場所を移して行われた写真家石内都とのトークショーでは、
会場からの「これだけの絵画と作家の方が集まると『朝まで生テレビ』みたいになるのかと思ったが、そうではなく、心地よく音楽を聴いているような感覚になれた」という感想にホーグランド監督は、「観た人に複数の答えが出て、自由に想像を喚起させられるような作品を作りたかったので、敢えて反戦などのメッセージは入れていない」と語り、石内都は「アートは反戦、平和が当たり前で、その基本がないアーティストはありえない」と語った。
また石内都は、基地問題に関して「沖縄で個展を開いたとき、初めて基地をリアルに感じた。75%の基地が沖縄に集中しているが、そのことを観念ではなくリアルに考えるかどうかは非常に重要。すぐそばに基地がある場所でいったいどう生活するのかを、基地に経済的に依存する人のことも含めて政府に考えて欲しい」と訴えた。

先日行われたトロント国際映画祭では、作品を観終わった観客から、映画に出てきたアートへの質問が相次いだという。ホーグランド監督はこの作品について、こう語った。
「基地問題や戦争体験を、どういった創作過程でアートとして表現するかは、人によって違いますよね。
安保条約が何だったのか、この映画を見ても具体的には分からないし、私がどうすればいいと思っているかも分からない。この映画は、現実から少し距離をとって、最終的には戦争という営みを人間がどうやって見つめ、
人間の心や表現の中に残るかを伝える作品にしたかった」。

映画『ANPO』上映館では引き続き関連イベントを開催。
20日(祝・月)には『この世の外へ
クラブ進駐軍』(2004年)で終戦後の日米関係を描いた映画監督の阪本順治さんが登壇し、ホーグランド監督とトークショーを繰り広げることになっている。

東京イベント開催概要
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日時:9/20(月・祝)19:30〜 上映終了後
会場:渋谷アップリンク
ゲスト:阪本順治(映画監督)×リンダ・ホーグランド監督 トークショー
料金:一律¥1,500 (割引と特別鑑賞券は当イベントではお使いいただけません。)

→ イベント詳細はこちら
http://www.uplink..co.jp/factory/log/003682.php