第63回カンヌ国際映画祭便り【CANNES2010】15
それでは、長編コンペティション部門の他の受賞作と受賞者のコメントをかいつまんで紹介!
●男優賞:エリオ・ジェルマーノ『アワ・ライフ』/ハビエル・バルデム『ビューティフル』
『アワ・ライフ』は、ナンニ・モレッティ監督の助監督を経て監督となったイタリアのダニエレ・ルケッティ監督が、ローマ近郊を舞台に父子家庭の父親の奮闘を描いた家族ドラマ(1991年の『Il Portaborse』以来2度目のカンヌ映画祭コンペ出品作)。妻に突然先立たれ、幼い子供3人を抱えて途方にくれる建設作業員の夫クラウディオを熱演した子役出身のイタリア人俳優エリオ・ジェルマーノは授賞式で「この作品をイタリアに捧げたいと思います」と喜びのコメント!
一方、大物監督とのコラボが多く国際的に活躍するスペイン人俳優であり、『ビューティフル』では、社会の底辺に生きる余命幾ばくもない男の悲哀と生への執着を生々しく演じて魅せたハビエル・バルデムは授賞式で、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督ら関係者に英語でひとしきり感謝の言葉を述べた後、スペイン語で「友であり、同志であり、恋人であるペネロペとこの喜びを分かち合いたい。君を愛してる」と客席にいた恋人ペネロペ・クルスに語りかけ、バルデムの母親と手を取りあっていたクルスは瞳を潤ませながら、バルデムに投げキッス!この熱い愛のやり取りの瞬間をまじかにした会場の観客の間からは歓声が沸き起こった。
●女優賞:ジュリエット・ビノシュ『サーティファイド・コピー』
『サーティファイド・コピー』は、カンヌ映画祭の常連監督であり、1997年の『桜桃の味』で最高賞パルムドールに輝いたイランの巨匠アッバス・キアロスタミが新境地の開拓に挑んだ意欲作で、イタリアのサン・ジミニャーノを訪れた英国人作家と、この地に暮らすフランス人女性との束の間のあやうい交流を描いたドラマ。今回のカンヌ映画祭のポスターにも起用されたフランスの大物女優ジュリエット・ビノシュは、この受賞により世界3大映画祭の女優賞を制覇(1993年の『トリコロール 青の愛』でヴェネチア映画祭女優賞、1997年の『イングリッシュ・ペイシェント』でベルリン映画祭女優賞を受賞)するという快挙を成し遂げた。
●審査員賞:マハマット=サレー・ハルーン監督『ア・スクリーミング・マン』
『ア・スクリーミング・マン』は、チャド共和国出身でアフリカを代表する監督マハマット=サレー・ハルーンが、ダルフール紛争や中国のアフリカ政策の影響を受け、内戦に苦しむチャドを舞台にして描いた人間ドラマ。屈辱と貧しさゆえに一人息子を兵士として差し出すことを選択した男の葛藤を言葉少なく、美しい映像で綴った作品で、マハマット=サレー・ハルーン監督は授賞式で、「チャドは何もない砂漠の国。だからこそ料理でも作るように、映画を作らなければならない」とコメント。
●脚本賞:イ・チャンドン『ポエトリー』
2007年のカンヌで『シークレット・サンシャイン』のチョン・ドヨンに女優賞をもたらし、昨年は長編コンペティション部門の審査員を務めた韓国の実力派監督イ・チャンドン自らが脚本を書いた『ポエトリー』は、アルツハイマーと診断された60代半ばの女性の魂の彷徨を描いたヒューマン・ドラマ。韓国の往年の名女優ユン・ジョンヒの15年ぶりのスクリーン復帰作としても話題を集めた作品で、ユン・ジョンヒは詩の市民講座に通ったことから、詩作に夢中になる主人公ミジャを熱演している。
(記事構成:Y. KIKKA)
〈第63回カンヌ国際映画祭〉長編コンペティション部門受賞結果
☆パルムドール:『ブンミおじさん』アピチャッポン・ウィーラセタクン監督
☆グランプリ:『オブ・ゴッド・アンド・メン』グサヴィエ・ボーヴォワ監督
☆監督賞:マチュー・アマルリック『オン・ツアー』
☆男優賞:エリオ・ジェルマーノ『アワ・ライフ』/ハビエル・バルデム『ビューティフル』
☆女優賞:ジュリエット・ビノシュ『サーティファイド・コピー』
☆審査員賞:『ア・スクリーミング・マン』マハマット=サレー・ハルーン監督
☆脚本賞:イ・チャンドン『ポエトリー』