映画『トロッコ』にみる親になれない親たちに渇!大宅映子×きむらゆういち×斎藤嘉孝×川口浩史
父親を亡くした家族が、雄大な自然のもと、それぞれが失いかけていた家族の絆を取り戻していく、川口浩史監督の長編デビュー作『トロッコ』がいよいよ5月22日よりシネスイッチ銀座他にて全国順次公開となる。
芥川龍之介の同名短編小説「トロッコ」を現代の台湾に舞台を移し、今最注目の女優、尾野真千子が、夫を亡くし、子育てに苦悩する母親役を見事に演じている。本作の公開に先立ち、子育てをする親たちが厳しい環境に置かれている現況について、子を持つ親たちを前にして、大宅映子氏(評論家)、きむらゆういち氏(絵本童話作家『あらしのよるに』原作者)、親子関係やコミュニケーションに関する調査研究、それに関連した福祉・教育制度の実証的検討および政策提言を行っている西武文理大学準教授の斎藤嘉孝氏と本作の川口浩史監督による【「トロッコ」にみる、親になれない親たち】と題したトークショーが行われた。
本イベントでは、親とは子供にとってどのような存在か、またどのような存在であるべきか。親の役目を果たせない親が増えてきている社会的背景を踏まえ、親と子供の最良の関係について意見を交わした。
大宅氏はまず、数年前から社会的な問題となっている横暴で自己中心的な親たち、俗にいう「モンスターペアレント」の事例を取り上げ、本来、親とはどのようなものであるべきかを述べた。「『うちの子供が写真の真ん中にいないことが許せない』とか『給食費を払っているのだから、食前の“いただきます”を強要させるな』とかトンデモないクレームが学校に寄せられています。あまりも子供に対して過保護すぎる。そうではなくて、もっと子供にいろんなことを体験させるべき。」
20数年に渡って絵画教室を開き、多くの子供と接してきたきむら氏は、常日頃、子供を子供扱いしないことを心がけているそう。「最初は子供とどのように接していいからわからなかった。でも試行錯誤を重ね、子供を子供扱いせず、一人の人間として捉えるようにした。」子供だけなく、大人でも楽しめる絵本を作り続けるきむら氏ならではの発想だ。
登壇者の中で唯一子供がいない斎藤氏は、親になれない親が増加している要因について、「今の親達は、いきなり親になります。小さい時から子供と触れあう機会がなかった親たちで明らかに経験不足です。しかし情報過多の社会で、色んな情報を入手することはできる。その結果、自分の子育ての方針が固まらなかったりする。」と、現在の子育ての難しさについて語った
川口浩史監督は撮影を振り返りながら、親と子供について、そして作品にこめた思いを吐露した。「緑豊かな大自然で暮らす台湾の家族を見て、親は子供に安心を与える存在でなくてはならないことを実感しました。そういう存在になりたいのになれない親達の後押しをしたい気持ちをもって作品作りに励みました。」
子供を持つ親の観客の前でそれぞれが独自の子育て論を繰り広げ、会場は終始、感嘆の声に包まれていた。