SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2008:長編コンペ『リノ』Q&A
恋人エミリーの突然の死。残されたのは、50歳の中年男とまだあどけない表情をした2歳の男の子<リノ>。リノは男を「パパ」と呼んでなつき、男も父親のように接するのだが、実はこの2人本当の親子ではない。男はリノを本当の父親の元に返そうとするのだが、うまくいかないことに苛立ち、いつしかリノにきつく当たるようになる。エミリーが残したこの2人が辿る道とは──。
上映後に行われたジャン・ルイ・ミレジ(監督・脚本)のQ&Aでは、質疑応答に限らず「本当にすばらしい作品で感動した!」「リノくんがかわいらしくて、すばらしい」など大絶賛の嵐。その観客たちの反応にうれしそうにほほ笑むミレジは、これまでロベール・ゲディギャン監督の右腕として『幼なじみ』『マルセイユの恋』などの共同脚本として名の知れた脚本家である。
本作では脚本家から一転、監督業に挑戦したわけだが、その理由を「いつかは自分で映画を撮りたいと思っていたんだ。でも金銭的なことも考えて低予算で撮れるような、『リノ』のような作品を最初からやろうと決めていた」と明かした。
また、「<リノ>を演じたリノが2歳だったこと、そして撮影時に言葉をまだ話せなかったことを念頭に、映像として彼を捉えたいと思った。そして彼の父親役を演じる相手は誰か……と考えたとき、私しかいないと思ったんだ。と言うより、リノが自然に振舞うためにはそれしか選択肢がなかったんだよ」と、にこりと笑顔を見せた。そう、ミレジは実生活でもリノの本当の父親なのだ。
50歳にして俳優デビューを華々しく飾ったミレジは、共演者で実の息子でもあるリノについて、「彼は最初から役者だったよ。彼が“ママ、ママ”と呼ばずに、私にだけしがみついてきてくれたことは本当にラッキーだった。もしあの時、彼が“ママ”という名を出していたら、ママの存在を脚本に入れなくてはならなかったからね。あの時の彼と私は息がピッタリだったけど、今でももちろん息はピッタリさ!」と笑顔を見せると、観客たちからはあたたかい拍手が送られた。
撮影は全てリノの生活リズムに合わせ、お昼寝時間や保育園の時間を気にしながら行ったと言う。そして、本作を撮るにあたってミレジは「何よりリノに楽しんでもらうこと、私がカメラの前できちんと芝居できているかということ、この物語は魅力的かどうかということを常に考えていたけど、リノは私と遊ぶことしか考えていなかったんだろうね」と、苦笑いを浮かべながらもうれしそうに語った。
ミレジを親バカに変えてしまうほど愛らしいリノは、撮影が終わって3ヶ月経った頃に言葉を話せるようになり、今ではミレジをびっくりさせるほどおしゃべりで元気な子にすくすくと成長しているそう。
観客からもリノについての質問が集中すると、「劇中と同じように相変わらず私を“パパ、パパ!”と呼ぶよ。生命力に溢れていて、朝、目覚めるとにっこり笑うんだ。いたずらっ子でユーモアもあって元気いっぱいだよ! もし彼が将来“役者をやりたい”と言っても、“君がそれで幸せならいいんじゃない?”ときっとOKを出すと思うよ」と、すっかり父親の顔。
しかし、最後には監督の顔に戻り「私自身この映画の出来に満足しているよ。脚本家として私は知られているけど、今回は言葉ではなく、カメラを通してより多くのことを語れたんじゃないかと思っている」と自信に満ちた表情でコメント。「親子の愛情を表現するにはこれ以上のシーンはないと感じた」とミレジが語る、一気に階段を駆け上がるラストシーンも要チェックだ。
(Report:Naomi Kanno)