現代女性に圧倒的に支持されるベストセラー作家であり、「プラナリア」では直木賞を受賞した山本文緒の小説「群青の夜の羽毛布」が映画化され、10月よりのロードショー公開が決定した。人間関係に心を深く傷つけた若い女性が、年下の青年との出会いから新たな道を歩みだす姿を通し、心の傷と再生を描いた癒しのラヴ・ストーリーたる本作で、ヒロイン・さとるを演じるのは、TV・CMから執筆活動まで幅広く活躍し、本作が映画初主演作となる本上まなみさん。監督は『がんばっていきましょい』等の作品で瑞々しい演出を見せた磯村一路監督がつとめる。撮影は、1年前の夏に行われた。
 本作の完成披露試写会が、8月27日銀座ガスホールにて開催、本上さんをはじめとするメイン・キャストの面々と磯村監督が来場し、舞台挨拶を行った。
 ヒロイン・さとるを演じた本上さんは、オムニバス風群像ドラマ『Tokyo.Sora』も本作に先行して公開されるなど、映画女優として旬の活躍を見せている。本作の原作は、映画化の話があるまで読んだことはなかったそうだが、一読し自分に近いような全然違うようなそのキャラクターを、是非とも演じてみたいと思ったとか。「キャラクターが本当にリアリティを持って描かれていて、本を読んでそこまで思えたことは初めてのことでした。また私は、『がんばっていきましょい』が本当に好きで、いつかはそんな映画に出てみたいと思ってました。初めての作品ということで最初のうちは、結構重圧とかちゃんと撮ってもらいたいという思いなど色々な感情がぐるぐるしていて、本当の自分をなかなか現場に持っていけないような感じがすごくあったのですが、磯村監督はいつもなんだかどっしりとしていて、それでいてあまり厳しい感じでもなく、ただそこにいて私が何かを演じているのを、きちんと丁寧にみてくださる方という印象で、すごく心地いい、そういう毎日でした。演じるということと、生きるということが一緒になるような瞬間があって、それは私にとっては今までに無い幸せな時間になったと思います」(本上さん)。作中の儚げでありながら、強い芯を秘めたキャラクターは、“癒し”系女優としての彼女の本領が見事に発揮されている。
 そんな本上さんに恋する年下の鉄男を演じた玉木宏さんは、さとるの母親役の藤真利子さんに、「最初は震えていたのよ(笑)」と暴露されてしまうくらい、女性陣に囲まれ緊張気味だったとか。「男の子は一人しかいなかったので最初は緊張しましたが、でも、本当にすごいいい人たちばかりで、優しくしてもらいました」と現場を振り返る玉木さんは、実は高校時代に本上さんの大ファンだったそうで、まずはその恋人を演じられることが嬉しかったと笑う。
 さとる、そしてその母親というある意味エキセントリックとも言える女系家族の中で、同世代の女性の素直な共感を得るであろう妹役を、まさに等身大の魅力で演じているのが野波麻帆さんだ。しかし、等身大のキャラを演じるということは、特徴的なキャラを演じるのとはまた異なる困難さもあったと語る。「すごく自分に近い部分があるのが、逆にすごく作りにくくてそういう部分では難しかったですね。けれど、皆さんに囲まれて、いろいろ見ていたりして勉強になったし、本当に楽しい一時でした」(野波さん)。
 さとるの母親役を演じた藤真利子さんは、『眠る男』以来の映画出演。ほとんどこの4人が一緒だった撮影現場を、すっかり満喫したようだ。キャリアが長い藤さんにとって、今作での磯村監督とのコラボレーションは、どのような印象を持ったのだろう?「監督は撮影が早いんですよ。TVだととても嬉しいんですけど、私不安になっちゃって(笑)、いいのかないいのかなって。私を育ててくださった監督方は、しつこいというか、出来ないと休憩になって泣いたって何したって駄目って感じでしたので、実はあがりがとても不安だったんですね。ところが観たら、私が想像していたのとは全然違う映画で、乙女心の心臓を針でさされるような、そんな映画に仕上がっていると思うんです」と、達成感を覗かせた。また現場では、大人し目の若手俳優陣をふるいたたせるため、ご自身かなりハイテンションな状況を作っていったそうである。流石ベテランの貫禄だ。
 磯村一路監督は、原作の映像的なところに惹かれ、新作として本作を選んだ。「前作が少女の映画でしたから、次に撮るときはもう少し年齢の上の青春映画を撮りたいと思っていました。そんな時、原作と巡りあって是非映画化したいと思ったんです。文庫本の125ページに「これは映画だと思った」と哲雄が思う一節があるのですが、本当に小説を読んでいて映画を一本観たような、それを再度スクリーンに反映し皆さんに見ていただきたいと」(磯村監督)。そして今年ほどではないが、やはり暑かった昨年の夏、本作の撮影を行い、しっとりとした作品を楽しむのに相応しいこの秋、いよいよファンの前にその全貌を現す予定だ。

なお、『群青の夜の羽毛布』は10月5日より新宿東映パラス2、シネマメディアージュにてロードショー公開!。
(宮田晴夫)

□作品紹介
群青の夜の羽毛布