映画館が集中する全州市内の「映画の通り」

韓国全北道の全州市で4月29日~5月8日に「第27回全州国際映画祭2026」が開かれた。国内外のインディペンデント映画を今年は54カ国・地域の長短編237本を上映。今年1月に逝去した俳優アン・ソンギさんの特集上映にも多くのファンが詰めかけた。

■知られざるアン・ソンギ

29日のオープニングセレモニーではアンさんに特別功労賞が贈られ、次男のフィリップ氏が代理で受け取った。
特集上映はアンさんの数多くの出演作の中から7本をセレクト。一般的に代表作とされる作品ではなく低予算映画や芸術映画を中心にしたプログラムだ。いずれも今ではなかなか見られない作品とあって、国内外の映画関係者や地元の年配客など多くの人が訪れた。

『異邦人』(全州国際映画祭事務局提供)


ポーランドで映画を学んだムン・スンウク監督が同国で撮影した『異邦人』(1998年)では、アンさんは子どもたちにテコンドーを指導する孤独な移民を演じている。ポーランド語の演技にも挑戦した。上映後に登壇したムン監督は、現地のスタッフが中心の現場でアンさんが心の支えだったと回想した。

『男はつらい』(全州国際映画祭事務局提供)

イ・ミョンセ監督の『男はつらい』(1994年)ではさえない中間管理職、シン・ヨンシク監督の『不器用なふたりの恋』(2009年)では亡くなった友人の娘に恋する奥手な中年独身男。さまざまなキャラクターの演技を見返していくと、その表現力に改めて驚かされる。

『不器用なふたりの恋』(全州国際映画祭事務局提供)

■『眠る男』の存在の重さ

『眠る男』(全州国際映画祭事務局提供)

群馬県で撮影された小栗康平監督の『眠る男』(1996年)も上映された。アンさんは事故に遭って意識不明のままひたすら眠り続ける男「拓次」を演じる。山あいの温泉町を舞台に、拓次の両親をはじめさまざまな背景をもつ人たちが生と死を見つめる物語だ。

『眠る男』(全州国際映画祭事務局提供)

上映後には小栗監督がアンさんとの思い出を語った。アンさんがイム・グォンテク監督の『曼荼羅』(1981年)のプロモーションで日本を訪れた時に交流が生まれたという。『眠る男』の制作時、韓国では日本の大衆文化がまだ開放されていなかった。眠り続ける男の役をオファーする際は「本人や韓国の人に失礼にならないかと悩んだ」が、イム監督の後押しもあって出演が実現した。

(中央)小栗康平監督


結果的にアンさんの存在感が映画の軸となったと小栗監督は振り返る。「存在の重さを撮るとなると、そのへんの俳優では無理。アンさんが培ってきた人間性に私は惹かれたし、見事映画を成立させてくれた」と話した。

アン・ソンギさんとの思い出を語る小栗監督


両親が植民地時代の朝鮮に赴任し終戦の年に生まれた小栗監督は、日本と朝鮮半島の関係に特別な思いを持っている。「日韓、日朝の間には悲惨な歴史もある。しかしアンさんがいたことで日韓の映画は幸福な出会いをした。同時代を共にできたことに感謝する」と故人をしのんだ。 

(リポート&撮影:芳賀恵)