シネマスコープの悦楽!モルックがつなぐ友情と戦いの物語。映画「TODOKU YO-NA」9月6日(土)シアターセブンで公開!

「モルックをするだけの映画です」と、川原康臣監督は言う。
騙されてはいけない。
観終わると、近隣でモルックが出来るところを調べ、モルックの値段を調べ、下手をすればそのままポチってしまいそうになる。
なんだろう、この中毒性は!
ときめくオープニングである。
曽我部恵一の「オンリー・ユー」をバックに、主張の強い唇にリップクリームが塗られるクローズアップ。
土手の上に彼女が立っている思い切りの良いロングショット。彼女は、下の草原に向かってゆっくり降りてくる。リュックを地面に置くと、儀式のように置物の猫の座席をつくり、木の道具を取り出し、セッティングを始める。
土手の上は時折自転車や歩く人が行き交う。彼女がいる場所と時空が違うかのように。
これぞシネマスコープ、2.39:1の悦楽!

モルックは、フィンランド発祥のスポーツで、日本全国のモルック愛好家は100万人に到達したという。木の棒(モルック)を番号が振られた木製ピン(スキットル)に目掛けて投げ、倒れたピンに書かれた数字で得点を競う。
草原でひとり黙々とモルックを続ける葉道(よみち)と、野良猫のようにひよっこり現れてちゃっかりモルック指南を受ける奈子(なこ)。シンプルなようで戦略を必要とするゲームに翻弄されながらも、次第にモルックにハマっていく。

慎重にモルックを投げる葉道と気まぐれにやり方を模索する奈子。そんな二人のモルック対決がテンポよく綴られる。
「と・ど・く・よ・う・な・き・が・す・る」
奈子が突然おまじないを唱え出してから、モルック対決はますます熱を帯びてくる。
「とどけ!」でも、「絶対とどく!」でもない。
「と・ど・く・よ・う・な・き・が・す・る」
モルックに重ねたこのぼんやりとした確信にこめられた願いとは。

川原監督の初長編作「寝てるときだけ、あいしてる。」(14年/監督・脚本・撮影・編集:川原康臣)では、トイカメラでの撮影、にじんだ粒子の画面、スイートなタイトルといったファンタジックなルックスで、夫婦と夫の妹・3人の同居生活によってむき出しになる肥大化した自己愛の対流を画面一杯に描き、観る者に困惑と意外な感動をもたらした。
本作「TODOKU YO-NA」では、ロングショットを多用した徹底してシンプルな表現で、葉道と奈子のバックボーンは最低限の示唆に留められている。二人の会話の中、家事の合間のゆるーい殺意や無意識の悪意がニコニコと一瞬浮かび上がる瞬間にハッとさせられる。
「寝てるときだけ、あいしてる。」やMVなど川原作品には欠かせない盟友・上原三由樹(本作では脚本・制作)と岡太地(本作では撮影・照明)が参加していることにも注目したい。

サニーデイ・サービスの「セツナ」のMV(監督:川原康臣)が好きな方なら、葉道と奈子のコンビを見て、「伊豆雛 刹那と長女やん!」とワクワクするに違いない。
葉道を演じるのは、「セツナ」のMVの脱力したダンスの圧倒的な吸引力や「VIDEOPHOBIA」(20年/監督: 宮崎大祐)の佇まいなど、忘れられない存在感を放つ廣田朋菜。本作では、傷心のまま日々のルーティーンを端正にこなす葉道の、奈子と過ごす時間で起こる薄皮をはがすような変化に目が離せない。

奈子を演じるのは、監督・主演を務めた映画「素敵すぎて素敵すぎて素敵すぎる」が9月27日(土)よりポレポレ東中野にて公開をひかえている大河原恵。口にする一言一言、その表情、一挙手一投足におかしみが宿る。

「と・ど・く・よ・う・な・き・が・す・る」
密やかな確信を胸に、モルックに心を燃やす葉道と奈子。励まし合うわけでもない。ただ同じ方向を向いてモルックを投げる。そんな清々しい物語。観てね!
(Text:デューイ松田)
映画「TODOKU YO-YA」公開情報

上映:大阪・十三 シアターセブン
■9/6(土) 13:50~14:53
<舞台挨拶>※上映後予定
登壇者:川原康臣監督 ゲスト:武庫川モルックマメシーバさん(内藤平さん&富美子さん)
<関連イベント>
『TODOKU YO-NA』シアターセブン公開初日記念モルック体験会
モルック映画を鑑賞したあとで、川原康臣監督と一緒にモルックで遊びましょう!
9/6(土)16:00~18:00ごろ お申込み、詳細はこちら
■9/7(日) 14:20~15:23
■9/8(月)~11(木) 19:30~20:33
■9/12(金) 17:00〜18:03 ※9/12(金)までの上映予定
出演:廣田朋菜/大河原恵/礒部泰宏
監督・原案・録音:川原康臣
脚本・制作:上原三由樹
撮影・照明:岡太地
スタイリスト:藪野麻矢
ヘアメイク:今村麻里子
助監督:三輪航大
制作助手・録音助手:山下由
撮影・照明助手:鈴木隆斗
編集:川原康臣/岡太地
カラーグレーディング:岡太地
サウンドデザイン:今村左悶
宣材デザイン:村端賢志
音楽:曽我部恵一
『TODOKU YO-NA』オリジナルサウンドトラック(ROSE RECORDS)
協力:(株)エビス大黒舎 (株)融合事務所
配給協力:モクカ
宣伝協力:一般社団法人日本モルック協会
製作・配給:MayFly
2024年│日本│カラー│シネマスコープ 2.39:1│4K│ステレオ2ch│日本語│58min