「TikTokやYouTube、動画全盛期の令和の時代にサイレント映画を作ろうと立ち上がったのが辻凪子監督です。何が飛び出すのか、3Dなのか4Dなのか、それを超えるのか!?今日皆さんにご覧になって頂こうと思います」
名調子で観客を映画の世界に引き込んでいくのは活動写真活弁士の大森くみこさんだ。

11/25(金)より京都みなみ会館にて辻凪子監督の活弁映画『I AM JAM ピザの惑星危機一髪!』の公開が始まった。公開初日から11/27(日)までの3日間は生の活弁、生演奏が楽しめる活弁公演、11/28(月)からは活弁吹込版の上映となる。11/26(土)に行われた活弁公演の舞台挨拶の様子を紹介したい。


映画が誕生した明治の終わり、大正、昭和のはじめ、音がなかった映画を弁士による語りと生演奏で観る興行が大人気に。全盛期は8000人近くもいたという弁士だが、トーキー映画の出現で次第に下火に。現在活動しているのは全国で12、13人という。

そんな中、サイレント映画を愛する辻凪子監督と活動写真活弁士の大森くみこさんがタッグを組み、行ったのが活弁公演『ジャムの月世界活弁旅行』。2020年10月3日、京都みなみ会館を皮切りに、全国7か所で公演。同時期に活弁映画のクラウドファンディング立ち上げ、2,693,707円もの支援を得た。そこから2年の歳月をかけ『I AM JAM ピザの惑星危機一髪!』が完成した。

ピザ屋で働くジャム(辻凪子)の密かな夢は、「コメディエンヌになって一番大切な人を笑わせたい」。1000年に一度の大嵐でピザの惑星へたどり着いたジャム。銀河系の危機を救うために鍵となるピザのピースを探して、仲間と共に様々な惑星を旅するという冒険ファンタジーだ。

辻監督が愛してやまないMr. ビーン(ローワン・アトキンソン)、チャールズ・チャップリン、バスター・キートンの身体表現をエッセンスに、「コメディエンヌ辻凪子」が真骨頂を見せる。
間寛平さん、塚地武雅さん、マイム俳優のいいむろなおきさん、ヨーロッパ企画の酒井善史さん、角田貴志さん、石田剛太さんら豪華なゲストも見どころだ。

監督・主演の辻凪子さん

おもちゃ楽器の演奏も担当した辻凪子監督は、
「今日はありがとうございます。ここで楽器をさせてもらいまして、もう楽しくて監督とか女優よりこちらの方が天職じゃないかと(笑)」
この映画を作った経緯について、きっかけは大学生の頃に大森久美子くみこさんの活弁を見たことだったという。ジョルジュ・メリエスの作品だった。
「それから4年後、プロデューサーの岡本さんから活弁映画を撮らないかという話を頂いて、しかも大森さんと。それは是非ということで、格闘してこの映画が出来上がりました」

活動写真弁士の大森くみこさん

大森くみこさんは、大学1年生の辻さんと出会った当時、活動写真弁士として活動を始めて間もない頃だったと回想する。

「その後しばらく会うことがなくてご活躍を見ていました。そうしたらたまたまお話を頂いて。運命だ!と思って二つ返事でお引き受けしました」

辻監督は、
「100年前のCGがなかった時代にこんなに面白い映画があったなんて、負けていられないと思って作りました」

ジョルジュ・メリエスの『月世界旅行』へのオマージュが存分に詰まった本作。月のシーンで汽車役(!?)が装着しているヘッドマークにG. Meliesと書いてあるという小ネタも披露。
「見逃した方は2回目ぜひ見ていただきたいと思います」
「たぶん2回目見ても気づかないと思います(笑)」

音楽の天宮遥さん

音楽を担当したのは、サイレント映画専門のピアニストとして活動されている天宮遥さん。『ジャムの月世界活弁旅行』でも音楽を手掛け、辻監督、大森さんともあうんの呼吸だ
「ピアノは音楽であり、擬音でありいろんな役割をさせていただいて、やりがいがあります」
各シーンに合わせて様々なテーマ曲を演奏するだけでなく、例えば“がーん”といった登場人物の心情や出来事を表す擬音で映画を盛り上げる。

「映画の世界と天宮さんが演奏するピアノを繋ぎたかった」という辻さんの思いが込められた鍵盤をモチーフとした印象的なセットも登場する。どのシーンかは観てのお楽しみだ。

天宮さんは、ジャムが働くピザ屋の同僚で、ちょっとこじらせキャラのマスオを演じた長野こうへいさんから「ジャムが初めて自転車で飛ぶシーンだから、『ET』を超えてもらわないと困る、と指示があった」と暴露。「ジョン・ウィリアムズに対抗してやりました」と観客を沸かせた。

マスオ役の長野こうへいさん


長野さんは、監督補・編集も担当。ワールドカップで声がガラガラになったと笑わせながら、サイレント映画の難しさに言及。
第一回の試写後に、これでは納得いかないとさらに編集が行われたという。
「芝居もすごく難しかったんですが、活弁と音楽に対してカットが長く感じたり、しっくりこないところを直さなきゃと」
公開され手て嬉しいと語る長野さんにすかさず大森さんのツッコミが。
「遥さんのピアノは『ET』を超えましたか?」

「超えてます。僕が悪いみたいな。嫌ですね、天宮さん(笑)」

「仲なおり!そんなわけあるかい(笑)」と劇中のシーンを再現し、更に笑いを誘う大森さん。

宇宙人&ピザ屋の同僚・十三役の黒住尚生さん

宇宙人&ピザ屋の同僚・十三役は黒住尚生さん。京都に入ってずっと寝不足だったという黒住さんは、上映中に楽屋で眠りに入ろうとしたところ、「マジカルピッザー!!!」という惑星ピザの王様(塚地武雅)になりきった大森さんの活弁が聞こえてきたという。

「声で想像するんですよ。子どもの頃にお母さんに絵本を読み聞かせしてもらったことを思い出して。こういう映画の体験もあるんやって思ったんです。今日はお子さんも来てくださって。ありがとうございます」
「前の2人の男の子、めちゃくちゃ頷いてくれています」
子どもだけでなく大人も映画館の特別な体験が共有できる時間となったに違いない。

劇中、憎めないふてぶてしさでジャムと名コンビぶりを発揮したミミコ役のきばほのかさんは、辻監督の大学時代の後輩。そのキャラクターに惚れ込んだ辻監督があて書きしたという。絵本のような『I AM JAM ピザの惑星危機一髪!』の美術を手掛けたのは辻監督の同級生でもあるやまもとかれんさん。劇中ジャムの周りに様々な人が集まるように、たくさんの仲間の力を得てこのあたたかくカラフルな映画が生まれたという。

辻凪子監督は、大森さんから「活弁を広める機会を頂いてありがとうございます」という手紙を貰ったことを明かした。
「私からしたら、活弁がなかったらこんなに楽しい映画は出来なかったと思うんですよ」

「私は現実にいやなことがあったら映画館に行くんですね。映画館でしか味わえない作品になったのがすごく嬉しくて。お客さんが“これを見たよ”って自慢できる作品になるようにこれからも頑張りますので、よろしくお願いします」

観客が参加することで完成する活弁映画。その醍醐味を味わってみませんか?

映画『I AM JAM ピザの惑星危機一髪!』上映情報

京都みなみ会館 【活弁公演版】11月25日(金)〜27日(日)【吹込版】11月28日(月)〜12月15日(木)
大阪 シネ・ヌーヴォ 【活弁公演版】12月10日 (土) 、11日 (日) 【吹込版】12月12日(月)〜12月23日(金)
兵庫 元町映画館 【活弁公演版】12月17日 (土) 、18日 (日)【吹込版】12月19日(月)〜12月23日(金)
愛知 シネマスコーレ 【活弁公演版】12月24日 (土) 、25日 (日)【吹込版】12月26日(月)〜2023年1月6日(金)
宮城 フォーラム仙台 【活弁公演版】2023年1月14日 (土)、15日 (日)【吹込版】2023年1月13日 (金)、1月16日 (月)〜
新潟 シネ・ウインド 【活弁公演版】2023年1月7日 (土) 、8日 (日)【吹込版】2023年1月9日 (月) 〜

【活弁公演版】料金:3,000円均一

【吹込版】通常料金