シネ・ヌーヴォにて公開中のオムニバス映画『短篇集 さりゆくもの』。
関西公開の初日7/10(土)には、上映後に舞台挨拶が行われ、ほたる監督、小口容子監督、出演の山下洋子さん、石原果林さんが登壇した。


本企画のプロデューサーを務め、『いつか忘れさられる』の監督・脚本を手掛けたほたる監督。1993年に瀬々敬久監督の『未亡人 喪服の悶え』でピンク映画デビューして以来、多数のピンク映画、インディペンデント映画で活躍。ピンク映画大賞・新人女優賞に始まり女優賞を5度に渡り受賞。2013年には『キスして。』で監督・脚本・主演を務めた。

2017年に2作目の監督作となるサイレント作品『いつか忘れさられる』を制作。5人家族の朝の食卓に不在の長男を巡る物語。
撮影は雪の長野県で行われた。この作品がきっかけとなり短篇集という企画に広がった。
「当初の企画として大阪での撮影を考え、大阪の役者さんにお声掛けしました。大阪上映では舞台挨拶に来てもらいたいと妄想していたので、今日を迎えられてすごく嬉しい。幸せです」と感激の面持ちで語った。
「5人の監督でやっていますので、いろんなご縁で来られた方がいらっしゃると思うんですが、何か一つでも持って帰ってもらえたらいいなと思っています」


小口容子監督は自らの入院からインスパイアされたネタフィクション(?)『泥酔して死ぬる』にて参加。
19歳より自主映画制作を始め、1988年『エンドレス・ラブ』でPFF入選。2006年『ワタシの王子』でイメージフォーラムフェスティバル・グランプリを受賞し、各国の国際映画祭で招待上映が行われた。8mmフィルムでの撮影にこだわり続ける筋金入りのフィルムメーカーだ。
久々の来阪で上映の喜びを語った小口監督。
誰も壇上を仕切る人がいない、と察するやさっと司会役に回り、山下さん、石原さんに話を振るなど、破天荒な作風に気遣いの人である一面を覗かせた。
参加の経緯については、
「色んな人に断られたらしく、最後の方で私にお声が掛かって、サトウトシキ監督やほたるさんの作品と上映してもらえるならぜひ」と快諾。

「私は自虐ネタが得意なので、自分が去るということで作品を作りました。撮影は楽しかったです。4人の監督と一緒に上映してもらえるのも光栄なことですし、大阪で上映してもらってみなさんとお話出来ることに感謝しています」
若手の女性監督には振られまくったというほたる監督に、
「誰だ?名前を公表しましょう(笑)」とあおり、観客の笑いを誘う場面も。


いつか忘れさられる』に祖母役で出演の山下洋子さんは、舞台出演の経験はあるが、映画の現場は全く初めてだったという。
「雪の中、ずっと雪かきをなさっていた。ありがたかった」と堀禎一監督の姿や、
「フィルムを回されたのは女性のカメラマン。35ミリフィルムはカメラがすごい迫力で」と撮影の芦澤明子さんを振り返り、活気があったというほたる監督の現場に参加できた喜びを伝える。
『いつか忘れさられる』については、
「独特の画面の柔らかさがすごい。作品そのものもいいし、フィルムの感じがすごく素敵だなと印象に残りました。素敵なものに出して頂いてありがたいことです」
と語った。

ほたる監督は、
「その時榎本敏郎さんがメイキングのカメラも回してくださっていて、一所懸命雪かきしてくれた堀さんの姿が写っています。今まで出演させてもらった監督さんたちがそうやってお手伝いに来てくださって」
と2017年の夏に亡くなった堀禎一監督の思い出を語った。
「写らない場所で動いてくれる人がいて撮影が成り立っています。普段は役者なので現場が終わるとその後は見えなかったりするんですけど、それが実感出来る。それが監督をやらせてもらって面白いところでもあります」


同じく『いつか忘れさられる』に出演の石原さんは、TV関係の仕事の経験はあったものの映画出演が初めてだった。
「素敵な映画に出られて貴重な経験となりました」と語る。
一発撮りの電車の中の撮影について、
「すごい緊張感」だったと振り返る。「撮影中は電車の先頭車両を貸し切って撮影をしていたんですけど、間違えて外国の観光客が乗ってきて、それをスタッフさんみんなで止めるっていうハプニングが印象に残っています」


観客から「死をテーマにした映画が集まったのはなぜか」という質問が。
サトウトシキ監督の『もっとも小さい光』でほたる監督の息子を演じた櫻井拓也さん、ほたる監督の『キスして。』に出演した伊藤猛さん。
上野俊哉監督、堀禎一監督といった亡くなった方々の名前が上がる。
「ピンク映画界では若い方が亡くなってきた。浄化の意味でつくられたのか?」

ほたる監督は
「自分が突然死んだ場合、身内の人間にとってはよくわからない内にいなくなったという空虚な感じになると思います。歳をとったこともあって、見送る立場の気持ちを考えて、プロットが今の形になりました」
それは周りの人々の体験からだという。
「現場が終わって櫻井くんが亡くなってしまって。でも上映にあたっては“死について”と言う形にはしたくなかったんです。去っていくものとの関係性みたいなものを作ってほしい。というオーダーで、結果的には死についての作品が多いけど、トシキさんに関しては、関係が終わることで去っていくという形になりました」
途中、去っていった方々を思い、ほたる監督が涙ぐんだ。慣れとは無縁のその姿が、俳優として監督として人間として魅力を感じる場面でもあった。

ほたる監督と小口監督のトークの中で、『ノブ江の痣』の山内大輔監督と、サトウトシキ監督の『もっとも小さい光』の制作スタイルの違いにも言及があり、映画ファンには興味深い内容となった。

ほたる監督は、
「もしいいと思ったところがあれば周りの方に勧めていただいて、2回3回、見ていただくのもいいと思います。よろしくお願いします」と応援を呼びかけた。


映画『短篇集 さりゆくもの』は、シネ・ヌーヴォでの上映最終日となる7/16(金)、『八十八ヶ所巡礼』の小野さやか監督とほたる監督が舞台挨拶に登壇する。

以降の上映予定
広島・横川シネマ:7/15(木)〜21(水)
愛媛・シネマルナティック:7/17(土)〜23(金) ※7/20(火) 休映
神戸映画資料館:7/30(金)~8/3(火)
京都・出町座:8/6(金)~12(木)