「宇宙のいろんな場所や時代に、これからも旅を続けるわ」

「皆さんもご一緒に!」

活弁公演を終え舞台から観客に呼びかけたのは、俳優・監督の辻凪子さんと活動弁士の大森くみこさん。

11/14、元町映画館にて、活弁の魅力を広く知ってほしいと開催された第1回活弁公演「ジャムの月世界活弁旅行」の一幕だ。

大森くみこさん
辻凪子さん

この日のメニューはこの4作品。
D・W・グリフィス『迷惑帽子』(活弁:大森くみこ)
ジョルジュ・メリエス『月世界旅行』(活弁:辻凪子)
辻凪子&阪元裕吾監督『ぱん。』(活弁:大森くみこ・辻凪子)
バスター・キートン『キートンの探偵学入門』(活弁:大森くみこ)

おなじみの名作から現代のコメディまで、勢いのある活弁とピアノの生演奏で観客を大いに楽しませた。

トークコーナーにゲストで登場したのは映画チア部の高橋佳乃子さん。映画チア部は学生たちが、若い世代にミニシアターやインディペンデンス映画の魅力を知ってもらおうと映画宣伝や自主上映会に取り組んでいる。

(写真左)高橋佳乃子さん

「『ぱん。』は元々の音付きの現代映画。言葉に頼らない、絵面が強い作品。元々古典映画っぽさがあるのかなって。それに活弁が加わることで、辻凪子ワールド全開でした」

また、キートンの身体能力には、

「CGがない時代は、こういう人たちが映画を支えていたんだなと思って」と驚きを語った。

大森さんから、首を骨折したキートンが数日休んだだけで撮影を再開したという裏話が披露された。数年後に診察を受けた際医師に「首の骨を折ったことがありますね」と聞かれ、「そう言えばあの時ですかね」と、事もなげに答えたというエピソードに、会場からは驚きの声を上がっていた。

高橋さんが活弁を初めて体験したのは、大森さんによる『雄呂血(おろち)』(主演:坂東妻三郎)だったという。

スクリーンによって作り手と観客が隔てられる映画の上映スタイルの中、活弁は弁士が観客と同じ空間にいるところが特殊だと分析する。

「私達はただスクリーンを観ているだけなのに、大森さんと一緒に映画を作っている感覚になりました」

「IMAX、4DXといった臨場感、ライブ感を追求した映画はたくさん観てきましたが、こんなにライブ感を感じるものは他になくて。身体の中が熱くなるような体験」とその魅力を語った。

辻さんは、今回大森さんの活弁でキートンを観て「もっともっとやりたいことが出てきました」

「舞台と映画を融合して1つの作品にしたい」と熱く語った。

その作品とは、現在辻さんと大森さんがクラウドファンディングを行っている、サイレントSFファンタジーコメディー『I AM JAM ピザの惑星危機一髪!』だ。

Mr.ビーンに憧れてこの道へ入ったという辻さん。コロナ禍で思うように仕事ができない中、iPhoneで撮影した自身を主演とするショートムービーを作り、YouTubeチャンネル「辻凪子劇場」を開設し配信してきた。その作品を元に、大森さんと共に長編映画製作に挑む。

クラウドファンディングの特典は、3000円のお礼の手紙と壁紙といったものから様々に用意されているが、中でも高橋さんが注目したのは16万円の「大森くみこ弁士による活弁の実演講座(全3回)」。レクチャーの成果は発表会も予定しているとのこと。この機会に演じる側の体験をするのも面白いだろう。

その他、『I AM JAMピザの惑星危機一髪!』への特別衣装&役付き出演券18万円、辻さんが支援者とジャムを主人公としたショートムービーを制作20万円など、注目の特典も。

高橋さんは「映画チア部も長い時間をかけて応援していきます」と2人にエールを送った。

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イベント終了後、辻凪子さん、大森くみこさん、ピアノ演奏の天宮遥さんにイベントを終えての感想を伺った。

京都に続いて活弁にチャレンジした辻さん。

「新たな気持ちでやりました。大きく変えたアレンジが増えて、セリフも結構変えました」

こだわったのは、『月世界旅行』に行く個性豊かなおじさんたちをとことん楽しむことだと言う。

「キャラクターをよりコミカルにしました。お客さんは暖かかったですね。幕間も優しく見守ってくれている感じが関西ならでは」

翌日のシネ・ヌーヴォ公演への意気込みについて尋ねると、

「大阪の人は笑いに厳しいので、頑張りたいです(笑)」と笑顔を見せた。

「みなさん楽しんでくださっているのが伝わってきました」と語る大森さん。

映画チア部の高橋さんとの出会いに感激した様子だった。

「若い人が“活弁は面白い”、“新しい”と思ってくださるのが本当に嬉しくて。またそれを発信しようとしてくれるのが嬉しかったですね。これまで細々と弁士をやってきた私としては(笑)、新しい出会いができたことが何より嬉しいです。活弁と言えば、昔懐かしのというイメージがあると思いますが、年配の方はもちろん、本来ならもっと幅広い年齢層に楽しんでもらえるものだと思っています」

天宮さんは、お客さんの反応に手応えを感じたようだ。

「やはり、笑いが起こると嬉しいですね。生演奏で見て頂けて嬉しいのと、生演奏の音楽は弁士さんの言葉によって反応するので、何回上映しても同じものはないんです。もちろんお客さんのリアクションでも変わります。その辺も楽しんでいただけたら。この後丁度ドキュメンタリーの『ようこそ映画音響の世界へ』が上映されますけど、音楽は縁の下の力持ち的な働きがあります。そっとお客さんの感情を運んでいけたら」

(写真中央)天宮遥さん

来月、12/26(土)は東京・ユーロライブにて2回公演(14:30/19:00)が控えている。ピアノ演奏は鳥飼りょうさん。19:00の回はゲストに映画『カツベン』の周防正行監督を迎える。

これからも辻さん・大森さんの活弁映画の旅は続く。さあ、皆さん、ご一緒に!