阪神・淡路大震災で一人娘を亡くした夫婦の23年間を描いたいまおかしんじ監督の新作『れいこいるか』
関西では8/8(土)、元町映画館とシネ・ヌーヴォにて封切りとなった。
8/9(日)の各館の舞台挨拶の模様を紹介したい。


【元町映画館】
公開初日はキャストの田辺泰信さん、上野伸弥さんが登壇。
8/9(日)は主演の武田暁さん、河屋秀俊さん、西山真来さん、いまおかしんじ監督が登壇した。

いまおか監督のファンだった朝日映劇の川本じゅんきさんが、「好きな映画を好きなように撮りませんか?」と150万円の出資を申し出、映画が動き出したのが5、6年前のこと。

『れいこいるか』の元の脚本を震災が起こった1995年の翌年に書いたいまおか監督。
「当時のピンク映画界では事件を映画の中に取り入れて公開することが監督としてやるべきことだというムードがあったんです」
プロデューサーの反対で映画化は実現しなかったが、いつかそのシナリオを形にしたいという気持ちがあったという。

いまおかしんじ監督

川本さんの申し出を受け、
「自分一人では直せないので、脚本の佐藤稔と話して、95年から現在への20数年の経過を描ければ今やる意味があるんじゃないかとスタートしました」

現地で撮ることで現地ならではのものが映るのではないかと、東京が舞台の物語を神戸に変更した。通常は3、4日、長くても1週間程度の撮影が多いといういまおか監督初の試みとして、1年間の季節を追って撮影することに。言葉の問題をクリアするために俳優は関西圏で広く告知しオーディションした。

河屋秀俊さん

娘を亡くした後、紆余曲折の人生を辿る太助を演じた河屋さんは、応募のきっかけについて、1999年に出演した今岡監督の『実録 六本木監禁レイプ』での思い出を披露した。

「監督に言ったことないかもしれないけど、撮影現場がめちゃめちゃ楽しくて。当時ベストワンだったんですよ」

「シャブ中の役だったんですよ(笑)」といまおか監督。

「六本木の交差点で実際に捕まってしまいまして。本物のシャブ中だと思われて(笑)。そういう思い出があって、またいまおか監督の映画に出たいなと思っていたんです」

武田暁さん

娘を亡くしながら、波乱万丈の人生を慌てず騒がず朗らかに生きる伊智子を演じた武田さん。西山さんから、いまおか監督に紹介をしたいと電話で猛アプローチを受けたという
「元々ピンク映画の方なので、そういうシーンもあると言えばあって、脱いでもらわないといけない。でも私は凄く好きで、いい作品を作る監督なので紹介させてもらっていいですかって」
これまで舞台で活動してきたため映画の出演は初めてだったが、西山さんを信頼して紹介してもらうことにしたという。

京都の立ち飲み屋で会ったいまおか監督から、
「脱ぐという事に非常に情熱を感じているということを沢山伺って」
その後出演が決定したという。

西山真来さん

西山さんにとって武田さんは関西を拠点にしていた時の演劇の大先輩だったという。
「決まってとにかく嬉しかったんですね。紹介した時も普通だったら考えられないようなわがままを監督に言いまして。紹介したら暁さんに決めてくださいって(笑)」

「それはどうかなーってなるよね(笑)」といまおか監督。

「すみませんでした。本当によかったです」
そんな西山さんの興奮ぶりに観客からも笑いが上がる。

天才少年の母親を演じ、ピンポイント出演ながら強い印象を残した西山さん。当初思っていたキャラクターとは違うものになったという。いまおか監督は、
「僕は役者の方が自由に動いてほしいといつも思っています。何にも捕らわれることなく自由に解き放たれる時が面白い」

最後に「嬉しくって朝から飲みまくっているんで。映画を作ると地方に行けて見た人と会えるのが嬉しくて。完成してよかったなと思っています」
といまおか監督。

河屋さんは、「また来年、再来年と『れいこ…』を撮影したここ(神戸)で上映できれば。1月17日に上映することがあれば戻ってこられるなと思っています」

完成した『れいこいるか』を見たのは3回目という武田さん。
「私自身も感想が変わってきたなと思う映画でした。何度か足を運んで頂けるとありがたいです」

西山さんからは、音楽を手掛けた下社敦郎さん(『東京の恋人』監督)のtwitterアカウント(@moshi_mo)に『れいこいるか』の入場の半券を撮影して、DMもしくはリプライを送るとサントラがもらえるという太っ腹企画の告知があった。
「もしこの音楽、癖になるなって方がいらっしゃったらぜひ」

『れいこいるか』キャスト、スタッフの皆さんと元町映画館スタッフの皆さん

【シネ・ヌーヴォ】
元町映画館に続いて武田暁さん、河屋秀俊さん、西山真来さん、いまおかしんじ監督が登壇。観客席の前にビニールシートを立てて舞台挨拶が行われた。

いまおか監督から、来阪してインタビューを受ける中で、震災で亡くなった親戚がいる知人もいたというエピソードが披露された。
「僕は震災の時に東京にいて被害にあってないんですよ。何も痛みがないのになぜ震災を選んで、何をそこで描くのか」

「当事者でない視点もあっていいんじゃないかと。体験しないとわからないこともあるけど、それでも何かやれることがあるんじゃないか。想像力を働かせて。日本だけじゃなく、もっと世界に手を伸ばしていいんじゃないかと。映画はウソの世界。嘘を使ってどのようにリアルな世界に手を触れるか。それで世の中変わることはないかもしれないんだけど、そのことについて立ち止まって考えてみたい」

経験していないことをどのように演じるか?という質問をいまおか監督にふられた俳優陣。
太助に近いところがあるという河屋さんは、
「太助の人間的なところはわかっていたので、それを足掛かりにして深めていきました」


武田さんは、
「どんな役でもあえて距離を取ることが多い。俯瞰で見るように演じています」

西山さんは、脚本に自分の感情が乗せられない場合、自分の他の経験から来る悲しい感情を乗せるテクニックはやりたくないという。
「それは違うと思っていて。そんなことするくらいなら悲しく見えない方がいい。お客さん思いじゃないし」「ここまでは嘘つけるとか、ここは嘘を絶対つけないとかありますね」

3人3様の役柄へのアプローチの仕方を念頭に、再度『れいこいるか』を観てみるのも面白いかもしれない。

20~22歳の頃、ニューOS劇場で昔もぎりのバイトをしていたという河屋さん。
「映画が好きで、京都や大阪で見たりしていたんですけど、劇場で舞台挨拶をやらせてもらえるのは感慨深いものがあります。今日はありがとうございました」

西山さんは、
「この映画は震災の映画ですけど、コロナで心がしんどいのに自分でも気づかないようにしていて、この映画を見て“しんどかったんやな”って言ってもらえたような気がしています。こんな大変な時に一緒に過ごしてもらってありがとうございました」

今日は映写室から映画を見ていたという武田さん。自身の出演以外のシーンも含めて改めて、
「気づけたことがたくさんあったので、何度かまた足をお運び頂けるとありがたいです」

いまおか監督は「僕、映画が好きなんだなって」と語る。
映画にのめりこんだきっかけは、浪人生の頃にロマンポルノを見てからだった。高校や大学時代は世界が狭く息苦しく、頼りにすべきものがわからなかった。

「ロマンポルノを観て、世の中から端っこの方にある文化だったんですけど、自分がそこにいるみたいな感じがあって。映画を見て勇気づけられたというか。映画を作り始めたのは20代後半。やってみるとめちゃくちゃ面白くて。自分が作ったものを全然知らない人が見て何かを感じるなんてことがこんな凄いことがあるのかって。お金になったりならなかったりいろいろあるんですけど(笑)。30歳でデビューしていま54歳で。こういうコロナの状況でも上映できて来てくれる人がいて。本当に嬉しくって。できれば続けていきたいと思っています。ありがとうございます」

須磨の水族館で買ってきたというイルカ

関西での『れいこいるか』の上映予定は次の通り。ぜひ足をお運びください。

元町映画館 8/28(金)まで。
[舞台挨拶]
8/10(月)12:40回上映終了後 上野伸弥さん
8/14(金)12:40回上映終了後 田辺泰信さん
8/15(土)17:20回上映終了後 田辺泰信さん、上野伸弥さん、いまおかしんじ監督
8/21(金)17:20回上映終了後田辺泰信さん、上野伸弥さん

シネ・ヌーヴォ 8/28(金)まで。※8/15(土)からシネ・ヌーヴォXにて上映
[舞台挨拶]
8/14(金)19:50回 上映後 田辺泰信さん、上野伸弥さん、いまおかしんじ監督

京都みなみ会館 8/14(土)~8/27(木)まで。
[舞台挨拶]
8/14日(金)17:00回上映後 武田暁さん、河屋秀俊さん、いまおかしんじ監督