大阪市淀川区の第七藝術劇場にて3/21(土)、映画『大阪少女』が公開された。ほぼ満席の動員となった同劇場。上映後の舞台挨拶に登壇したのは石原貴洋監督、坪内花菜さん、海道力也さん、大宮将司さん。

大阪を拠点に、長編デビュー作の『バイオレンスPM』に始まり、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭でグランプリを受賞した『大阪外道』、『大阪蛇道』など続々とバイオレンス映画を撮り続けてきた石原監督。長編9本目にしてのいきなりの急展開。今度の主人公はなんと12歳の少女!?

物語はこうだ。父は失踪中、母は入院中で祖母(田中しげこ)と二人暮らしのちほ(坪内花菜)。アパートや文化住宅の大家である祖母の脚が悪くなり、代わりに取り立てをすることになったちほだが、アパート住人はヤクザ、詐欺師、無職(坂口拓)、アル中(仁科貴)、ポルノ小説家(前野朋哉)、妄想小説家(林海象)など一筋縄ではいかない連中ばかり。どうする、ちほ!?

主演を務めたのは、小学生の頃からTVや映画で活躍してきた坪内花菜さん。NHK朝ドラの「べっぴんさん」や石田アキラ監督の『怪獣ゴッコ』など、泣かせる演技から自由自在の変顔までインパクトのある役柄をこなす演技派だ。全身黒ずくめのスーツ姿の石原監督は、インパクトの強い花柄チュニックに黒のタートルという劇中そのままのいで立ちで登壇した花菜さんの衣装について、
「この衣装、僕が西成の婦人服売り場で買うたんですよ。雷落ちる感じして、これやと思ったんですよ(笑)」と、その時の衝撃を語る。当時中学2年生だった花菜さん。撮影から2年たった現在、10センチほど背が伸びたという。

映画の中で、ちほが取り立てる家賃は3万円という破格値。ロケをした物件は撮影に使いたいと交渉するも不動産屋が渋ったという。しかしそんなことでひるむ石原監督ではなかった。
「物件のオーナーに会いに行って、直談判で頼んで、家賃もちゃんと払って使わせてもらったんですけど、何と本当の家賃2万円です(笑)」
客席から驚きの笑いが起こる。二部屋借りてもなんと4万円。映画の中の設定ではリアリティを出すために3万円にしたという。
「部屋を借りるにあたっての保証とか経歴とか収入とか問わないと。無敵!」
撮影時の印象を尋ねられた花菜さん。
「住んでる方は特徴的な方が多いなとか(笑)。住んでないのにずっとアパートをウロチョロしてる方とか(笑)」。
と当時のインパクトを懐かしんでいた。

 

石原組常連が語る撮影の現場とは

石原作品には『バイオレンスPM』で初出演、『大阪外道』で主演を務めた大宮将司さん。現在は東京に拠点を移して活動中。今回はエキセントリックな宮古島一家の社長を演じた。
「大宮さんのシーンは壮絶な所ばっかりで。僕なりのひと工夫を入れまして」と石原監督。初登場シーンでは厨房の中では、大宮さんにレンガの上に乗ってもらい、漫画『北斗の拳』で巨大な敵キャラが登場するシーンのごとく大きく見えるように撮った。
「それがすごい不安定で。足グラグラやったもんね(笑)」と大宮さんが再現する。宮古島一家の社長はピーナツをこぼしながら食べ続けるタガが外れたキャラだ。食べ方は大宮さんが提案したという。
「僕がこぼしながら食べたら怖くないですか、って(笑)」
「なんか怖いじゃないですが。相手がドン引きしてるのを気にせずこぼし続けられる奴って、だいぶイカかれてますよね。ピーナッツ案はそれで採用」

相変わらず悪役多く「9割が刑事かヤクザ」と語る大宮さん。
シアターセブンにて、同じく3/21(土)より公開中の片山亨監督『轟音』にも出演している。
「一種の悪役なんですけど、ヤクザでも刑事でもないんですよ」
すでにハシゴをしたという観客も数名。『大阪少女』と同じく3/27(金)までの上映予定となっている。

大谷組組長を演じた海道力也さんは一番の石原組の常連だ。
「大谷組組長って僕の定番の役柄があって。もう3回大谷組やってます」
「4回ぐらいやってるんちゃう?(笑)」
いかつい体つきにぴったりの強面な海道さんだが、普段は全然怒らないという。
「逆に俺悪役演じるの、難しいですもん」という海道さん。
「へえ」と流す石原監督に観客は爆笑となった。
アパートの前で海道さんとサングラス掛けた手下が登場するシーンを花菜さんが回想する。
「海道さんが着いた時に、みんな一斉に“何あの強い人?”みたいな感じになって(笑)」。
「実際西成のおっさん避けとったからね。普通はカメラ位置で道路の反対側同士を人止めするんですね。でも何もせんでいいからね。みんな避けていくから(笑)」

 

 

人間関係が希薄な現在だから、こんな関係があってもいい

石原監督から、『大阪少女』の中でちほが、
「家賃の振り込みは銀行口座じゃなくて手渡しや。通帳作られへんヤクザやチンピラもおるやろ」という象徴的なセリフが紹介された。
「セリフ的には問題あるかもしれないけれどもあえて入れました。人と人のつながりが希薄になって来てるのが僕は一番危惧してまして。実際目を合わせて、家賃を渡す・もらうってやりとりがあるだけで、人間関係ちょっと違うと思うんですね。孤独なおじいちゃんおばあちゃんもおると思うし。こういう子がいきなりドア開けて“入るぞ”って。入ってから言うてんねんけど(笑)。そういう人間関係があってもいいと思うんですよ」

劇中、坂口拓さん、仁科貴さん、前野朋哉さん、林海象監督というそうそうたるメンバーの頭を叩きまくる花菜さん。
「坂口拓さんは『RE:BORN』ていう映画ですごいアクションを披露した方ですけど、あの人の後頭部を叩けるの花菜ちゃんだけやからね(笑)。普通の人やったら全部体取られる」と石原監督。

妄想作家役の林海象監督は、ちほにボロクソに言われたシーンで、撮影後に落ち込んでいたという。
「親父、どのセリフに傷ついたん?って聞いたら、“もっと地に足つけつけろ”って言われたって(笑)。ほんまに刺さるって言う事は刺さるようにやったっていうことやね(笑)」
「でも最後にちゃんと謝りました」とにこやかな花菜さん。

石原監督は、「いろんな怖い人から、花菜ちゃんと向き合ってお芝居するとちょっと押される気がしたって言う声を聞きました。体格じゃないんですね、お芝居って。褒めてるんだよこれ(笑)。よく太刀打ちしたなと思います」と、花菜さんの演技に太鼓判を押した。

 

 

ビールの泡と坂口拓さん

思い出のエピソードについて聞かれた花菜さん。謎の住人である坂口拓さんとのビールを巡るシーンのエピソードを披露。
「ビールを吹いた瞬間に、前にだけじゃなくても後ろにも飛んでるんです」
「よく考えたら不思議だと思います。前向いて吹いてなんで後ろに泡がかかるんやろ。血吹き芸の天才」
坂口さんからカメラの位置を聞かれた石原監督。
“じゃあ、ギリギリ泡が前に落ちるようにするわ”って言うんですよ。嘘やって思ったけど、カメラに泡がかかってない。でも後ろの壁に泡がかかってる。あれはさすがやなあと思いました。アクションで血を吹いたりすることを100種類やって来たと言ってる人で、本職は違うなと」。

食事こそが幸せの基本だと食事のシーンにこだわってきた石原監督。
「食べながら台詞を言ってものすごく難しい。難しいからこそ俺やったるわっていう感じであえてポンポン入れたんです」
ちほと祖母の食卓シーンでは、握り箸でがっつくちほの姿も見どころだ。件のシーンでは海道さんが焼いたという自慢の少し焦げた厚焼き玉子が登場する。

ディープな大阪でクセだらけのツワモノを相手に成長するちほの姿が頼もしい。『大阪少女』の上映は3/27(金)まで。石原監督の新境地、ぜひ劇場で楽しんでほしい。

 

 

【石原貴洋監督インタビュー】

――そもそも少女主人公にして撮ろうと思ったのはなぜですか?

石原:今まで可愛らしい女の子が強いキャラクターに立ち向かうっていうのは、あんまり大阪の作品ではなかったので、自分の中で新しく作りたいなっていう気持ちがあってやりました。『じゃりン子チエ』の影響もちょっとありますね。

――そういった変化が起こったのは何かきっかけがあったんでしょうか?

石原:今まで男のバイオレンスをずっと作ってきたんですけども、飽きてきたっていうのが正直なところで、自分の中で新しい新鮮なものを取り入れたかったんですね。少年の目線で描いた『大阪外道』のように少女の目線から描くというのが、自分の中でものすごく新しかったので、『大阪少女』を作りました。

――脚本を仕上げるにあたって特に気を使ったことはありましたか?

石原:実際の大阪在住の人とか西成在住の人が見て、そんなのないやろう!っていう説得力に欠けるようなものだけは避けようと。ありそうだなと思ってもらえるか。そこに大分意識を払って脚本を書きました。

――石原監督から見た花菜さんの演技の魅力は?

石原:対応力と顔の表情の柔らかさ、変顔ができるっていうところから興味を持ったんですけども、喜怒哀楽全部の表情が出せるところと、本当の涙を流すという真剣勝負の演技がちゃんとできるというところ。それを引き出せたありがたさと言うか。そういう表情をいっぱい使った感じですね

――一番このシーンがよかった、というところはありますか?

石原:やっぱり花菜ちゃんがあんパンを食べて泣くところが、撮っていてなんか神様が後ろから応援してくれているような、そんな気持ちになったのを覚えています。

――確かに!あのシーンはすごく好きです。『RE:BORN』の坂口拓さんのキャラクターが、なぜこの映画に登場したんでしょうか?

石原監督が『大阪少女』の脚本第一稿を手掛けていた頃、坂口さんが石原監督宅に遊びに来たという。石原監督の次回作を知った坂口さん。脚本を見せると出たいと言ってくれたという。

石原:「出たいわって言われても拓さん東京の人やし、大阪のキャラは合わない」って言ったら、「東京から流れてきたキャラでいいじゃん」って。
『RE:BORN』を撮り終わっていた坂口さん。『RE:BORN』のその後という設定で出てもらうことになったという。

――そういう流れだったんですね。少女を主人公にして、今まで石原さんの作品を観て来られた方以外にもアピールできると思うんですけど、どういった層に観て欲しいですか?

石原:やっぱり暴力とかサイコとかで謳うと毛嫌いされるっていうのがもったいないことだなと思っていていたんです。料理の世界で言うと、違う味わいのものを僕も作れるんだよって。フルコース料理を作ったから前菜から明るく口当たりの良いものから用意してるんで、頼むから召し上がってくださいよっていう気持ちで、自分の中でもプライドを捨てて作った部分もあります。こだわりをちょっと抑えて、口当たりの良さにすごく気をつけました

――こだわりというのはどういったところですか?

石原:怖すぎる暴力や、リアルすぎるものを女性はそんなに望んでないと思うし、映画を観てくれる人に対して偏りすぎたものを提供したら、自分自身のお客さんの層を狭めることになる。それを自分で危惧していて。層を広げるためのフルコース料理作品を監督しました。

――ありがとうございました。今後の広がりを楽しみにしています!

 

 

【坪内花菜さんインタビュー】

――脚本を読まれた時にちほはどういう女の子だと思われましたか?

花菜:人を叩いたりするんですけど、反面お母さんとおばちゃんを大切にしていて。何て言うんですか本当に大阪の女の子っていう感じで。叩くけど、それには愛情を持っていって叩いているので。自分も大阪出身なので親近感がわくと言うか。セリフ一言、一言が自分もこういう感じで言うかもしれないって思ったり。親近感が湧きやすかったです。演じると思ったらすごくドキドキワクワクしました。

――石原さんの演出はいかがでしたか?

花菜:好きにやっていいよって言ってくださって。台本はあるんですけど、監督も楽しんでいるので、その場で「こうやったら面白いんじゃない?」っていろんな人からアドバイスをもらいつつ、監督も言うし、私もそれを聞いて、「自分はこんな感じがいいかなと思いますが、どうですか?」って。みんなで作っていた感じですね。

――花菜さんからも結構提案を。

花菜:そうですね。こうやって蹴ったら、もっと面白くなるんじゃないかとか。

――ご自身がアイデアを出した中で、うまくハマったなぁというところはありましたか?

花菜:劇中に田中健詞監督が出られているんですけど、その田中さんがお酒を飲んで床に嘔吐しちゃうっていう役で、ちほがタイキックっていう蹴りをするんですけど、もともと台本になくて、私が、怒ってお尻蹴った方がちょっとインパクトあっていいんじゃないかなあと思って田中さんに相談したら「全然いいよ」って言ってくださって。監督にも「どうですか?」って言ったら「いいと思う」ってなったので、そこをやらせてもらいました。

――あのシーンはめっちゃ笑いました(笑)。

花菜:本当ですかありがとうございます(笑)。

――強面の方との共演が多かったですが、いかがでしたか?

花菜:顔は怖いくて近寄り難い感じがするんですけど、そういう人に限ってすごく優しいんです。私が一人でいると「花菜ちゃーん」って駆け寄ってくださって、「これ食べる?あれ食べる?」ってお菓子持ってきてくださったりして。叩いたりするシーンもあるんですけど、強面の方は「もっと叩いていい」って言ってくださって。自分も演技し易かったし、強面の方はいてくださった方が演じやすい存在でした。

――思い切りの良さが見ていて気持ち良かったです。

花菜:監督に「ゆるくやったら何テイクも撮らないといけないから、結局相手の方に失礼だから思いっきりフルスイングして」って言われたので思いきりフルスイングしました(笑)。

――一番好きなシーンはありますか?

花菜:坂口拓さんとあんパンを食べるシーンがあるんですけど、悲しいことがあった後のシーンで、そこもアドリブだったんですけど、坂口さんが隣に居てくれて。周りからもあのシーン良かった、感動したと言って貰えたんで。そこが思い出に残ってるし、一番好きなシーンです。

――私もあのシーンが好きでした。坂口さんはどんな感じの方でしたか?

花菜:怖いですね。ウェーブっていうのが得意らしくて、目の前で技をかけてほしいって人がどんどん来て、坂口さんも「行ったるわ」みたいな感じでやるんですよ。そしたら「あっ」て倒れて行くぐらいの勢いなので。

――瞬殺!(笑)

花菜:そうです。すごく強いと思ったら、まさかのお茶目。めちゃめちゃお茶目で監督さんと坂口さんのやり取りがすごく面白くて、すごく優しい方だなと思いました。

――最後に観客の方に見どころを!

花菜:石原監督はバイオレンス映画を撮ってるんですけど、元々こども映画を撮っていたんです。今回は暴力というよりは痛快で大阪らしく、馬鹿みたいに大笑いしながら悪い人を退治するみたいな話なので、子供にも見やすいですしたくさんの人に見てもらえたらいいなと思います!