映画『海獣の子供』ワールドプレミア上映会
自然世界への畏敬を独自の漫画表現で読者を魅了し続ける漫画家・五十嵐大介の「海獣の子供」を、映画『鉄コン筋クリート』で第31回日本アカデミー賞最優秀アニメーション作品賞を受賞し、そのハイエッジな映像表現で世界から注目を浴びるSTUDIO4℃がついに映像化。映画『海獣の子供』が6月7日(金)に全国公開となります。
この度、5月19日(日)に本作のワールドプレミア上映会を実施いたしました。トークショーには、TVシリーズ「ドラえもん」の原画・作画監督・演出や劇場長編『ドラえもん のび太の恐竜2006』で監督を務めてきた渡辺歩監督、『かぐや姫の物語』で作画監督を務めた小西賢一総作画監督、『ベルセルク 黄金時代篇』3部作でCGIスタッフを務めた秋本賢一郎CGI監督が登壇!『海獣の子供』にまつわる表現技法や、五十嵐大介の原作を映像化するにあたっての苦労など、ここでしか聞けないクリエイター陣による濃密なトークを展開致しました!
■映画『海獣の子供』ワールドプレミア上映会
5月19日(日)16:21上映終了後〜16:50 イベント
場所:イイノホール
登壇者:渡辺歩(監督)、小西賢一(キャラクターデザイン・総作画監督・演出)、秋本賢一郎(CGI監督)
パネラー:藤津亮太(アニメーション評論家)
(写真並び:左より 小西賢一、渡辺歩、秋本賢一郎)
【登壇者コメント】
■原作のどんなところを魅力に感じ、どんな形で映画へ反映させようと思いましたか
渡辺:原作はとても広いテーマと素晴らしいビジュアルで描かれていて、一言では言い表せない、魅力の塊のような作品です。なので、魅力を抽出するというよりは、すでにある魅力をいかに痩せさせないようにフィルムに焼き付けるか、というところに注力しました。
原作の魅力を余すことなく映画の中に落とし込もうとするとボリュームが出てしまい、最初は欲張りなプロットを書いていましたが、映画として構築し直す中で、「琉花のひと夏の体験」を描くことで、描かなくてもいい部分や原作に任せられる部分が出るのではないか、1本の映画としてもまとめやすいのではないかと思いました。
小西:アニメーターの中でも五十嵐さんの原作を好きな人はとても多いので、自分がやっていいんだろうか、原作ファンをがっかりさせないだろうかと思うほどハードルが高かったです。ですが、せっかくやらせていただく機会があるのなら、やるしかないと思いました。
今回はすでに五十嵐さんの完成された絵があったので、原作全てがイメージボードのようなものでした。セル画からイメージを想起させる力がとても高いので、それに負けないようにしようと意識しました。例えばアングラードの髪の毛は、原作で描かれている細かさが半端じゃないので、これをベタッとした色で描いてしまうと台無しになってしまいます。また、キャラクターの目も大きく印象的ですが、とにかく大変でした。絵コンテの段階から「アップを多用する」と監督から宣言されていて、一枚描くだけでもとても大変でしたが、そう言われたらやるしかないですよね(笑)。
秋本:私は、会社の人にオススメされて原作を読んでファンになりました。ピッチの細かさや圧倒的な白黒の絵の魅力にとても引き込まれたので、これをCGで表現するというのは、ものすごく遠いところにあるように感じていました。CGになると無機質になってしまうという危険があります。ただ、だからこそチャレンジしたいという気持ちが強くありました。
私の役割は、主に魚群などの立体物をCGで作って動かしていくことです。例えばイワシの塊のシーンは、塊としての動きはもちろんですが一匹一匹の動きにも柔らかさや躍動感、生命力がないといけないよね、というお話を監督と小西さんから言われていました。なのでまずは一匹の動きから、こういう風に動いたらいいよねというアタリを頂き、そこから徐々に増やして塊として描いていきました。
CGの表現はどうしても硬さが出てしまうので、アニメーション特有の柔らかさを出しにくいものです。初めの頃は手書きの作画で表現されているものに追いついていませんでした。何が追いついていないのかという所を、監督と小西さんと何度も話し合いながら、ゴールとする表現へ”にじり寄って”いった感じです。作画とCGの境目を感じずに観ていただけていたら嬉しいですね。
■キャラクターを描く上で気をつけたところは?
渡辺:琉花を描く上で、14歳の佇まい、身体つきを表現できるよう意識しました。アニメの琉花は、基本設計段階から、原作よりも少し小柄さを強調しています。一見非力にみえるのにチョロチョロしている感じを出したくて、華奢に描きました。
アフレコの際はそれぞれのキャラクターのイメージを演者に重ねてアプローチしていくので、私がその場でディレクションしていくというよりは、彼らがどういうイメージで答えを持ってきているのか、すり合わせをするのが楽しかったです。例えば芦田さんはキャラクターと同い年で、私が思っていたよりもはるかにリアルでみずみずしい演技をしてくれました。彼女の表現するものに圧倒され、教えられましたね。収録作業をしながら改めて作品を捉えなおすような、不思議な時間でした。
小西:アニメ化するときに、キャラクターのデザインが多少変わるのはもちろんあることですが、原作ファンは五十嵐さんの絵が動くことを期待する。原作の良さを忠実に表現することと、監督のやりたいこと、どの辺りに落とし込むかが難しかったですね。
描く上で大事にしたポイントは、ちゃんとそれぞれのキャラクターに見えるようにすることです。ラフ画の時点ではそれらしく見えても、最終形ではなぜか違って見えてしまう。細かいところまで作るには、最後の絵まで自分で描くしかない。通常の倍は手間がかかる、繊細なものでした。
また、作画するときにアフレコの音声を聞いて、影響を受けた部分もあります。特に最後の琉花の長回しのシーンは、芦田さんの声があったおかげでより作りやすかったです。
■作品全体を通して、意識したところを教えてください。
秋本:全体を通して壮大で密度のある映像が魅力ですが、もう一つ重要なのは日常に潜んでいるものの描き方です。例えば“光ってこういう風に光るんだ”、“水に濡れるとこういう表現になるのか”というような、この世界の秘密に触れているような感じがする部分を、面白いと思ってもらえたらいいなと思って作りました。
小西:「五感に訴える」ことは、アニメーターとして常日頃意識しています。触るとか、感覚を表現することは、派手さはないのですが、すごく自分も意識しているところで、そこはこの作品で伝わるといいなと思っています。
渡辺:「命の意味と在り処」というのがこの作品の大きなテーマにありますが、命というものを考えるときに何を思い浮かべるかは人ぞれぞれ違うと思います。たまたま琉花の場合は、お母さんに行き着き「個」としての自分を思い返しましたが、受け取った皆さんの中にもそれぞれ異なるものがあると思います。そういったことを考えるきっかけになれば、またそんな原作のメッセージが少しでも伝われば嬉しいです。今日、初めて作品が世に出ていきましたが、この作品がこれからどのように広がっていくかがとても楽しみです。
【登壇者プロフィール】
■監督/渡辺歩
1986年にスタジオメイツに入社、88年にシンエイ動画へ移り、TVアニメ「ドラえもん」で原画・作画監督・演出など多岐にわたって活躍。劇場長編『ドラえもん のび太の恐竜2006』(06)などを監督し、2011年よりフリーに。その後はTVアニメ「団地ともお」(12~15)、「宇宙兄弟」(12~14)など精力的に監督作を発表。18年には「恋は雨上がりのように」「グラゼニ」「メジャーセカンド」と、監督を務めたTVシリーズが3本も放映。本作は4本目の劇場長編となる。
■キャラクターデザイン・総作画監督・演出/小西賢一
1989年にスタジオジブリに入社。アニメーターとして『耳をすませば』(95)、『もののけ姫』(97)などに参加し、高畑勲監督『ホーホケキョ となりの山田くん』(99)で作画監督を務める。以降はフリーとなり、今敏、宮崎駿、高畑勲といった巨匠たちの下で見応えのある仕事を多数手がけている。作画監督としての代表作に『劇場版 鋼の錬金術師 嘆きの丘の聖なる星』(11/キャラクターデザインも)、『かぐや姫の物語』(13)など。
■CGI監督/秋本賢一郎
STUDIO4℃制作の『ベルセルク 黄金時代篇』3部作(12~13)にCGIスタッフとして参加し、半人半獣の戦士ゾッドや馬のCGを多がける。第3部『降臨』では「蝕」のシーンを担当し、絵コンテにも名を連ねている。その他、『渇き。』(14)アニメーションパートのCGI監督や『ハーモニー』(15)3DCGモデリングチーフなどを務める。
映画『海獣の子供』 6月7日(金)全国ロードショー
【キャスト】芦田愛菜 石橋陽彩 浦上晟周 森崎ウィン
稲垣吾郎 蒼井 優 渡辺 徹 / 田中泯 富司純子
【監督】渡辺 歩 【音楽】久石譲 【主題歌】米津玄師「海の幽霊」
【アニメーション制作】STUDIO4℃ 【配給】東宝映像事業部
©2019 五十嵐大介・小学館/「海獣の子供」製作委員会