ソウル市鍾路区の「シネキューブ光化門」で3月25日午後、映画『デッドエンドの思い出』(チェ・ヒョンヨン監督)のメディア試写会が開催された。試写会後に行われた記者懇談会には、主演を務めた少女時代のスヨン、チェ・ヒョンヨン監督をはじめ、日本からカフェの店長・西山役の田中俊介と原作者の吉本ばななも駆けつけ、ティーチインとともに、韓国メディアによる質疑応答が行われた。

【韓国試写会】
日程:3月25日 16:30の回上映後
会場:シネキューブ光化門(ソウル市鐘路(チョンノ)区新門路(シンムンロ)1街(ガ)226 興国生命ビルディング)

登壇者:スヨン(少女時代)、田中俊介(BOYS AND MEN)、チェ・ヒョンヨン監督/吉本ばなな

原作者の吉本ばななは映画化について「私の小説を読んでそれを映画にしようと思ってくれる人がいることは、私にとってなによりの励みです。私はいつも頭のなかで映画を撮るように小説を書いているので、それが誰かに伝わったということが本当に嬉しい。今回も自分の作品を別の目で見ることができて、すごく懐かしく、嬉しく思います」と語った。

また「私がこの小説を書いたのは17年前のこと。そのとき私は妊娠していて、この後私は残酷なことや怖いことが書けなくなるんじゃないかと思って、この1冊の本のなかに残酷なことや怖いことを沢山書きました」とこの小説が誕生した経緯を明かした。さらに「私の小説は読んでもそんなに癒されないけれど……」と会場の笑いを誘い、「映画には本当に若い力が溢れていて、『主人公はまだ若いんだな』という感じが私の小説に比べて強く感じられるものになっていたので、すごく安心しました」と映画に太鼓判を押していた。 主演のユミを演じるスヨンは、「撮影の時からちょうど1年が経ちました。私の初主演映画で代表作かも知れません(笑)。代表作と言うには個人的に演技力がまだまだ足りないと思っているので恥ずかしいですが、映画と原作小説が伝える物語と世界観は、私の個人的な情緒とかなり合う作品、という気がします。」と振り返った。 西山役を演じる上で田中さんは「この作品ではとにかく現場でコミュニケーションを取ることを心掛けた。共演者の皆さんと他愛もない話しをして、笑って、その空気を西山に乗っけることによって、温かみがスクリーンから放たれるのではないかということを信じて取り組んだ」と振り返り、「明るいところに居ると思っていても、気づいたらそこは暗闇だったということは、きっと誰にでも経験のあること。人間には誰しも弱いところがあるからこそ、いろんな人と助け合って生きていくのかなと僕は思う。人と人との関わり合いの中で生まれる温かい空気を韓国の皆さんにも味わってもらって、この映画を愛して応援していただければ」とアピール。

ヒョンヨン監督は「こんなにたくさん来て下さって、本当にありがとうございます。いつもシネキューブ光化門の片隅で映画を見ていた学生だった私が今、監督として皆様の前に立つ機会ができて感慨無量です。この空間と機会が本当に光栄です。」と長編映画デビューの感賞を述べた。 そして最後に吉本ばななが「この映画は、観た人たちの心に欠片として残って、1年2年経ってから、また西山くんや、ユミちゃんに会いたくなるような、そんな映画だと思います。長く愛してあげて欲しい」と呼びかけ、懇談会は幕を閉じた。 この試写会には、スヨンさんが所属する人気アイドルグループ「少女時代」のソヒョン、テヨン、ヒョヨン、ティファニーら、韓国のスターも多数駆け付けた。

また、この日は「CGV狎鴎亭」にて、よしもとばななさんのファン向けの試写会も行われ、上映後には監督とスヨンが参加したティーチインと、よしもとさんのサイン会も実施された。 ティーチインでよしもとさんは、映画のヒロインのユミというキャラクターについて「人生に特に何事もなく、のんびりと育った恵まれている人が突然暗闇に突き落とされる」と解説したうえで、「2年間彼氏から連絡がなくても大丈夫だと思っていられるような、そんな(現実に)存在するのかもわからない人物に、スヨンさんの演技が説得力を持たせてくれた」と、スヨンの演技を絶賛していた。

また、田中俊介が演じた西山については「つかみどころのない男」と称し、「きっとこれまでの西山だったらユミと付き合っていたに違いない」としながらも、ユミが西山のことをそれまでとは違う人間として扱い、西山もユミに対して彼がこれまで付き合ってきた女性たちとは何か違うものを感じたからこそ、二人は男と女の関係にはならず、それゆえ「癒された」と解説。さらにそれは「映画と原作に共通している部分」であり、「心の奥底にある感覚だけが人を癒す」ということこそが、自身が「小説を通じて描きたかったこと」であると、原作者の想いを披露した。

スヨンは「今までの人生の中で大変なことを経験せずに生きてきたユミが、名古屋に残ってゆっくり何かに気づいていく過程を演じたことで、自分も成長するきっかけになったような気がします。映画を撮った当時は、私にも遅い思春期が来たような気がしました。家族と仕事から離れてよその都市で映画撮影をしてる間、私もその思春期を乗り越える、癒しの時間になった作品でもあります。劇中のユミのように黙々と時間を過ごすこと自体が、成長の大きい部分を占めるというところにすごく共感できました。」とユミに込めた思いを語った。

監督は「ゲストハウス」の登場人物についての質問に、「原作のカフェという空間をどう表現するか悩んだあげく、ゲストハウスだったらどうかな、という考えが浮かびました。泊っている間だけでもそこにいる皆が家族みたいに暮らすゲストハウスなら、ユミも心地よいだろうし、そこに滞在することを選ぶんじゃないかと思ってゲストハウスを作ったら、登場人物が増えちゃいました。」と笑いを交えて答えていた。 ティーチイン後の劇場ロビーには、『デッドエンドの思い出』の韓国語版を手にした多くのファンが長蛇の列を作っていた。

出演︓チェ・スヨン(少⼥時代) ⽥中俊介(BOYS AND MEN) 他 原 作︓よしもとばなな『デッドエンドの思い出』(⽂春⽂庫刊) 監督︓チェ・ヒョンヨン 配給 アーク・フィルムズ
Ⓒ2018 「Memories of a Dead End」 FILM Partners

公式サイト︓dead-end-movie.com