「自分らしく生きる一人の女性」を通して、人間の強さと優しさ、そして寛容を謳い上げ、生きていく中で一番大切なものを気付かせてくれる映画『たちあがる女』が、3月9日(土)より、YEBISU
GARDEN CINEMAほか全国順次公開致します。
この作品は、処女長編作『馬々と人間たち』で鮮烈なデビューを飾り、アキ・カウリスマキやロイ・アンダーソンの後に続く、北欧の才能と目されるベネディクト・エルリングソン監督の最新作。雄大なアイスランドの自然と叙情的な音楽に彩られた現代のおとぎ話ともいえる物語は、とぼけた味わいとコミカルな笑いを醸しながらも、いまの人間社会において見逃してはいけない問題を皮肉たっぷりに描いています。

2018年12月、世界経済フォーラム(WEF)は、世界各国ジェンダー不平等状況を分析した世界ジェンダー・ギャップ報告書(Global Gender
Gap
Report)2018を発表、ジェンダーの格差が少ない1位〜5位は北欧が大半をしめ、日本は対象国149カ国中、110位、G7の中で圧倒的に最下位という残念な結果でした。そんな中、なんとアイスランドは10年連続1位を獲得。アイスランドと日本では、何かそんなに違うのか?!

つきましては、3月8日の“国際女性デー”に向けて、アイスランド大使のエーリンさんをゲストにお迎えし、北欧圏でいち早く、1970年代よりジェンダー・ギャップの問題に取り組んできたアイスランドの歴史や文化、現在の女性のライフスタイルなど、この映画を通して皆様に知って頂くべく試写会付トークイベントを開催致しました!

エーリン大使:私は日本に来て1年が経ちますが、夫を日本に連れて来ました。彼は医学博士ですが、私が駐日大使になることになり、一緒に日本について来てくれました。いまはリサーチの仕事をしています。そして、私には成人した2人の娘がいます。孫息子もいます。

越智さん:私たち国立女性教育会館は、昨年12月にアイスランドにおけるジェンダー平等の取り組みについてのシンポジウムを行い、その際にご後援して頂いたのがアイスランド大使館でした。本日はそのご縁もあり、参加させて頂きました。まずは映画『たちあがる女』の感想を教えて頂けますか?

エーリン大使:非常に面白かったです。愛についての映画だというのが面白かったですね。男女の愛ではなく、国や自然や家族に対する愛で非常に好ましかったです。

越智さん:この映画で際立っているのが、何と言っても主人公の女性ハットラが自分らしく生きていることだと思います。アイスランドは10年連続で、世界で最もジェンダージャップ、男女格差が少ない国として有名ですが、アイスランドはどのようにそれを貫いてきましたか?

エーリン大使:この映画の主人公ハットラは誰でもなく、自分を信じていますが、アイスランドの女性の特徴といえるかもしれません。アイスランドは小さい国なので、物事を非常に個人的に受け取って、個人的に変えていこうとします。1970年代に北欧、アメリカでもフェミニズムの運動が起こり、アメリカではさらに黒人の方が平等を求めるという動きになました。それがアイスランドにも派生し「レッド・ストッキング」という運動になり、社会全体を巻き込みました。それまではほとんどの女性が主婦でしたが、外に出て働くようになりました。
また社会の方も働き手を必要としていました。国として、それほど豊かではなかったので、1つの家族に2人の働き手いてやっと生活ができるという感じでした。1975年のある日、アイスランドのすべての女性がストライキをしました。全く仕事をやめてしまったのです。その場に私もいました。非常に冒険的な1日でした。私は高校生でしたが、とても面白い1日だったことを覚えています。あらゆる女性が中心地のレイキャヴィクに来ましたし、田舎の女性も外に出ました。お母さん、娘、おばあさん、ひいお婆さんまで、みんながストライキし、そのことにより社会がストップしてしまった。これは国にとって大打撃でした。それで、次の年に議会で男女均等の法律が採用されました。特に働いている女性に関しては、大きな動きとなりました。
もっと画期的なことが1980年代に起きました。男性も女性も、みんなが女性を大統領に選びました。民主的に選ばれた女性大統領ということでは世界初です。そして、彼女はシングルマザーでした。ヴィグディスさんは16年間も大統領を続け、多くの女性、特に若い女性のロールモデルになりました。小さい子供が、彼女がずっと大統領をなさっていたので、「この国では男性は大統領になれない」と思っていたという面白い話があります。その3年後、議会ではまだ男性が支配的でしたので男性的な問題である経済などが主に扱われていました。議会でジェンダー・イシューについて扱って欲しいということで、女性が「女性同盟」という政党を立ち上げました。これは他の政党にも考え方に大きな変化を与えました。それまでスポットライトを浴びていなかった女性の問題を議会に取り上げるようになりました。ウーマンズイシューといっても、人権や社会保険、健康、保育などのことが議会に持ち込まれました。この党がした1番大きなことは、他の党のメンタリティーを変えたことです。他の党が、全女性が「女性同盟党」に投票されては困ると恐れを感じ、どの党も女性の候補者を立てるようにしました。しかし、アイスランドも完全に平等ではありません。世界中を見渡しても全く平等の国はありません。しかし、そうなるべく平等な社会を求めています。ジェンダーだけではなくLGBTQといったマイノリティも含めて、全ての人が平等な機会を持てるように努力しています。現在のアイスランドの首相は女性です。アイスランド史上、2度目の女性の首相です。10年前に初めて首相になった女性はレズビアンあるということをオープンにしていました。アイスランドも長い年月をかけて社会的な平等を勝ち得ようとしています。まだ男女の給料の格差があり、それを乗り越えようとしている最中でもあります。

越智さん:70年代のフェミニズムの運動を受け、レイキャヴィクで起きたゼネラルストライキ、世界で最初に女性の大統領を輩出し、世界で初めて同性愛者であること告白した首相、そして現在の首相も40代と伺っております。日本からするとジェンダーの分野では進んでいるアイスランドですが、それでもまだまだ平等ではないという大使のメッセージが心に残ります。私たち日本の社会へのメッセージを頂けますでしょうか?日本がより平等になるためには、どうすればよろしいでしょうか?

エーリン大使:アイスランドも長い時間をかけて変わりました。残念なことに何かをすれば、全てが変わるということはないのです。来日したときに色々な方とお話しました。日本にはとても才能があり、教育がある優秀な女性がたくさんいますが、みなさん今の状況には幸せには思っていない女性が多いと感じました。「どうすれば変わりますか?」と、今のような質問をよく受けます。まずアイスランドは小さな国なので変えやすいというのはあるかと思います。日本は非常に大きな国で、またうまく回っているので、方向性を変えるのは難しいかと思います。ですが、才能がある女性と話して思うのは、みなさんとても謙遜されます。時々は謙遜しすぎではないかと思うこともあります。社会の中での人権や、自分には夢があるともっと声を上げてもいいかと思います。自分自身の道を探すことは可能であり、ワーク・ライフ・バランスを保つことは可能であると声高に言ってもいいと思います。もちろん平和的にしていくことは大事ですし、変わることは難しいですが、もう少し声を上げても良いのではないかと思います。

駐日アイスランド大使 エーリン・フリーゲンリング大使 プロフィール
駐日アイスランド共和国特命全権大使として2018年3月に就任。アイスランド大学やストックホルム大学院で法律を学び、弁護士の肩書をもつだけでなく、アイスランド男女平等評議会の事務局長を務めた経験などをもつ。フィンランドでアイスランド大使としても活躍。今は大使として日本とアイスランド両国間の交流促進に励む。

独立行政法人国立女性教育会館 研究国際室 専門職員 越智方美(おち・まさみ)プロフィール
お茶の水女子大学大学院人間文化研究科博士後期課程修了。博士(社会科学)。上智大学卒業後、外資系企業にてマーケティング、人事業務を担当。英国イースト・アングリア大学大学院留学を経て2008年より現職。国立女性教育会館では、海外の男女共同参画推進機関との連携業務を担当し、社会学の視点から、日本やアジア諸国のジェンダー平等政策についての研究に従事。2012年より国連女性の地位委員会(Commission
on Status of Women)に日本政府代表団メンバーとして参加。

【あらすじ】
風光明媚なアイスランドの田舎町に住むハットラは、セミプロ合唱団の講師。彼女は周囲に知られざる、もう一つの顔を持っていた。謎の環境活動家〝山女〟として、密かに地元のアルミニウム工場に対して、孤独な闘いを繰り広げていたのだ。そんなある日、彼女の元に予期せぬ知らせが届く。長年の願いだった養子を迎える申請がついに受け入れられたのだ。母親になるという夢の実現のため、ハットラはアルミニウム工場との決着をつけるべく、最終決戦の準備に取り掛かる――。

監督・脚本:ベネディクト・エルリングソン『馬々と人間たち』出演:ハルドラ・ゲイルハルズドッティル、ヨハン・シグルズアルソン、ヨルンドゥル・ラグナルソン、マルガリータ・ヒルスカ
2018年 / アイスランド・フランス・ウクライナ合作 / アイスランド語 / 100分 / カラー / 5.1ch /英題:Woman at war
/ G/日本語字幕:岩辺いずみ 後援:駐日アイスランド大使館
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3月9日(土)YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開