かけがえのない“あの頃”に涙する――今を生きる大人たちへ贈る再生と感動の物語

西加奈子が第152回直木賞(「サラバ!」)受賞後、一作目として書き下ろした小説「まく子」は、児童小説としては異例の累計55,000部の売り上げを記録し、文庫版が先日刊行されました。そして、幅広い世代から愛される原作の世界観を見事に感動作として昇華させた映画『まく子』が、いよいよ3月15日(金)よりテアトル新宿ほか全国公開となります。

ひなびた温泉街の旅館の息子サトシは、小学5年生。自分の体の変化に悩み、女好きの父親に反感を抱いていた。ある日、美しい少女コズエが転入してくる。言動がどこか不思議なコズエに最初は困惑していたサトシだったが、次第に彼女に魅せられていく。そして「ある星から来たの。」と信じがたい秘密を打ち明けられる。枯葉や紙の花を楽しそうにまくコズエが、やがて町の人々みんなにまいたものとは…。
思春期を生きるサトシの葛藤とコズエとのせつない初恋を軸に、家族を愛しつつも浮気をしてしまう父親、それを知りながら明るくふるまう母親、道ならぬ恋をする若い女性、訳ありの親子・・・小さな町のどこか不器用な人々を映し出します。

この度、文庫刊行&映画公開を記念して、原作者・西加奈子さんと、映画『まく子』の監督を務めた鶴岡慧子監督によるトークイベントを開催しました。
小説「まく子」執筆のきっかけや作品にこめた想い、映画『まく子』制作の経緯や撮影秘話など、お二人にたっぷり語っていただきました。

【日 時】 3月4日(月) 【会 場】 紀伊國屋書店新宿本店
【登 壇】 西加奈子(作家)、鶴岡慧子(映画監督)

西加奈子さん、映画化に感動!
映画を観た感想を聞かれた西さんは「素晴らしかったです。原作者ということを忘れてましたね。没頭して見ました。」と語り、その感想を聞いた鶴岡監督は「こんなに原作者の方に手放しで祝福していただくことはそんなにないのでうれしいです!こんなに幸せな映画はないと思います。」と安心感と喜びを爆発させ、なごやかなムードでトークがスタートしました。

西さんが小説「まく子」を執筆したきっかけとは?
絵本で有名な出版社、福音館書店からの出版が決まっていた「まく子」。西さんは「小中学生が読めるものを書こうと思って書き始めましたが、自分自身で出来が気に入らなくて少し執筆をお休みして、その間に直木賞を頂いたりして。その後しばらくしてから執筆を再開したときに、色々難しく考えすぎていたんだなと思い直し、いまの私自身が思っていること、正直な気持ちを、サトシくんという小学6年生の男の子の体を借りて書きました。「まく子」には悪い人が出てこないんです。それは作品として優れてないかもしれないけど、悪い人が出てこない、こんな美しい集落はないだろうと、個人的には疑うことはあっても、作家としてはこういう集落を作ろうよ、という想いがあって。「まく子」は、こういう人がいてくれたらいい、という私の理想を書いた作品ですね。」

鶴岡監督が引き継いだ西さんの「想い」
西さんの話を聞いた鶴岡監督は「「全員良い人」っているところは引き継ぎたい。変に裏切りたくない、そこは大事にしましたね。全員悪人という映画もありますが、その対極にある映画ですね(笑)。」と西さんが原作にこめた想いを映画にリレーしたことを明かしました。

—–小説を読んだとき、印象的に残ったセリフは?

小説「まく子」への想いを語る鶴岡監督に、小説の中で印象に残ったセリフを聞くと「コズエがサトシにいうセリフ「小さな永遠は終わらないといけない、大きな永遠に変えないと」ですね。そのセリフの前のシーンが、小説と映画とでは違うんです。」の答えが。それを受けた西さんは「永遠は人間がつくるものじゃない気がして、期せずして永遠になっていくものが私にとって永遠だと思ったんです。自分の命に固執することを、自分できちんと考えたかった。サトシくんみたいに成長するんじゃなく、わたしは自分が老いていく過程での「永遠」を考えたんだと思います。

—-小説にはない、映画オリジナルの部分を聞かせてください

鶴岡監督は「原作は夏休みの設定だったんです。だけど主役の山﨑くんが思春期でどんどん成長していってしまうので、夏だと間に合わないので春休みに書き換えました。もともとの設定にあった夏休みのプールの場面を温泉街のお風呂のシーンに置き換えるなどしましたね。」それを聞いた西さんは「原作者としてはそんな設定をしていたことや、重要なキャラクターがいないことなども気づかなくて、すっかり忘れて見入ってました!時折「あれ、このセリフ知っているな」って思ったりして。映像と小説は全然違って、そこがすごく新鮮で、楽しかったですね。」
映画『まく子』でもとりわけユニークで印象的なシーン、実写映画に砂絵のアニメーションを挟んだ演出について、鶴岡監督は「小説ではサトシとコズエがふたりで語りあう分量が多いんです。だけど会話しているだけでは伝わらない。それまで実写だけで映画を作ってきたので、別の要素を入れること発想はなかったのですが、友人でもあるアーティスト・佐藤さんの砂絵の作品のことがピーンと思い浮かんで。すごくいいんじゃないか、と一人で興奮して、脚本に「砂絵」って書いて出したら、プロデューサーはじめみんなに「これなに?」と言われましたね(笑)。でも友人のアーティストにも作品制作を快諾してくれて、話がスムーズに進んだんです。小説の中でも“粒”がキーワードになっているので、これを生かすためにも砂絵だな、と思ったんです」西さん「あのシーンは素晴らしかったです!小説だけに留まってない、すごく好きなシーンですね。」

映画『まく子』キャストについて語る
鶴岡監督は「主役の山﨑くんは、彼が出演した『真夏の方程式』がすごく好きで、初期の段階から候補だったんです。もちろんお芝居も上手なのですが、彼の佇まいがすごく普通で子供っぽい面があって、そこがよかったんです。新音さんの演じたコズエの役は、最初のオーディションではピンとこなくて、この役はこだわりたい、と意地になって深夜にネットサーフィンをしていたら、新音さんのページにぶち当たって「この子だ!」と思いました。ご本人にお会いした後すぐ決めましたね。」とキャスティングの経緯を話し、西さんは「山﨑くんは成長の途上にある、ゆらぎのある顔をしているのが魅力的。新音さんは人間離れした美しさに説得力があるなと思いました。」と二人の印象を語りました。

サトシの父親を演じた草彅さんについて、鶴岡監督は「草彅さんはキャスティングの要でしたね。最初に草彅さんを起用したい、という話し合いをして、ダメ元で当たって砕けろ、聞いてみようという話になり。いざOKを頂いたら、すごく嬉しい半面恐ろしい、怖いな、っていう気持ちは正直ありました。草彅さんの衣装合わせでは本当に緊張して。でもお会いして、いろいろ伝えると、自然体でふっと受け入れてくれるんです。現場でも、あんな大スターなのに、ギラギラな感じはまったくない。お芝居についても、とてもいい感じで力が抜けていて。でもその中で、お父さんとサトシの重要な見せ場があるのですが、そこではスクリーンの向こうにいるお客さんに向けてどうお芝居するか、その見せ方がエンターテイナーとして徹底している。そのバランスの良さはすごく勉強になりました。」と明かし、西さんは「もともと綺麗な顔なんですけど、こんなセクシーやったんや!とびっくりするくらい、役者さんて凄いなと思いました。」と本作で新境地をみせる草彅さんへの感想を語りました。

最後に、西さんからは「私は映画が本当に好きなんです。一映画ファンとして作品を観て素晴らしかったので、同じ気持ちになって頂けるんじゃないかと思います」、鶴岡監督からは「ちょうど一年前に撮影していた作品がいよいよ公開を迎えドキドキしています。原作本にはまだたくさんの素敵な言葉がつまっています。ぜひ映画と一緒に楽しんで欲しいです!」と各々来場者に向けてメッセージを送り、トークイベントは終始なごやかな雰囲気で終了しました。

初主演 山﨑 光 × 美少女 新音 × 新境地で魅せる 草彅 剛 × 須藤理彩
『真夏の方程式』(2013)で福山雅治演じる湯川と心を通わせる少年役だった山﨑光が主人公・サトシを演じ、思春期の揺らぎを見事に表現。圧倒的な美しさを放つ新星・新音(にのん)が、謎の転入生・コズエを演じます。そして、旅館を切り盛りするサトシの母・明美役に、ドラマ「半分、青い。」に出演し話題の女優・須藤理彩。女好きでダメな父親だけれど、息子の成長を陰ながら見つめ背中を押す父・光一役を草彅剛が演じ、色気を漂わせ新境地をみせます。

監督を務めたのは、初長編映画『くじらのまち』がPFFアワード2012にてグランプリ&ジェムストーン賞をW受賞し、第63回ベルリン国際映画祭をはじめ各国の映画祭で上映され国内外問わず高く評価された鶴岡慧子。高橋優が書き下ろした主題歌「若気の至り」が、エンディング曲として感動の余韻に寄り添います。

映画『まく子』 出演:山﨑 光 新音 須藤理彩/草彅 剛
原作:「まく子」西加奈子(福音館書店 刊) 監督・脚本:鶴岡慧子
主題歌:高橋 優「若気の至り」(ワーナーミュージックジャパン/unBORDE)
©2019「まく子」製作委員会/西加奈子(福音館書店)公式HP:http://makuko-movie.jp/