2019 年 1 月 25 日(金)に公開となった、劇場長編アニメーション『あした世界が終わるとしても』。
物語の舞台である新宿で、高校三年生の主人公・真とヒロイン・琴莉が、あらたな一歩を踏み出そうとしたある日、「もうひとつの日本」から、「もうひとりの僕」である“ジン”が現れる──。
「わたしたちが生きる日本」と「もうひとつの日本」を舞台に繰り広げられるドラマと、圧倒的なアクションシーン満載のアクション・ラブストーリーです。
この度、2月6日(水)に新宿ピカデリーにてスペシャルトークショーを行いました。舞台挨拶には櫻木優平監督、梶裕貴さん、そしてスペシャルゲストとして映画監督の岩井俊二氏が登壇し、不思議な縁のある三人がスペシャルトークを繰り広げました。

【開催日】 2 月 6 日(水) 舞台挨拶:22:15~23:00
【会場】 新宿ピカデリー スクリーン 1 (東京都新宿区新宿3丁目15−15)
【ゲスト】
岩井俊二(いわい・しゅんじ/映画監督)
櫻木優平(さくらぎ・ゆうへい/「あした世界が終わるとしても」監督)
梶 裕貴(かじ・ゆうき)/狭間 真(はざま・しん)役

劇場長編アニメーション『あした世界が終わるとしても』の公開を記念して、物語の舞台でもある新宿にある映画館・新宿ピカデリーにて、2 月 6 日(水)にスペシャルトークショーが開催。本作で長編劇場映画監督デビューを果たした櫻木優平監督、主人公の高校三年生・狭間真の声を担当した梶裕貴、そして、櫻木監督が『花とアリス殺人事件』で CG ディレクターを務めたとい縁があり、また梶さんも映画『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』に声優として参加し、以前から作品の大ファンだという岩井俊二監督も登壇し、本作について語り合った。

岩井監督はまず、櫻木監督を「監督デビューおめでとうございます」と祝福。アニメにも深い造詣がある岩井監督だが、「僕は実は、リアルタイムで『機動戦士ガンダム』の第 1 話を見たという稀な経験をしています(笑)」と明かし、本作で描かれるパラレルワールドの構造についても「好きなジャンルです。企画段階で呼んでほしかったです」と熱く語り、会場を沸かせる。
また岩井監督は、櫻木監督の 3DCG の技術について「モデリングとかは、かなり進化したと思う」と高く評価。さらに「アクションシーンもすごかったし、意外と普通の何気ない芝居をどう料理するのか? 日常的な動きの方がハードルが高かったり、苦心があったんじゃないかと思う」と分析する。

櫻木監督は岩井監督の言葉に「今後もそこは CG の課題だと思います」とうなずく。岩井監督はさらに「引き絵の部分も昔と比べてうまくなっていて、3D を使ってアニメを作っていくのには正解がない中で、ようやくここまで来たのかと感慨深いです」と若手監督の成長に目を細めていた。
櫻木監督が監督デビューを果たしたことにちなんで、岩井監督が『Love Letter』で劇場長編作品デビューを果たした際の心境を尋ねると「自分で決めていたことがあって、それはいまでも変わらないけど、完成したらまず、自分で点数をつけるようにしています」と告白。

「そうすると、他人から何を言われても『まっ、いいか』となる。『Love Letter』はその後、アジアでもヒットしたけど、自分の中での 74~75 点という評価は変わらない。“ちょっとだけデキるけど、デキない子”としてずっと自分の中にいます。僕よりも早くデビューした同世代の監督たちが、賞をもらったことで人も作品も変わってしまうのを見てきたし、『これで評価されたから』とアイデンティティまで変わってしまい、元の所に帰ってこれないのを見てきました。最高傑作を作ろうと思っちゃダメ。人が作るものなんだから、『せいぜい、こんなもんだ』くらいの気持ちでいい」と監督としての心構え(?)を説き、これには梶さんも人生訓として感銘を受けたよう。

梶さんは「僕らの仕事は、その時はそれが全力だったけど、いま思えばもっとやることできた…というのを見つけてしまうもの。でも、その時にしか出ない良さ、輝き、悪い部分も含めての魅力があると思う。“スコアが変わらない”というのは確かにその通りで、二度とその点は出せない」と岩井監督の言葉に強く同意していた。
また、梶さんから岩井監督に「岩井監督作品は、リアリティある描写、役者の素に近い生々しさが魅力ですが、監督は人間のどういう部分に面白みや魅力を感じるんですか? 役者の選び方で、『この役はこの人』とどういう瞬間に感じるのですか?」と質問!

岩井監督は「難しいなぁ(苦笑)」とうなりつつ、自身の最新作である『Last Letter』に出演している新鋭女優・森七菜の存在に触れ「彼女は新海(誠)さんの新作(『天気の子』)でも主役をやるけど、去年、僕の作品のオーディションに来て、何がって説明できないけど、雰囲気が特別に良くて『この子しかいないんじゃないの』という感じで決まったんです。聞いたら、行定(勲)さんや、熊澤尚人さんも以前、キャスティングしてて、行定に電話したら『あのコ、いいよね』という話になりました。よくいるごく普通の高校生の役なので、ごく普通の女子高生をピックアップすればいいはずだけど、大きいスクリーンで、ごく普通過ぎると、観客のみなさんは見てくれないんですよ(苦笑)。長時間、魅了し続けられる何かがいるんです」とキャスティングにおいて、言葉で説明できない特別な“何か”を感じることがあると説明する。
一方で「(その“何か”は)生まれた時に決まっている部分もなくはないけど、そうじゃない人もいます。そういう人は、自分の顔を鏡で見て『ここがイヤだな』と思うような部分をちゃんと愛せていて、それが特徴になってるんです。本人がそれを嫌がって見せないと不自然になっちゃう。自分の好きになれない部分に愛情を注げるか? 居直ってさらけ出したほうが魅力的に感じることもある」と語り、その深い哲学に梶さんも「すごく勉強になります」と深々とうなずいていた。

また、櫻木監督は「岩井さんの若い女の子の描き方に魅力を感じます。いつまで経っても若い女性を描くのが上手ですが、セリフのチョイスとか情報収集はしてるんですか?」と質問すると、岩井監督は「あまりそういうことはしてない」と回答。「逆に最近、固定観念で Twitter を通じて 20 代と思ってた人が同年代だったりすることもある。(若い女性を)あまり、そこまでかわいい存在として見てないのかもしれません。変なものだなとして見てるし、変な人から拾うものってすごく多いんです」と明かした。
最後に岩井監督は、櫻木監督に対し「いよいよ長編監督としてデビューして、これから 3DCG を使いながらジャパニメーションの独特なところを世界に発信していってくれると思う。(日本の)実写は海外でなかなか見てもらえないけど、アニメはスーッと見てもらえるのでぜひ頑張ってください」とエール。
櫻木監督は「僕自身、“監督”と近くで仕事をしたのは岩井監督が初めてで、監督のやり方、折れちゃいけないことや守らなきゃいけないことを見せていただき、それが心の支えにもなっていて『頑張ろう!』って気持ちになります」と岩井監督のエールに応え、会場は温かい拍手に包まれた。
『あした世界が終わるとしても』は公開中。

<作品情報>
タイトル:あした世界が終わるとしても
公開日:2019 年 1 月 25 日(金)
権利表記:©あした世界が終わるとしても
原作:クラフター
監督・脚本:櫻木優平
制作:クラフタースタジオ
製作:『あした世界が終わるとしても』製作委員会
配給:松竹メディア事業部
公式 HP:ashitasekaiga.jp
公式 Twitter:@ashitasekaiga