ハリウッド映画『RED/レッド』や『きみがぼくを見つけた日』などのヒット作で知られるロベルト・シュヴェンケ監督の最新作『ちいさな独裁者』が2月8日より、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、YEBISU GARDEN CINEMAほかにて全国順次ロードショー致します。

公開が迫った昨日、ジャーナリストの津田大介氏、朝日新聞記者の藤えりか氏を招いてトークイベントを行いました。70年以上も前のドイツで、偶然にも権力を手にした若者が起こした信じがたい実話を映画化した本作と現代社会とを結び付け、我々に警鐘を打ち鳴らす内容となりました。

【日時】1月29日(火) 18:00~
【場所】角川映画 試写室(東京都千代田区富士見2-13-3 角川第2本社ビル1F)
【登壇】津田大介、 藤えりか(朝日新聞記者)

『ちいさな独裁者』は脱走兵だった男が偶然拾った軍服で大尉に成りすまし、一時は80人前後の部下を従え、一晩で100人近くを虐殺するなどの大量殺害を若干二十歳で行った実在の人物を描いた衝撃作。本作の公開記念イベントに、ジャーナリストの津田大介氏、朝日新聞記者の藤えりか氏が登壇し上映前にトークを行った。

津田氏は「面白かったですね。観終わった後に自分の置かれている会社とか学校とかそういった組織の中でどういう風に自分は動いているんだろうかとか、自分の人間関係あるいは日本社会に引き寄せて考えさせられる。70年も前のドイツでの出来事を描いているのに、現代の日本社会に結び付けて考えられる映画でした。観る側にずっと緊張感を与えてピリピリさせるので、いい意味で観た後すごく疲れる」と本作の感想を語り、「主人公がとても若くて、映画の中でもこんな若いのに何で大尉なんだ?と、彼に疑惑を抱く人々や場面が何度か出てきて。最初の方はフィクショナルに描かれているけれど、最後の方になると観ている我々も登場人物たち同様に彼に抱いていた違和感がなくなっていき、寧ろ威厳を感じていく…。そんな風に映画の世界に呑み込まれていく感覚があった」とこの映画の魅力を語った。

以前、監督にインタビューを行った藤氏が「取材時に監督が、ドイツには加害者側から戦争を描いた作品が少ないと話していて、あんなにヒトラーの映画があるのにと意外だった。けれど、“ヒトラーひとりだけが悪い”という映画はあるけれど、彼には多くの支持者がいたから、ああいった独裁者が生まれたという反省の映画がない、と聞いて納得した。」と取材時のエピソードを明かすと、津田氏は「トランプだって当初は誰もがバカにしていたのが、候補者レースで勝ち上がり大統領になってしまった。そして更に問題なのがトランプがトランプであり続けていること。本人が自分自身を騙してトランプであろうとしていると感じます。この映画の主人公も、まわりが彼に服従する人ばかりになっていったのは、それは手八丁くち八丁の人間に権力を与えるとどうなるのか?それは悲劇に繋がっていくんだな、ということを考えさせられる映画ですね」と現在の国際社会と本作とを関連付けて語った。藤氏も「トランプだって、初めはこの映画の主人公が纏う軍服のように「借り物感」があったのに、段々と馴染んでくるみたいな。注目してほしいのは、同調圧力は怖いということ」と続けた。

藤氏は「“独裁者”という言葉が割と身近に感じられるようになってきた。現代の独裁者といって思い浮かぶ人はいますか?」という問いに、津田氏は「森達也さんがこの映画へのコメントで“凝視すべきは独裁者ではなく、彼に同調した周囲の「彼ら」なのだ。”と言っているけれど、トランプ大統領や日本でも、もしかするとそうなのかもしれない。要するに独裁者個人にできることは限られていて、独裁者を独裁者たらしめるのは周囲であり、その周囲にはメディアも含まれ、独裁者はメディアを取り込もうとする」と回答。

津田氏は「この映画を語るキーワードは“プロセス”だと思う。なぜ彼が権力を掌握することが出来るようになったのか、日本の政治とかにも繋がる話だと思うけれど、こういうプロセスで、だれもがこうやって責任を放棄して盲従していくんだなと、そこがすごくリアルに描かれている。この映画の中に出てくる登場人物の誰ひとりとして共感できるキャラクターがいない。でもポイントポイントで共感してしまう、モリカケ問題や、官僚の忖度の問題などもこんな感じで物事が決まっていったんだろうなと思わせる、今の日本にとても繋がる話だなと思います。」と現在起きている政治問題についても言及した。

一般の方とのQ&Aでは、ナチス関連作品の公開が多い現状について聞かれ「世の中が危険信号を出しているということだと感じる。それに対しクリエーターが反応している。そういう時代の芸術文化は時としてカナリアで、こういう時代だからこそ花開くこともある。空気を読まずに“違うでしょ”って言える人間になっていくのは大事かなと思います」と答え、「今の日本の社会では政治の話をすると、“面倒くさい奴”と言われることが多い。こういった映画が果たす役割は?」との質問には「日本では政治について語るのを避けるという風潮が3-40年続いているけれど、昔は沖縄の問題なども本土の人間は関心が低かったが、ひとりの若者のハンストや故翁長前県知事が東京に話し合いに来たことによってメディアに取り上げられ、今は本土の人間の方でも辺野古移設に反対する声が高まっていることなど、こうやって世の中というのは変わっていくものだと思うので、悲観しすぎず、諦めるのではなく、出来ることをやっていくことは大事だなとこの映画を観て思いました。」とアドバイスを送りトークイベントは幕を下ろした。

STORY  第二次世界大戦末期の1945年4月。敗色濃厚なドイツでは兵士の軍規違反が相次いでいた。命からがら部隊を脱走したヘロルトは、打ち捨てられた車両の中で軍服を発見。それを身に纏って大尉に成りすました彼は、道中出会った兵士たちを次々と服従させていく。かくして“ヘロルト親衛隊”のリーダーとなった若き脱走兵は、傲慢な振る舞いをエスカレートさせ、ついには大量殺害へと暴走し始めるが……。

監督&脚本:ロベルト・シュヴェンケ『RED/レッド』『きみがぼくを見つけた日』 出演:マックス・フーバッヒャー、ミラン・ペシェル、フレデリック・ラウ、アレクサンダー・フェーリングほか     2017年/ドイツ=フランス=ポーランド/ドイツ語/119分/カラー/シネマスコープ/5.1ch/原題:Der Hauptmann 日本語字幕:吉川美奈子 © 2017 – Filmgalerie 451, Alfama Films, Opus Film 提供:ニューセレクト/シンカ/東北新社 配給:シンカ/アルバトロス・フィルム/STAR CHANNEL MOVIES 公式HP:dokusaisha-movie.jp