1/12、大阪市西区のシネ・ヌーヴォXにて、木村卓司監督の『コノエイガヲハカイスルトイウコト』が公開初日を迎えた。

滋賀県在住の木村監督は昭和39年生まれ。ホームビデオで作品を撮り続けている稀有な作家だ。初めて撮り上げたのが、18歳から25歳まで7年かけて完成させた『さらばズゴック』という作品。完成から10年後、ネットで知り合った映像作家のにいやなおゆきさん、その縁で脚本家・映画監督の高橋洋さんからも評価を受け、2008年に映画美学校で行われた『地下映画上映会第二弾「あなたの知らない世界」』にて作品集を上映。それ以降、毎年コンスタントに映画を撮っては神戸映画資料館やシネヌーヴォなどミニシアターで公開しているが、1週間の単独公開は初めてとなる。自宅で1年かかって撮影された作品は、独特の美意識と内面の発露によって個人映画の深淵とも言えるような驚くべき世界を紡ぎ出す。

上映前に「画面の写真を撮ってもいいです。バンバン撮ってツイッターに上げてください」と本気で挨拶した木村監督。山崎支配人にたしなめられ、観客に笑いと困惑をもたらした。

上映後のトークショーでは開口一番、
「つまらなかった方、本当にすみません。でも映画の一線を越えようと思って作りました。よろしくお願いします」

今回、トークの相手を務めるのは『どこでもない、ここしかない』のリム・カーワイ監督。アジア、ヨーロッパと自在に活動の場を広げるリム監督と、滋賀の自宅で作品を撮り続ける木村監督という対極のスタンスにいる2人の顔合わせが興味深い。


●1本のDVテープに広がる世界

まずリム監督から作品がなぜ60分なのかという質問が。60分のDV テープを使用しており、カットしては撮って編集を繰り返すという。以前撮った部分がダメだと思えば、それ以降のカットを全て消してしまうと聞かされ、この方法論に哲学を感じるというリム監督。

「そのテープもどんどん損失が起きてしまうわけですよね。映像も最初はきれいだと思うんですけど」

「ブロックが入ったりするから。消そうと思えば消せるんですけど、入れておいたら後々新鮮になるかなと思って、消さないで置いています」

「僕、ビデオで撮られている作品を久しぶりに見てすごい感動しましたね。説明し難いような美しさで。
ホームビデオでもまだ可能性があるということを気づいたんですよね」

現在では市販のテープも見かけにくくなっているという。

「すたれつつあるメディアを使って撮り溜めて1本の映画に。1つの世界が完結されてる感じもしますよね」


●音と光を極める

エアコンの音や、ぼんやりと聞こえる家の外を通る車の音。普通ならノイズとして処理されることが多い音もそのまま生かしているという。そして、草の中を歩く音、ハエの羽音、トイレのフラッシュの音。カメラが対象を接写するほど日常の耳慣れた音から一変し、意思を持ったものが発する「何か」のように凄まじい破壊力を生む。

「普通隠したり整音したりするんですけど、ある意味で現代音楽っぽいやり方で、周りの環境音を活かしてつないでいく、音楽を作って行く感じ」と感心するリム監督。

部屋のカーテンを独自の視点で捉えたショットについて、演出したようなカーテンの動きにどのように撮ったのか、興味津々のリム監督。誰が撮っても演出したように撮れる、と木村監督。

「でも光と影の変化もあるじゃないですか。完璧に収めてるという気がするんですよね」
「毎日見てるから、ああいう影が来るなと思って撮ってます」

自撮りのショットについては『怪奇大作戦』の「狂気人間」の岸田森を意識した。あきらかにこれでもくらえという悪意だという。

「映画の形にしようとしては崩して、また崩して、観た後にこれは一体何だったんだと、それで『コノエイガヲハカイスルトイウコト』というタイトルにしたんです」


●ショットに対する執念を感じて欲しい

観客からは「最初に考えていた通りの映画になったのか、別の映画になったのか?」という質問が。木村監督は、

「どんどん別になっていきました。一応ストーリーはあるんですけど、お客さんの受け取り方で自由に。自分のこれ以上のショットはないだろうという執念を感じて欲しいなと思ってます」

作品に感銘を受けという観客からは、「お金があったとしたらどんな映画が撮りたいか?」という質問が。

「二百億円くらいあればファンタジーを撮りたいです」

「他の作品を観るにはどうしたらいいか?」という観客も。

「今度また特集上映をする話があるので、その時にぜひ来てください」

最後にリム監督から「家にはテープは何本くらいあるんですか?」
30本くらい、という木村監督の答えに、
「まだ30本撮れるということですね。楽しみにしてます!」

『コノエイガヲハカイスルトイウコト』の上映は1/18まで。
映画の多様性と可能性を観に、ぜひ劇場に足を運んで頂きたい。