ドキュメンタリー×劇映画「シスターフッド」 トークイベント
わたしの幸せは わたしが決める
生きづらさを抱えた女性たちが探し求めた、自分らしさ。
ドキュメンタリーと劇映画の境界を超えてみつめた、未来への思い。
ドキュメンタリー映画では、2016年に学生団体「SEALDs」の活動を追った『わたしの自由について』が北米最大のドキュメンタリー映画祭・HotDocsに正式出品、毎日映画コンクール ドキュメンタリー部門にノミネートされ、2017年に、目と耳の両方に障害のある「盲ろう者」の日常を追った『もうろうをいきる』を発表し、実写映画では、『Starting Over』(2014)が東京国際映画祭をはじめ、国内外10以上の映画祭に正式招待され高い評価を得た西原孝至監督が、初めてドキュメンタリーと劇映画が混在した実験的なモノクロ映画を制作。
西原監督は、2015年から、東京に住んでいる若い女性たちの生き方をオムニバスで紹介するドキュメンタリー映画を作ろうと動き始めたが、2017年10月に#MeToo運動が広がると、劇映画部分を思いつき、4年間撮り貯めてきた登場人物の生活に加え、新たに劇映画の要素を撮影し、1本の映画にまとめた。もともとは、”フェミニズム”をテーマにして制作を始めたが、性別に限らず、「世の中にはいろいろな生き方があって、その人がその人であることがまず素晴らしいということを大切にしたい。」という、“多様性”を肯定する映画に仕上がった。
ドキュメンタリー部分で赤裸々に自身の経験や考えを語るのは、2017年に発売した写真集『きっとぜんぶ大丈夫になる』が女性を中心に支持されているヌードモデルの兎丸愛美(うさまる・まなみ)と、今年の東京国際映画祭に正式出品された、MOOSIC LAB 2018長編部門作品『月極オトコトモダチ』(監督:穐山茉由)で主題歌を担当しているシンガーソングライターのBOMI(ボーミ)。
兎丸も出演する劇映画部分で、フェミニズムに関するドキュメンタリーの監督・池田を演じるのは、『イエローキッド』(監督:真利子哲也)に主演し、河瀨直美プロデュースの日韓合作映画『ひと夏のファンタジア』(監督:チャン・ゴンジェ)で韓国でも注目される岩瀬亮。西原監督が2014年に監督した実写映画『Starting Over』に出演した遠藤新菜(『無伴奏』)、秋月三佳(『母さんがどんなに僕を嫌いでも』)、戸塚純貴(『銀魂2 掟は破るためにこそある』)が再集結し、それぞれ、兎丸の友達の女子大生・美帆、池田の彼女、美帆の彼氏を演じる。また、秋月演じるモデル・女優の後輩役として、「新潟美少女図鑑」で注目を集め、テレビ東京の音楽番組「音流〜ONRYU〜」のMCも務める現役女子高生で女優の栗林藍希(あいの)も出演。
ドキュメンタリーと劇映画が交錯する本作で、遠藤は、美帆という役を演じつつも、映画『TOURISM』(監督:宮崎大祐)で共演してプライベートでも仲の良いモデル・女優のSUMIRE(『リバーズ・エッジ』)と共にドキュメンタリー部分にも出演し、女性としての生きづらさについて語り合う。
日時:2018 年 12 月 22 日(土)
登壇者:栗林藍希、ゆうたろう、西原孝至(監督・脚本・編集)
場所:LOFT9 Shibuya
LOFT9 Shibuyaでの先行上映会での本編上映後にトークイベントが始まると、冒頭に西原孝至監督(35)から、ご登壇の栗林藍希さん(17)とゆうたろうさん20)との関係について、「栗林さんは映画に出ていただいたんですけれど、ゆうたろうくんは、ゆうたろう君が今年出演された『KBOYS』(朝日放送テレビ、総合演出・監督:三島有紀子)というドラマに3人監督がいたんですが、その内の1人を僕がやらせてもらったという繋がりがあります。この映画は若い人に観てもらいたいという想いがあるので、今日お二人に来ていただきました」と説明がありました。
本編を見た感想を聞かれ、ゆうたろうは「白黒の映画を見るのが初めてで、白黒になっていたことによって、普段映画を見るのとは違う見方ができました。(僕にとって)新しい映画の世界を切り開いておもしろかったです。出ている方は僕よりもう少し上の世代の方々ですけど、みんな自分の人生の主人公で、みんなちゃんと自分の過去や経験とかを引きずって、何かしらを抱えて生きてるんだな、でもちゃんと真剣に生きてるんだなと、この映画を見て思いました。二十歳という節目で見れてよかったなと思いました」と回答。
栗林は、「この映画に出させていただくことになってから、撮影しながらも、『ドキュメンタリーと劇映画ってどうやって一緒になるの?』とずっとわからなくて、初号試写の時にやっと意味がわかって、すっきりしました。私の座右の銘が、『私は私』で、自分を貫いて生きていきたいんです。だけどそれって、周りの人からはよく思われないこともたくさんあって、今まで嫌な思いもしました。みんな自分らしさを意識したことがあると思うんですけど、それで嫌なことを言われたという経験があっても、この映画を見たら、『別にいいじゃん』って思えるようになると思いました」と力強く話しました。
西原監督が、「本作の一つのテーマとして『幸せ』があります。一番最初に2015年に撮影を始めた時は、僕は地方出身で、東京っていう街が生きづらくて、東京だけでなく、今の日本ってどうなのと思って、そういう思いを抱えた女性たちのドキュメンタリーを撮りたいと思って出発したんです。今の若い人たちは生きづらさを感じていたりするんですか?」と質問。
ゆうたろうは、「この世代は特に感じています。SNSが多く使われるようになって、それまでは現実世界だけのコミュニケーションだけだったのが、他人に見せる用の自分だとか色々な顔を持つようになった世代だと思うんです。16年広島で育ったんですが、小学5年生の時から、『学校』という枠にはまるのがすごく嫌いで、中学で限界を迎えてしまって、行かなくなったんです。そこを乗り越えて今があると思っていて。空白の1〜2年だったんですけれど、その空白の時間があったから、それを今お仕事で活かせています。人って嬉しいことより悲しいことの方が記憶に残っていると思うんですが、僕は悲しいことを乗り越えたからこうやって強く生きていられると東京に出てきてから思っています」と告白。
栗林は「まだ17歳なので、生き方で苦しいというのは感じたことがないんですけれど、中学校の時、社会の教科書に、『少子高齢化は晩婚化が問題』と書いてあって、簡単にいうと、『早く結婚しなくちゃダメ、子供を作らなくちゃダメ』と書いてあると思って、おかしいなと感じていました。私自身は、仕事をしたいので、結婚は遅くていいなと考えていて、結婚や出産は個人の自由だから、結婚を早くしろと教科書に書くのは変な話だなと中学の時に思っていました」と述懐。
それを聞いた西原監督は、「僕は、『長男だからしっかりしなさい』と言われることに、『長男とか言われても』と子供ながらに疑問に思っていました」と言うと、ゆうたろうも、「僕は同級生とよりお姉ちゃんとお姉ちゃんの女友達と遊んでいたので、お姉ちゃんと一緒に買い物に行って、お姉ちゃんがかわいいスカートを見ていると、「かわいい」と言ってたんです。僕、今日もスカート履いているんですけど、最近になってやっと、ジェンダーレスだとかノージェンダーという言葉があるように、男の人がスカートを履いたり、女性がしゅっとしたスーツを着たりしていますが、僕が服に興味を持ち始めて初めてスカートを履いた時は、お父さんに『何してるんだ、おまえ』と言われて。自分が好きな物を着て、好きな自分になりたいだけなのに、『やめなさい』というマイナスな見え方しかできないのは悲しいなと思います。僕は今は自由に表現ができているけれど、『男の子はスカートは履いてはダメなんだ』という考えが植え付けられるんです」と例を挙げました。
西原監督が「どんどん固定観念を変えていきたいと思っているんです。これからの世代、自分らしく生きていくという風に変えていきたいと思っています」と力強く語ると、ゆうたろうも、「僕も、この映画を見て、『自分もこうあっていいんだな』と思えました。若い世代に見て欲しいと思います。家庭環境、人間関係、SNS、仕事など何かしら抱えていると思うので、こういう映画を見て、『自分もこうやって生きていいんだな』という発見をたくさんしてもらいたいです」と賛同しました。
西原監督は、「ここ5年くらいで自由が失われている感覚があります。個人が発信すること自体は悪いことじゃないのに、ローラさんが辺野古の埋め立てのことをインスタのストーリーにあげたら、『お前は黙ってろ』とか言われるのは自由が奪われているなと思います」と自由に関して言及。
ゆうたろうが「ローラさんは芸能人で影響力があるけれど、それ以前に1人の人間なんで、思うこともあるし、自分が投稿して、少しでも署名が集まればという気持ちでやったと思うんですけれど、それがダメと言われたら、どうしたらいいのかなと思います。僕もツイッターやインスタグラムをよくやっているんですけど、公式アカウントでツイートする瞬間に、『これで叩かれたらどうしよう』とか『嫌な気持ちにさせちゃったらどうしよう』と思うので、プライベートアカウントを作って、友達だけが見ているところでポンポンポンポンツイートしています。何を言っても叩く人は叩くので、なくなるとは思わないんですけれど」と言うと、栗林も、「難しい」と同意しました。
それを聞いて、西原監督が「一人一人を尊重するような社会の前提があったらと思います」とまとめました。
Q&Aでは、観客から、「『シスターフッド』というタイトルを選んだ理由は?」と聞かれ、西原監督は、「最初の仮タイトルは、岡崎京子さんの漫画のタイトルから『トーキョーガールズブラボー』だったんです。今年の頭にフェミニズムということをテーマにして作りたいと思って、自分に響く言葉を探していました。『シスターフッド』という言葉は、女性同士の連帯とか結びつきという意味と理解して、それを肯定したいという思いがありました。この映画がそういう映画になっているかと言われたら、ちょっと違うかもしれないですが、女性同士の結びつきというのを表現したい、肯定したいと思い、タイトルとして選びました。僕はフェミニズムの専門家でもなく、1人の人間として考えているところです」と答えました。
もう1人の観客からは「モノクロ映画だからこそ人物が映えるなと思ったのですが、モノクロにした意図は?」という質問が出て、西原監督は、「映画は時間の芸術と言われていて、時間を無効にしたいなと思いました。2015年から4年位断続的に撮って、どう編集しようと思った時に、時間が流れているけれど、その時間を均等にしたいと思って、白黒というものが時間を均一にできるんじゃないかと思いました」と回答しました。
最後の観客からは、「ドキュメンタリーでなく、劇映画にしたところで、池田監督が登場したと思うんですが、西原監督との距離はどれくらいですか?」と鋭い質問が飛び、西原監督は、「半分とは言わないですけれど、やはり自分自身を投影しているところがあって、監督である以上、自分の生活の断片と社会の問題がマッチする時が映画を作りたいと思う瞬間なので、僕がドキュメンタリーの仕事などをしていて、日々感じていることを反映させているところがあります」と答えました。
【出演】
兎丸愛美 BOMI 遠藤新菜 秋月三佳 戸塚純貴 栗林藍希 SUMIRE 岩瀬亮
【スタッフ】
監督・脚本・編集:西原孝至 撮影:飯岡幸子、山本大輔 音響:黄永昌 助監督:鈴木藍
スチール:nao takeda 音楽:Rowken
製作・配給:sky-key factory
(c) 2019 sky-key factory 2019 / 日本 / モノクロ / 87分 / 16:9 / 5.1ch
公式サイト:https://sisterhood.tokyo Twitter:@sisterhood_film
facebook: @sisterhood.film.2019 instagram:@sisterhood.film