『十年 Ten Years Japan』 73 年の歴史ある日本外国特派員協会での最後の試写会
11/3(土)より公開の『十年 Ten Years Japan』が外国特派員協会にて上映後に、早川千絵監督、津野愛監督、木下雄介監督、藤村明世監督、石川慶監督が登壇して、質疑応答を行いました。石川監督は次回作の撮影準備で参加が危ぶまれていましたが、途中から参加することができ、初めて公の場で 5 監督全員が揃うことが出来ました。
<上映概要>
日時:2018 年 10 月 16 日(水)上映 18:45/20:30 から質疑応答
場所:公益社団法人 日本外国特派員協会(東京都千代田区有楽町 1-7-1 有楽町電気ビル北館 20F)
登壇者:早川千絵監督、木下雄介監督、津野愛監督、藤村明世監督、石川慶監督
Q:‶十年“というテーマで、この題材を選んだ理由をきかせてください。
津野:身近な恐怖を描きたいと思い、この題材を選びました。今の社会で、一番恐ろしいものは何か、と自問した時に浮かび上がったことが”情報”ということでした。
木下:この映画の話をもらったのは、子供が生まれて三日後。だから10歳の子供が主人公にした。同時に道徳の教科化が決まった時だったので、道徳というのは教科として学ぶことではなく、自ら学んでいくものではないのかという疑問から選びました。
早川:社会的弱者、障がい者の方や貧困に苦しむ方への社会の不寛容、その憤りが原点です。
石川:描きたかったのは「表現の自由」です。藤田嗣治が「戦争画家」になっていったように、何かが起きた時に自分たち作り手がどう巻き込まれていくのか。十年後で現実にあり得ることとして「徴兵制」を選びました。
藤村:この十年に日本で起きたことを考えた時、東日本大震災が一番に浮かびました。地震による原子力発電所の事故によって、はじめて「見えない空気が怖い」と感じました。十年前にはそんなことは考えもしなかったので、十年後は予想もできないことが起きているのではと思い、地下に暮らす子供たちを描きました。
Q:是枝監督との共同作業のエピソードがあれば、教えて下さい。
石川:「一度指摘したことを、次の時に変えてこなかったら、それは作家としての主張だと捉えて、無理に変更させたりはしないと決めていた」とおっしゃっていたこと。普段仕事をしているプロデューサーとは大きく違うところです。
津野:(分福所属で是枝監督の近いところにいるので)是枝監督は撮影の当日でも脚本を直しています。「今朝のタクシーの中で思いついて」とおっしゃったりして。新人で申し訳ないのですが、私も最後まで直させてもらいました。
藤村:実は、是枝監督は私の過去作品を観たいと言って取り寄せてくれていたんです。そのことに少しびっくりしたんですが、そうやって各人の監督の個性を汲み取ってくれた上でのアドバイスをしてくれたので、是枝監督のアドバイスをどんどん組み込んでいくと、自然と自分のやりたかった方向に進めた気がします
木下:最初に「この話はハッピーエンドなのかな?」と聞かれました。自分の中では、ラストがハッピーなのか否かという考え方を持っていなかったので、今一度そのことを意識させてもらった。
早川:いつも「監督は君たちだから」とおっしゃっていました。この5人の映画監督に、ひとりの映画監督として対等に接してくれたことが、とてもありがたかったです。
Q:個々の作品ではなく『十年 Ten Years Japan』という一つの映画として、商業的な映画としては難しい政治的なこと、社会的な題材を選んで攻めている印象があります。その点はどう考えていらっしゃいますか。
早川:日本には映画の検閲はありません。出資者や製作会社が「この題材は難しい」といった形で自主規制されている気がします。この映画も苦労したとプロデューサーから聞いています。ただ、この『十年』というプロジェクトはアジア全体、各国で同じように動き出している。そのことが大きな力になったと思います。
木下:オリジナルの脚本で作れたを感謝しています。今までは、政治や社会というものに対峙してこそ、公平に描き出せることができると信じていましたが、視点を変えて自分は政治や社会の一部だという概念で(その中に入り込んだ上で)感じることを考えて作りました。この映画を観ていただき、(僕のように対岸の出来事のような感じていたことを)自分ごとのように感じてもらえることが重要だと思っています。
藤村:勉強が嫌いで、映画ばかり観てきました。その映画から多くのことを学びました。例えば『火垂るの墓』を観て、戦争は絶対にやってはいけないと学びました。映画は学校に行くのと同じくらい色んなことを教えてくれるものでした。今回のように、政治的や社会的なことは、これからも撮っていきたいと思っています。
津野:若手なのに制約のない環境でやらせてもらえたことには感謝しかありません。政治的背景はあったとしても、それぞれの作品は、この世界にいる人々を描いています。私はその国に住む、小さな人々をこれからも描いていきたいと思っています。
石川:『十年 Ten Years Japan』をアグレッシブに政治的とは思っていません。香港の『十年』と比べるとそれは大きく違うし、それが今の僕たちのスタンスなのだと思います。『ペンタゴン・ペーパーズ』のような作品もありますし、3.11 も政治的な題材にはないと思います。ただ、日本では自然と政治的な題材を避けている。忖度なのか、自主規制なのか、そう感じます。
プロデューサー:髙松美由紀 福間美由紀 水野詠子 ジェイソン・グレイ
十年 インターナショナル 統括プロデューサー: 蔡廉明 伍嘉良 馬兆姻 曾憲玟
音楽プロデューサー:齋見泰正
製作:分福 吉本興業 十年電影工作室 朝日新聞社 フリーストーンプロダクションズ
配給・宣伝:フリーストーン
2018/日本/カラー/99 分/ビスタ&シネスコサイズ/5.1ch
©2018 ‟Ten Years Japan” Film Partners