10/13、緒方貴臣監督最新作『飢えたライオン』元町映画館にて公開初日を迎え、緒方監督と共に主演の松林うららさんが舞台挨拶で登壇した。
司会を務めたスタッフの石田涼さんは、去年の東京国際映画祭スプラッシュ部門で本作を観てどうしていいかわからない感情になったという。
「すごく嫌な気持ちのまま電車に乗って帰ったんですけども、それは監督の思惑どおりでしょうか?」
緒方監督は「そうですね。嫌な気持ちになるように工夫して作りました」と語る。

 

随所に挿入される黒味の意味

石田さんから随所に挿入される黒味の意図を聞かれた緒方監督。
「観客は被害者の女の子に感情移入してしまいがちなんですが、そうするとただの悲しい話になってしまうので、なるべく感情移入させずに彼女の周りの取り巻く人々の中に自分を見つけてほしいなと思ってシーンとシーンの間に黒味を入れました」

さらに「エスカレーターのシーンと お風呂に入るシーンの2箇所だけ、シーンの中に黒味が挿入されて、ちょっとだけ画角が寄っているのが気になりました」と突っ込んだ質問が。

「その2箇所だけカット内に黒味を入れて寄ってるんですが、気付かない人もいてなかなか質問されないんです」
シーンの間の黒味とは別の意味があり、この映画はできれば緒方監督の歳よりも上の人に見てほしいと思って作ったという。
「日本には女子高校生をメインに据えた映画やドラマ、漫画がたくさんあり、そういった作品のアンチテーゼとして高校生四人というフォーマットを使いました」
緒方監督は、意識せずとも女子高生を性のカテゴリとして見ている観客へのアラートだと解説する。
「例えば日常で女子高校生達がエスカレーターを上がっていると、僕もそうなんですが下着が見えそうだなと意識する瞬間があります。そういった感覚で女子高生を見ていることを観客に意識させるために、あえてお風呂場とエスカレーターのシーンでは中に黒味を挿入しました」

 

高校生になりきる

主人公・瞳のキャスティングにあたっては、一度目に募集した際は約700人の応募があったがその時は決まらず、話も一旦流れたという。再び話が動き、候補を探しているときに共同プロデューサーから紹介されたのが松林さん。普通の高校生を描くために「いい意味で女優っぽくなかった」ことが決め手となったという。
高校卒業して6年以上経っているという松林さん。
「今の高校生と時代が変わってしまっているし、女子校生を研究するように緒方監督に言われました。原宿・渋谷を中心に今の女子校生を見に行ったり、制服を着て女子高生四人組として街に繰り出して、みんなでカラオケに行ったり遊んだりして“高校生”に飛び込んで行きましたね」という役作りを回想した。本編ではそんな体験が随所に生かされており、友人との脈略のない日常の会話も見所となっている。

 

瞳のキャラクターについて

被害者として捉えられる主人公の瞳だが、映画の序盤では教師が連行されていくシーンで率先して動画を撮っているシーンがある。加害者としての姿もあるキャラクターをどう捉えて演じたのか。
「私も瞳と一緒で、事件の報道を見たらネットで調べたり人と話したりしていたので、自分も加害者に近い部分もあったし、被害者の瞳を演じてみて、どちらにもなり得てしまうこの現代が恐ろしいなと思いました」

 

モザイクポスターの葛藤

石田さんから、自身の顔にモザイクがかかっているポスタービジュアルについてどう思っているのか心配された松林さん。
「いやー、ホントにありえないですね(笑)」と心情を吐露。当初はモザイクがないポスターだったという。
「一番盛れてる写真だったのですごく嬉しくて、時間が経って公式で見たらモザイクが掛かってて。あれって(笑)」
「ちなみに、撮影前からモザイクで顔映らないかもよってことはお伝えしてました」と緒方監督がフォロー。
もちろん事前に聞いていたが、つい“なぜだ?”と聞いてしまったという松林さん。
「作品のためならモザイクになりますと(笑)」
「次はモザイクかけないでくださいね」と、複雑な心境を覗かせた。

 

『飢えたライオン』というタイトル

“ライオン”である必然性について石田さんから質問を受けた緒方監督。
「フランスにアンリ・ルソーという画家が描いた『飢えたライオン』というタイトルの作品がありまして、前景ではライオンがカモシカをくわえていて、バックのジャングルではおこぼれを狙っているヒョウがいたり、それを見ているフクロウがいたりする構造の絵なんですね」
執筆中の脚本の構造に似てることから仮タイトルとして付けたものがそのまま採用となった。
「そういった意味でライオンでなくてはならないと思います」と解説した。

 

顔が写らない竹中直人さんの出演シーン

瞳が通っていた高校の校長役で竹中直人さんが出演しているが、全校集会での訓辞が引きのアングルのみで撮られているのが印象に残る。竹中さんの起用については、元々竹中さんが共同脚本の池田さんと親交があり、あまり顔が映る映画ではないということを事前に伝えた上で実現したという。
「長台詞を言って頂いてOKですとなって、“あれ、寄りは撮らないの?”“大丈夫です”って言ったら、“ああ”って終わったんですけど(笑)」
作品のためにとの判断で、顔が写っていないキャストは他にも大勢いるという。
「竹中さんは顔だけじゃなくて、声が素晴らしい。それで問題ないかなと思って、自信を持って表現しました。竹中さんの顔に寄るとどうしても、“あ、竹中直人”って、そちらの方に意識がいってしまうので」

 

“後味が悪い映画”を観る意味

最後に松林さんは、「すごく後味が悪い映画と思うんですけど、敢えてこういう映画も観る意味があって、想像する映画としても広げて頂きたいと思っています。この『飢えたライオン』を観た後に、映画と同じシーンが日常にあるはずなので、その時に思い出して頂けたら嬉しいです」

緒方監督は、「ラストの解釈も含めて、普通の物語を語ることを避けたような作りでなかなか難しいところもあるんですけど、僕はそれが現実だと思っていて。現実は物語ではないので、色々な事実の積み重ねです。物語は人間が勝手に導き出しているものなので、わからないところもゆっくり考えて咀嚼していただければ、自分の答えというのが出てくると思います」と語った。

『飢えたライオン』元町映画館では10/19まで、シネ・リーブル梅田では終了日未定で公開中。

元町映画館、スタッフの皆さんと記念撮影!