塚本晋也監督の最新作『斬、』(ざん)が、10月4日より開催中の第23回釜山国際映画祭「ガラ・プレゼンテーション部門」にて正式出品され、10月6日に記者会見と公式上映が行われ熱狂的に迎えられた。ヴェネチア国際映画祭コンペティション部門、北米最大の国際映画祭トロント国際映画祭に続き、約20万人が訪れるアジア最大の映画の祭典へ参加した。塚本作品は『東京フィスト』(95)、『バレット・バレエ』(98)、 『双生児』(99)、『悪夢探偵』(06)、『悪夢探偵2』(08)、『鉄男 THE BULLET MAN』(09)、『KOTOKO』(11)、『野火』(14)と数多く出品している中、最も話題のフィルムメーカーの最新作を紹介し、芸術性と功績を称える「ガラ・プレゼンテーション部門」には初の出品となった。また塚本晋也監督と主演・池松壮亮、ヒロイン・蒼井優で記者会見&公式上映に参加予定でしたが、池松、蒼井は前日より猛威を振るっていた台風25号によって飛行機が欠航となり、成田空港まで駆けつけたものの釜山入りが叶わず、急遽塚本監督ひとりでの公式行事の参加となった。

●イベントタイトル:第23回釜山国際映画祭 公式上映 舞台挨拶&質疑応答
●実施日時:10月6日(土)17:00~19:20
●参加者:塚本晋也監督
●場所:映画の殿堂 ハヌルヨン劇場

【公式上映前の舞台挨拶】
朝から台風の中、当日券を求めて列ができるほどの盛況ぶりをみせ、メイン会場である「映画の殿堂 ハヌルヨン劇場」に、約300人が詰めかけ、3階席まで満席となった。司会者より池松壮亮、蒼井優の欠席が伝えられると一瞬どよめきが起き、急遽ひとりで登壇となった塚本監督が登場すると、温かい拍手で迎えられた。

塚本:つい先ほどまで池松さんと蒼井さんは、全て準備して成田空港まで来ていたんです。今ふたりは別の作品の撮影中なのですが本日はお休みを頂いて、朝から釜山に向かう予定でした。ギリギリまで頑張って粘ってくれたのですが残念です。12時の飛行機に乗れたら、上映後の質疑応答にはなんとか間に合ったんですけど、15時に遅延になってしまって・・・。ふたりは撮影現場でも良い強い“念”を体から出してくださる方でしたので、自分たちは来られなかったけれど、日本から釜山に向けて“念”を投げかけてくれているだろうと思います。それをぜひ感じていただければと。ひとりになってしまいましたが、映画を観て感じることがあれば、上映後に質問してください。カムサハムニダ!

【公式上映後の質疑応答】
上映が終わると満員の客席からは大きな拍手が湧き起こった。貴重な機会に一般の観客からの多くの質問が投げかけられ、終了時間となっても熱心なファンからの質問が続いた。熱い質問に時に笑いを交えながら丁寧に答え、韓国の観客たちとの会話を楽しんだ。

Q:池松壮亮さんのファンです。池松さんの台詞で「どうしてあんな風に人を斬れるのか」という質問があったが、これは現代のSNS上の言葉の暴力なども含め、観客が拡大解釈することまで、念頭に入れて演出されたのですか?

塚本:ネット上での言葉の暴力も暴力です。この映画には、そういうことは嫌だなという気持ちが入っています。小学生みたいですが「隣の人の悪口を言うことは暴力の始まり」だと思っています。隣の人のことを良く言ってる方がいい。なので、あなたが今された質問の内容は映画にきちんと入っています。

Q:僕は監督に会うためだけに、今日のチケットを買いました。監督の作品は全て観ています。揺れ動くカメラで、執拗に追いかけてゆく感じをいつも受けます。それをずっとやり通せる集中力が監督の映画からは見られます。その執拗な集中力はどこから得られるのでしょうか?

A:客観的に観て「こういう話なのね」っていうのではなく、なるべく観客があたかも映画の中に入って一緒に体験している感じになってほしいといつも思っています。カメラはそれに付いてきているだけです。狙ってやっているわけではなく、生々しい感じにしたいのでやっています。しつこいということに関しては私の資質ですね。どこから来ているのかは、両親に聞きたいぐらいです(笑)。普段は結構ボーッとしているのですが、映画を作る時だけは非常ベルを鳴らして「大変だ!作らなきゃ!」と思ってやっています。お客さんにジェットコースターを体験しているような気持ちになってもらいたくて、音と映像に力を入れています。

【公式行事を終えて、今回の釜山国際映画祭について】
釜山国際映画祭が最初に開催されたときから、呼んでもらっていて何度も来ています。毎回、皆さんが熱狂的で温かい気持ちになります。お客さんが集中して息が詰まるようにシーンと観てくださっているのを感じました。食い入るように観てくれていて嬉しかった。自分も釜山の観客の皆さんと一緒に観て面白かったです。