この度、ケネディ大統領暗殺直後、アメリカ全土が混乱する中、わずか98分で第36代アメリカ大統領に就任したリンドン・B・ジョンソンの、苦悩と葛藤、闘いの日々を描いた映画『LBJ ケネディの意志を継いだ男』が、10月6日(土)より公開いたします!
映画は、『スタンド・バイ・ミー』、『ミザリー』、『最高の人生の見つけ方』で世界中に多くのファンを持つ巨匠ロブ・ライナーが手掛け、ジョンソン大統領を近年『ハンソロ/スター・ウォーズ・ストーリ』で、若きハンソロの師匠を演じ、今年だけでも出演作が4本、立て続けに公開し注目を浴びているウディ・ハレルソンが演じます。「公民権法」を成立させ、アメリカ史上最も多才な大統領の1人と評された第36代大統領リンドン・べインズ・ジョンソン(LBJ)。しかしその功績は、北東部出身のエリートで人気者のジョン・F・ケネディと常に比べられ、南部出身の田舎者でガサツな性格から、ケネディの影に隠れていた。ケネディ亡き後の予期せぬ大統領就任から、のしかかるプレッシャーと先々の不安を跳ね除け、如何にして公民権法成立という偉業を成し遂げたのか―
他、アカデミー賞ノミネート俳優のリチャード・ジェンキンスや、ジェニファー・ジェイソン・リー等、豪華な顔ぶれも出演します!
この度、TBSラジオ「荒川強啓のデイキャッチ!」や、読売テレビ「そこまで言って委員会NP」のコメンテーターとして知られる小西克哉さんを“日本を代表するおじ様ジャーナリスト”としてゲストにお招きし、東京国際映画祭、したまちコメディ映画祭、近年はYOSHIKI CHANNELの司会等々、映画と音楽で幅広く活躍する奥浜レイラさんを聞き手に、昔気質のいぶし銀な大統領だったLBJの隠れた政治的手腕、ケネディとの関係、トランプ政権から見るLBJの政治家としての魅力を、映画の見どころと共にたっぷりと語っていただきました!

【日時】9月26日(水) トークショー18:30~19:00 ※上映前
【場所】神楽座 (千代田区富士見2-13-12 KADOKAWA富士見ビル1F )
【登壇者】小西克哉(64)国際ジャーナリスト 奥浜レイラ(34)司会&進行

奥浜:今回上映前のトークになりますが、実在した人物ですし、皆さん調べられている人もいるのではと思います。まずLBJという人物について伺っていきたいと思います。
小西:LBJという呼称ですが、日本ではあまりそういうふうに呼ばないですよね。なので、馴染みのない方もいるかと思います。何かインスタンコーヒーでも似たような名前があったなぁ、というイメージがしちゃいますよね(笑)
奥浜:やはりJFKをなぞってLBJと呼んでいたのでしょうか。
小西:アメリカでは大統領を3文字で呼ぶ事が多いんです。
奥浜:小西さんから見てこの作品自体の魅力について、まずお伺いしたいと思います。
小西:言葉の力かなと思います。字幕をじっくりとみると、深い所までわかる映画だと思いました。アクションがガンガンにあって、血沸き肉躍るようなタイプの映画では無いのですが…
奥浜:どちらかというと静かなタイプの映画ですよね。
小西:政治ドラマはどちらかというと権力の内側とか、権謀術数とか、そういう話が多いので、私たち日本人にとっては分かりにくい部分があったりするんですけどね。1番面白いのは、LBJという人は、色んな事をやっているんですが、何でそんなに凄いことを成し遂げられたかという事は、ミクロの人間関係を見ないと分からないと思うんですよね。それを、ロブ・ライナー監督は出来るだけ分かりやすいように作っているなと感じました。LBJという人物を中心に、その周りの人が、どういうふうにLBJに反応していくのか、というところを描き出しています。その辺の手法が素晴らしかったです。セリフを大事にする、ロブ・ライナーらしい映画なんですよね。
奥浜:注意深く見ると、結構面白いセリフがありますよね。
小西:ありましたね。恐らくご覧になった人もいると思うのですが、『恋人たちの予感』という作品があって、日本ではバブル全盛期の89年に公開して、メグ・ライアンを日本で有名にした、ラブコメの女王にした映画なのですが、ロブ・ライナーはその映画の監督なんですよね。『恋人たちの予感』もセリフが面白かったです。その背景には、ロブ・ライナー自身が元々はコメディアンだったからというのも影響しているかと思います。スタンダッブコメディアンで、ウディ・アレンみたいな事をずっとやっていて、アメリカのテレビドラマで「All in the family(原題)」という70年代から、2~30年続いたドラマで、そのドラマで娘婿役をやっていたんですね。
毎回親父と対立というか、ケンカをする様子がこのドラマを面白くさせていたんですね。
奥浜:会話というか、2人のやり取りで楽しませていたんですね。
小西:その親父が、また今のトランプにそっくりなんですよ!トランプが家にいて、その親父とロブ・ライナーがやり合う、そういう所で彼は自分の演技を磨いていたから、この映画に繋がっていて、ジョンソン大統領自身が人間的魅力で、政敵をどう論破するか、そのプロセスがこの映画の醍醐味だと思いました。
奥浜:ロブ・ライナーというと、私がすごく好きなロブ・ライナー作品の中に『スパイナル・タップ』や『アンヴィル!夢を諦めきれない男たち』があるのですが、エンターテインメントの中にジャーナリズムを感じる人だなと思いました。本作も、LBJはもっと認めて欲しかったんだろうなという、ジャーナリズムを感じましたね。
小西:確実に監督自身はリベラルレフトだと思うんですよね。この映画は、リベラルからの立場で撮られてる映画だと思います。アメリカを、ケネディの意志を継いで実現した男だという事を、もっと皆さんに分かって欲しいという思いがあったんだと思います。ハリウッドは、今結構ジョンソン再評価ブームだと思うんですよね。『ジャッキー/ファーストレディ 最後の使命』とか、『オール・ザ・ウェイ JFKを継いだ男 』など、結構あるみたいですよ。
ジョンソン大統領の面白いところといえば、ケネディがやろうとして出来なかったこと、それを引き継いで、偶然大統領になるんだけれども、実はその前は、議会の大物だったんですよね。上院の院内総務という議会のトップだったわけですが、日本ではあまり重要じゃないイメージがあると思うんですが、議会という存在そのものが、実はアメリカ大統領と同じくらい権力があるんですね。ジョンソンはその議会のトップなので、羨望の目で見られていたんです。だけど、国民からは人気が無かったんですよねぇ。
奥浜:ケネディ大統領は、対立するくらいだったら自分達側に取り込んだ方が良いと思って、
副大統領にしたぐらい脅威を感じていたという事ですよね。
小西:そうだったんですよ。なので、政界内ではLBJの方が良いなぁと思っている人が多かったんですよね。だけどアメリカの大統領選は国民が選ぶのでね。自民党の中だけで人気の人っていますよね?誰とは言いませんが…(会場笑)自民党の中だったら80%くらいの票を得られるけど、支持者とかからは中々難しいという人なんですよね。つまり、LBJは日本の議院内閣制度だったら、確実に大統領になれる存在だったという事です。
実際は、ケネディが暗殺されてしまい、党派の党員政治家として大統領に就任したという事ですね。今回僕が一番言いたかったのは、LBJの手法が今のアメリカ政権に最も欠けているものなんですよね。つまり何かというと、自分と考えが違う人とどう向き合うか、という点なのですが、彼は、もともと人種差別というのはあってもしょうがない、公民権法を作っても絶対に通らないと言っていたんです。
奥浜:最初は否定的だったんですよね。
小西:南部は皆そうだったんですよね。LBJ自身もテキサス出身ですし。ずーっとそう主張していたんですが、彼の仲間の1人であるラッセル議員というのが、途中で登場するんですが、この人がガチガチの人種差別主義者なんです。
奥浜:もともとがそういう考え方というか、南部ではそういう人が多かったんですよね。
小西:ラッセル議員はジョンソンの師匠なんですけど、ジョンソンよりも年齢が上だったんですが、上院で、ジョンソンを手塩にかけて育てていくんだと思っていた人なんです。そのラッセル議員を「公民権法」に賛成してもらうよう「時代は変わったんですよ」と説得するんです。
どのように説得するかというところをこの映画でぜひ観て欲しいなと思います。
小西:この映画の中で僕は好きなセリフがあるのですが、ジョンソン大統領ってちなみにむちゃくちゃ口が汚いんですよね。
奥浜:そうなんですよ、めちゃくちゃ下品なんですよね(笑)
小西:日本語の字幕本当に難しかったと思ったんですけど、政敵をどう自分達の仲間に取り込むかが大事であって、いつまでも対立してたらダメなん、なのですが、ケネディってそういう事が出来ない人だったんですよね。純でまだ若いので。エリートですし、ハーバードだし、東海岸ですし。
ところが、テキサス出身のジョンソンは、田舎で貧しいところでで育って、メキシコ系の家庭教師をしたりとか、苦労している分、敵を仲間に入れた方が良いという考えを若い頃から経験しているんですよね。映画では、先ほど話したラッセル議員みたいな人に対して、「テントの外から中にションベンされるより、中に入れて、外にションベンさせた方がいいだろう」というセリフがあるんですけど、これは本当に面白い表現だなと思いましたね。敵を取り込む為に、どうラッセルを説得するか、映画では食事をしながらとか、色んなところで話し合いをしているのですが、これらのシーンは、監督の見せどころだと思います。
奥浜:信じられないくらい下品だったりとか、「何、このおじさん!」と思うシーンもあるのですが、だんだん見ているうちに敵の懐に入ってくるんですよね。
不思議な人ですよね。
小西:口が汚いだけだったらトランプと全く同じだったと思うんですが、彼は苦労して叩き上げられているから、ナルシストのドナルド・トランプとはだいぶ違うんじゃないかなと思いますね。哲学があるから、アメリカを大きな政府にしましたし、それには良いところも悪いところもあると思います。その後に今度は80年代に入るとレーガン大統領のように、「小さな政府」を築いた人出てきますし、日本でも中曽根政権が出来るし、イギリスではマーガレット・サッチャーが出てくるという、その保守派の流れというのは、その前にリベラリズムがいくところまでいった、ケネディの理念を実際に実現した社会保障制度を制定して、社会正義を実現する法律を沢山作って、歴代の政権の中でも制定した法律の数は莫大な数です。ケネディはどちらかというと、国民を夢のような世界に誘っていったんですが、実際には実現していないんですよね。
奥浜:実現させたのはジョンソン大統領という事ですよね。
小西:ベトナム戦争を泥沼化させてしまった事実もあるんですけどね。その部分はこの映画では描かれてはいないのですが…
奥浜:最後まで観ていくと、ジョンソンが一体善人だったのか、悪人だったのかはいまいちはっきりとはしていない気がするのですが…
小西:善人悪人というのは、倫理の問題なので、人それぞれですが、ジョンソンのやりたかったことは、社会正義なんですよね。
その為にどうするかというと、様々な手を使って人を騙すし、説得もする、アメリカでは「利権誘導」というのですが、相手の動向を見て行動を変えていく事なのですが、それが悪だという捉えるのであれば、ジョンソンは大悪人だと思うのですが、「利権誘導」によって大きな善を実現するのであれば、善人だと思うんですよね。権力をどう使えば良い方向に運ぶのか、良い行政が出来るのか、それが大事だと思います。
ジョンソンは法律を制定する立法府にもいたので、そういう面はかなり長けていたと思います。ただ、ベトナム戦争だけは、背負えなかった。
ジョンソンはベトナム戦争を拡大してしまったという意味では、結局はアメリカにとっては、多大な傷を作ってしまった人なんですよね。
今回の映画では、その部分には焦点を当てずに描いていますが、恐らく全部は描けないとロブ・ライナー監督も思ったんだと思います。
奥浜:ロバート・F・ケネディとのやり合いも見どころの一つですよね。
小西:有名ですよね。ボビー(ロバートの愛称)は、ジョンソンを嫌っていましたね。兄のJFKの方は、ジョンソンは利用できると思っていた。
議会の大物だった人ですから。ジョンソンを仲間に入れたら、議会だっていうこと聞きますから。だから兄はジョンソンと仲たがいをしているのですが、弟はまだ青いからずっと険悪なムードだったんですよね。南部訛りを聞くだけで嫌だったんでしょうね。あとJFKは映画を観ると分かるのですが、ものすごくボストン訛りなんですね。その辺は役者もうまく演じられていますよね。
奥浜:そして、紅一点といいますか、ジョンソン大統領の妻のレディ・バード・ジョンソンも登場するのですが、私結構瞬間的に癒されるなと思ったのは、彼女が登場するシーンだったんです。彼女の前だと急に素直になって、結構ゴロニャンな一面を見せたりするのですが、その辺が大変良かったですね。
小西:家庭と仕事で見せる強さと弱さ、そのコントラストですよね。ジョンソンはもう一つ、目上の人には弱みを見せるというか、おやじ転がしだったんですよね。人たらしな人でしたね。悪い意味では無くて、民主主義をやるにはそういう人間的な魅力がないとだめだと思うんですよね。
わがままなナルシストな大統領とか、2世3世の政治家とか、自分の言葉では話せないですからね。
奥浜:ジョンソンは自分の言葉でしか話してないですよね。

小西:60年代はアメリカのリベラリズムの頂点だった時代で、彼の意志を受け継いでそしてさらに次の世代に受け継いでいく、
そういう気迫がまだあったしらけていないアメリカの良さですよね。

奥浜:今のアメリカだけでなく日本にも必要な要素だという事ですね。

小西:そういう事ですね。この作品を観てもう一度勉強していただきたいと思いますよね

奥浜:見ていただくのにふさわしい作品かなと思います。
それと、映画ではこだわった点があったようなのですが、
実際にケネディが暗殺された時に、棺桶がエアフォースワンの中に入らなかったという事実があるのですが、
映画でもその背景を忠実に再現していて、のこぎりで切った後を再現しています。

小西:エアフォースワンもその様な事態を考えて作っていないから、そういう事態が起こるのでしょうね。
昔のエアフォースワンは今よりも小さいですしね。

奥浜:あとロブ・ライナー監督ってとにかく早撮りで有名な監督なんだそうで、
撮影中も、あまりの早さにウディ・ハレルソンもびっくりしていたそうです。
昼までにそのシーン撮り終わっちゃうの?!と話していたというエピソードもあるそうです。

小西:せっかちなのかなぁ。

小西:60年代はアメリカのリベラリズムの頂点だった時代で、彼の意志を受け継いでそしてさらに次の世代に受け継いでいく、そういう気迫がまだあってしらけていないアメリカの良さですよね。
奥浜:今のアメリカだけでなく日本にも必要な要素だという事ですね。
小西:そういう事ですね。この作品を観てもう一度勉強していただきたいと思いますよね。
奥浜:それと、映画ではこだわった点があったようなのですが、実際にケネディが暗殺された時に、棺桶がエアフォースワンの中に入らなかったという事実があるのですが、映画でもその背景を忠実に再現していて、のこぎりで切った後を再現しています。
小西:エアフォースワンもその様な事態を考えて作っていないから、そういう事態が起こるのでしょうね。昔のエアフォースワンは今よりも小さいですしね。
奥浜:あとロブ・ライナー監督ってとにかく早撮りで有名な監督なんだそうで、撮影中も、あまりの早さにウディ・ハレルソンもびっくりしていたそうです。
昼までにそのシーン撮り終わっちゃうの?!と話していたようです。
小西:せっかちなのかなぁ。
奥浜:もう撮るポイントが見えているのかもしれませんね。

★最後に一言ご挨拶★
小西:あっという間の2時間弱だと思います。本当に顔も良く似せているなと思います。鼻とか耳とかもですけど、今のアメリカとか日本の政治と比べながら観るともっと深いものが得られるのではないかと思います。お楽しみに。
奥浜:小西さんの解説を聞かせて頂いて、バックグラウンドを分かるとより楽しめるのは勿論かと思うのですが、頭でっかちにならずに、ジョンソンの人たらしな部分も楽しんで頂ける作品でもあるのかなと思いました。今の日本にもアメリカの人権運動の流れが少なからず入ってきていると感じています。ボブ・ディランやケンドリック・ラマ―が来日している中で、公民権法を制定した人の映画を観られるのはタイムリーだと思いました。今の時代とも併せてご覧いただきたいなと思います。