写真家・若木信吾が語る 「一般の人たちを巻き込み“共犯”することで、想像力を共有している」 映画『顔たち、ところどころ』 公開記念イベントレポート
第 90 回アカデミー賞ドキュメンタリー部門ノミネート、第 70 回カンヌ国際映画祭最優秀ドキュメンタリー賞受賞など、世界中の映画賞を席巻した映画『顔たち、ところどころ』の公開を記念して、20日、都内・アップリンク渋谷にてゲストに写真家の若木信吾さん、編集者の鈴木芳雄さんを迎え、トークイベントを開催。
■日時:2018年9月20日(木)19:45の回上映後
■会場:アップリンク渋谷(東京都渋谷区宇田川町37−18 トツネビル1階)
■ゲスト:若木信吾(写真家)
■聞き手:鈴木芳雄(編集者・美術ジャーナリスト)
「ヌーヴェルヴァーグの祖母」とも呼ばれる女性映画監督の先駆者アニエス・ヴァルダと、人々の大きなポートレイトを街に貼るプロジェクトで知られるアーティストJR。本作は、年の差54歳のふたりがフランスの田舎町を旅しながら、人々とのふれあいを通して共に作品を作り残していくロード・ムービースタイルのドキュメンタリー。
写真家としてだけではなく、映画監督としても活動する若木さんは、本作について「柔らかな優しさに包まれている、素敵な映画。昔からあるようで、全部新しく感じた。今の時代にすごく合っている」と絶賛。映画監督アニエス・ヴァルダが写真家としても活躍していたことに触れ「映画の作りが仕組まれているようで、起こったことをそのまま撮影して編集で映画にしたという印象。 ア二エスは映画監督だけど、写真家でもあるからできたこと。必ず何かが起こると信じているだけで、実際それが成功している」と語った。
本作について「色んな点で裏切れられた」という鈴木さんは、アニエス・ヴァルダについて「『大家さんと僕』の大家さんと同い年、草間彌生さんの1歳年上。劇中87歳ながら、本当に可愛らしくて、まるで少女みたい」と述べ、JRについては「貧困地域や、紛争と震災の現場に行って写真を撮って関心を高めて、クールな人だと思っていたが、この映画を観たら、良い人だった。今の時代、スマフォで写真を撮って、InstagramなどSNSに投稿して、スマフォでそれを見て、手元で完結している。でも、JRがしていることは真逆で、写真を拡大したり、モノクロにしたり、ライカのデジカメやフィルムカメラを使ったり、僕たちが今、写真だと思っているInstagramとは反対のことをしている」と言及した。
若木さんは、写真との向き合い方について「見る側は想像力をあまり使わない方がいいと思う。でも、創る側は真逆で、想像していくことが重要」と語り、「この映画では、観客だった一般の人たちを巻き込み共犯関係にすることで、彼らも想像的行為を共有している。アニエスは、その行為を大事だと思って活動してきたことがわかる。僕は、自分の想像した通りに撮れてしまうと面白くないと思ってしまう。アニエスもそうなんじゃないかな。本作で、撮影と出演もして、驚きながら、旅をしていた。常に自分が考えていないことが起こってほしいと望んでいる」と熱弁をふるった。
編集者の鈴木さんは「現場では一緒になっていないけど、実は雑誌『リラックス』での若木さんの連載を入稿していたのは、僕。若木さんが撮影した『BRUTUS』での木村拓哉さんの誌面も、僕が入稿したんですよ(笑)」とエピソードを披露。それに対し、若木さんは「連載をしていると、毎月必ず撮影する瞬間がやってくるが、良い写真が撮れず、うまくいかない日もある。それでもしつこく撮影することが大切。アニエスもJRも同じだと思う。この映画を観た後に、初めてアニエスの『5時から7時までのクレオ』を観たけど、彼女は同じことをずっと、しつこくやっているんだなと思った」と応えた。
映画『顔たち、ところどころ』シネスイッチ銀座、新宿シネマカリテ、アップリンク渋谷ほか全国順次公開中。
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<ゲストプロフィール>
若木信吾(わかぎ・しんご)/写真家・映画監督
1971年3月26日静岡県浜松市生まれ。ニューヨーク州ロチェスター工科大学写真学科卒業。雑誌・広告・音楽媒体など幅広い分野で活動中。雑誌「youngtreepress」の編集発行を務め、浜松市の書店「BOOKS AND PRINTS」のオーナーでもある。映画:撮影、監督作品に「星影のワルツ」「トーテム~song for home~」「白河夜船」(原作:吉本ばなな)などがある。
鈴木芳雄(すずき・よしお)/編集者・美術ジャーナリスト
ポパイ、アンアン、リラックスなどの編集部を経て、ブルータス副編集長を10年間つとめる。主な仕事に「奈良美智、村上隆は世界言語だ!」「杉本博司を知っていますか?」「若冲を見たか?」「仏像〜阿修羅に会えた?」 など。明治学院大学非常勤講師。愛知県立芸術大学非常勤講師。
第90回 アカデミー賞 ドキュメンタリー部門 ノミネート
第70回 カンヌ国際映画祭 ルイユ・ドール(最優秀ドキュメンタリー賞)受賞
第42回 トロント国際映画祭 観客賞ドキュメンタリー部門受賞
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映画『顔たち、ところどころ』
監督・脚本・ナレーション:アニエス・ヴァルダ、JR
出演:アニエス・ヴァルダ、JR
音楽:マチュー・シェディッド(-M-)
字幕翻訳: 寺尾次郎
配給・宣伝:アップリンク
(2017年/フランス/89分/1:1.85/5.1ch/DCP)
【公開表記】
シネスイッチ銀座、新宿シネマカリテ、アップリンク渋谷ほか全国公開中
【コピーライト】
© Agnès Varda – JR – Ciné-Tamaris – Social Animals 2016.
公式サイト:http://www.uplink.co.jp/kaotachi/
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