この度、将棋界に奇跡をもたらした異色の棋士・瀬川晶司五段の自伝的作品「泣き虫しょったんの奇跡」(講談社文庫刊)が、豊田利晃監督により映画化。主演を務める松田龍平ほか、野田洋次郎、永山絢斗、染谷将太、妻夫木聡、松たか子、國村隼といった<主役級>の豪華キャストが集結!第42回モントリオール世界映画祭フォーカス・オン・ワールド・シネマ部門への正式出品も決定している本作は、9月7日(金)全国ロードショーとなる。
幼い頃から将棋一筋で生きてきた“しょったん”こと瀬川晶司(松田)は、「26歳の誕生日を迎えるまでに四段昇段できないものは退会」というプロ棋士養成機関・奨励会の規定により、26歳にして人生の目標を失い社会の荒波に放り出されてしまう―。一度は夢破れた“しょったん”が、周囲の人々に支えられながら、史上初めて奨励会退会からのプロ編入という偉業を成し遂げた奇跡の実話を描く。

この度、本作の公開を記念し、第52回 東急百貨店 将棋まつりにて、
羽生善治竜王と瀬川晶司五段による東急百貨店スペシャル対談が実施されました!

『泣き虫しょったんの奇跡』の映画化を記念したトークショーということで、司会から映画化が決定した時の心境を問われると、瀬川五段は「嬉しいという気持ちと、本当なのかな?という半信半疑な気持ちもあって。話を聞いたのが春だったので、最初はエイプリルフールの嘘なんじゃないかと思いました(笑)」と明かした。『聖の青春』『三月のライオン』と将棋映画が立て続けに公開となっている昨今。自身の役を役者たちが演じることに対しての心境を司会から投げかけられると、『聖の青春』で自身の姿が描かれた羽生竜王は、「自分で(役者が演じる)自分の姿を見るのは不思議な感じですよね」と照れ笑い。羽生竜王が「瀬川さんの場合は、まさに自分の人生の歩みが1本の作品になっているわけですからね。(本作で登場する)幼い頃のお話しに関しては特に覚えていなかったりもすると思うんですが、そのあたりはどうされたんですか?」と瀬川五段に問いかけると、「実際は劇中で役者さんたちが演じた実在する登場人物の方々に、(当時)どういう感じだったかお聞きして、そういえばそういうこともあったなと思い出したりして…。その繰り返しでしたね」と本作が出来上がるまでの工程を語った。

本作で主人公・瀬川晶司を演じるのは、松田龍平。そんな松田について、「(松田が自身の役を演じることは)すごく嬉しかったです。でも少しかっこよすぎるんじゃないかと心配してしまいました(笑)」と笑い交じりに振り返る瀬川五段。そんな瀬川五段を「将棋の世界が忠実に再現されているのはもちろんですが、瀬川さんの人となりもすごく研究して演じられているなと感じましたよ」と羽生竜王がフォローする姿に、場内は笑いに包まれた。その言葉に瀬川五段も、「仲の良いプロ棋士の方たちにも本作を観ていただいたのですが、『観ているうちに松田さんが瀬川さんにしか見えなくなったよ』と言われることも多くて。僕の内面や心情を見事に表現してくださいました」と頷き、松田を称えた。
本作の原作者でありながら、撮影中、将棋指導にも携わった瀬川五段。特に主演を務めた松田には、撮影前から週に一度程度、将棋を指す手つきから指導に入っていたそうで、そこで松田は瀬川五段のクセや特徴を徐々に掴んでいったという。さらに、「松田さんが本作の撮影に入る前、『散歩する侵略者』という作品で宇宙人の役を演じられていたそうなんですが、その直後に本作では私の役ということで、非常に大変だったとお話しされてましたね(笑)」と撮影中のエピソードを披露する場面も。

一度は夢に破れながらも、再びプロ棋士を目指す主人公“しょったん”の姿が描かれる本作。作中ではプロ棋士を目指す奨励会員たちの様子が描かれているが、司会からプロ棋士になるための資質を問われ、「どこで決まるのかは分からないですが、一つ思うのは、子供のころから長い時間をかけて、着実に一歩ずつ実力を積み上げていくことは大事だと思います。継続するのは大変ですからね。昨年引退されてしまいましたが、加藤一二三先生なんかは本当にスゴイと思います」と語る羽生竜王の貴重な話に、会場に集まった観客は真剣な様子で耳を傾けていた。続けて羽生竜王は、「瀬川さんが編入試験を受けられたことがきっかけで、年齢に関係なくプロ棋士を目指せる道筋を作ったということは大きな功績です」と瀬川五段を称えると、「これまで前例のなかったプロ編入試験がプロ棋士の間でもモメている中、羽生先生が『これはもっと議論すべき問題。拓かれても良い道だ』と言ってくださって。それをきっかけに棋士内でも流れが変わったこともあるので、(瀬川五段がプロになれたのは)羽生先生のおかげなんです!」と力強く主張。瀬川五段が羽生竜王に「本当にありがとうございました」とお礼を述べると、場内は温かな拍手に包まれた。そんな瀬川五段に対し、「瀬川さんを応援したいと思っている人がたくさんいて(瀬川さんを)支えている感じが、この作品からもすごく伝わってきますよね」と、劇中でも描かれた瀬川さんを取り巻く人々との熱いドラマについても絶賛していた。

さらにイベントの最後にはマスコミ向けのフォトセッションが行われ、羽生竜王と瀬川五段が熱い握手を交わすと、照れくさそうな笑みをこぼす場面も。そんな二人の姿に客席からは再び大きな拍手で包まれる中、羽生竜王と瀬川五段は会場を後にした。