第69回カンヌ国際映画祭ある視点部門で審査員賞を『淵に立つ』で受賞し、今や世界の映画人が注目する深田晃司監督の最新作。
深田監督は、2011 年の東日本大震災の後に大学の研究チームの震災復興リサーチに参加。そこで、2004 年にスマトラ島沖大震災で津波で壊滅的な被害を受けつつも、今では完全に復興を遂げた町バンダ・アチェを訪れて本作のアイデアを想起したという。
自然は時に豊かに美しく、時に脅威となり人を飲み込み、また人間の生活は自然と共にあるという様を、インドネシアの美しい海、そして国籍や宗教を越えて育まれる若者たちの友情を通して描く、ファンタジー。
この度、公開から約1か月経つ今も多くの方から、「様々な見方ができる」「何度でも観たくなる」「1番不思議な映画」など、さまざまな意見が飛び交い、1つの意見にとどまらない反響と広がりを見せている本作。今回は、深田組の常連、本作では日系インドネシア人という役どころに体当たりで挑んだ太賀さんと深田監督がじっくりクロストークでお互いの印象や今作の魅力について語り、めったに聞くことのできない、撮影裏話や役作りについてのディープな話がたくさん飛び出し、会場も大いに盛り上がりました。

◆日程:6月18日(月) 
◆場所:テアトル新宿(新宿区新宿3-14-20 新宿テアトルビルB1F) 
◆登壇:太賀、深田晃司監督

まずは役どころについて、インドネシア人キャストではなく、太賀さんをキャスティングした理由を聞かれた監督は「『ほとりの朔子』という作品を2013年にやっていて、そのときに“タカシ”役で太賀君に出てもらっていたんです。今回の作品は、インドネシアという部分で『ほとりの朔子』とつながっていて、鶴田さんと太賀君にはまた出演してもらおうと思っていたんです。それでアテ書きで脚本を書いたのですが、私はインドネシア語ができないので、脚本を書くときには、【ID】と付けるとすべてインドネシア語になる、というシステムでした。なので、役者の苦労はなにも考えていなかったです。(笑)」と話した。
そんな監督の話を受け、太賀は、「最初台本を読んだ時には【ID】とたくさん書いてあって、『これ全部インドネシア語なんだ…。』と愕然とするような衝撃がありました。(笑) 練習期間が2か月ほどあったので、最初は初歩的なところから学ぼうと思ったのですが、それだと間に合わない!となり、セリフだけに集中したほうがいいと思い、セリフだけを練習して臨みました。」とインドネシア語に関する苦労を語った。
鶴田は日本からインドネシアへ移住した日本人、太賀は現地で生まれた日系のインドネシア人という役どころの違いがあったため、インドネシア語に対するアプローチも違ったということで、監督は、「鶴田さんにはインドネシアには長く住んでいるから上手だけれど、少し日本語のなまりがまだあるというインドネシア語を、太賀君にはガチンコでお願いしました。」とこだわりの演出について明かした。
監督のこだわりに応えるべく、役者陣は役作りで奮闘する部分も多かったようで、太賀は「(鶴田さんと)練習を開始したのが同時だったので、鶴田さんが上手くなればなるほど、ハードルが上がっていき…

とにかくネイティブらしさを求めてはいましたが、やっぱり限界があったので、どうしたら自分が『インドネシア人である』という説得力を持たせられるのだろうと考え、単純にインドネシア語を練習する以外にも容姿やしぐさ、といったところでも補えるのではと思い、いろんなことを吸収して取り組みました。」と、役作りに関して語った。
“ネイティブらしさ”というところでは食事をするシーンにもこだわりがあったということで、太賀は「インドネシアに入った日に、ディーンさんと食事する機会があり、その時に『これがインドネシア人流の食べ方だ』、というのを教えてくださいました。基本的には3本の指で食べるのですが、本当に慣れてくると、(手元を見ずに)ノールックで食べられるようになる、というの教えてくださって、せっかくならマスターしたい、とその日からは毎食手で食べるようにしました。」と、ディーンとのエピソードを交えて撮影当時を振り返った。監督も、「(鶴田さん演じる)タカコは、日本出身の人なので、なじめずにスプーンで食べるんです。なのでそこは、(太賀演じる現地で育ったタカシ)と良い対比になったかな、と思います。」と、映画の細かなこだわりの明かすと、観客も『ああ~』と感心の声が上がった。
なんともいえないインドネシア人風の外見を漂わせる、タカシの髪型に関しても監督の策略があり、「最初はジャカルタで1週間ほど、現地の俳優たちと稽古していた時に、現地の床屋さんに来てもらい、インドネシアの若者の一番典型的な髪型にしてくれと、ああいった髪型になりました。」と明かした。
太賀はこれまで監督の作品には3作品出演し、そのすべての作品で「タカシ」という名前で出演しており、それについて監督は「“タカシ”という名前は自分の映画でよく使う名前だったんです。最初は意識せずに『~朔子』で“タカシ”をやってもらい、そして『淵に立つ』でも“タカシ”をやってもらうことになり、2本“タカシ”でやってもらっていたので、そのまま“タカシ”でやってもらおう、という流れになってしまって。(笑)」と、今回の役名に関しては意図的だったと明かすと、太賀は「言い方によっては“タカシ三部作”というとらえ方もできますね。(笑)ぜひ、今度は『ザ・タカシ』という映画をつくりましょう!」と、次回作への意欲をのぞかせた。
ストーリーに関して、最初に脚本を読んだ印象について聞かれると、「とにかくこんな脚本は読んだことない、という興奮に包まれたのを覚えています。活字で読んで、そこに描かれていることを頭の中で広げていったときに、言語化できない読後感で、自分のキャパを超えたワクワク感がありました。いざインドネシアで撮影し、出来上がった本編をみても、そんなにたくさんの日本映画を観ているわけではないですが、それでも、どの作品にも似ていない映画になったんじゃないかと思います。監督とは3作品一緒にやらせていただいていて、今回は他の国との合作で、違う言語や国籍が混ざっている中でも、深田さんのオリジナリティが一切失われていないな、と思いました。それがすごく素敵だな、という印象を受けました。」と深田監督を絶賛。
太賀自身も、今作と同時期に公開されている映画『50回目のファーストキス』では、全く異なったコミカルな演技で観客を魅了し、そのふり幅の広さから、いろいろな作品でひっぱりだこの実力派。
太賀の印象について監督も、「自分にとって、いい俳優さんというのは、カメラの前でも普段と同じようにコミュニケーションがとれる俳優さんがいいな、と思っていて、太賀君はすごくそのリアクションが上手いです。ちゃんと共演者から受け取って返す、という、ある意味日常では当たり前のことなんですが、それがカメラの前でもキチンとできる、という印象があって、そういった演技が僕自身すごく好きなので。今回の映画の中でもコミュニケーションやちょっとしたしぐさがすごくインドネシアっぽい、とインドネシア人から言われたりしていて、やっぱりそれは、共演者とのコミュニケーションがしっかりとできていたからこそ、それを吸収し、まるでネイティブのように反応することができていたんだと思います。と勝手に思っています。(笑)」と、照れくさそうにも、役者・太賀を大絶賛。
その言葉を受け、太賀は、「印象的だったのは『ほとりの朔子』で、監督と初めてご一緒したときに、『相手のセリフをちゃんと聞いてほしい』と言われて。相手のセリフがあってこその自分のセリフだし、当たり前のコミュニケーションを大切にしてほしいと、一番最初のリハーサルでいわれ、その演出は、ほかの作品でも心がけるようにしています。」と、監督から受けた影響について語った。
撮影中のエピソードに関して、劇中に登場する歌が、実は台本にはなく、現場で発案されたものだったという話になり、監督は「昔の歌で、日本語もあるものを探したら、あの歌にたどりついたんです。世界中で翻訳されていて、日本語でもインドネシアでも、観た人がその人の言語で頭の中で翻訳してくれるので。あのシーンは現場で、インドネシアの人たちがたくさん歌を歌っていたのを見て、その現地の雰囲気を残したい、と思い、取り入れたんです。」と裏話を語った。


オフの日について、太賀は「海にいったり、食事にいったりしました。印象的なのは宿泊先のホテルで、会議室のような部屋にプロジェクターがついていたので、みんなで見たり。すごくいい時間でした。あとはセカール(・サリ)と阿部(純子)さんと演劇を観に行きました。日本ではなかなか無い演劇体験だったので、すごく面白かったです。」と、共演者・スタッフとのエピソードを話した。
最後に、監督は「いつも、100人観たら100通りの見え方ができる映画が撮りたい、と本気で思っていて。観ることで、それぞれの考え方があぶりだされてくる、というのが良い映画なんじゃないかな、と思っています。ぜひ感想など、呟いてください。」と一言、そして太賀が「純粋な映画体験というのは、観ている最中だけではなくて、自分の中で反芻していくのも映画体験のひとつだと僕は思っていて。この映画はそういう意味では味わい深い映画だと思います。なので、とにかくぜひ味わってほしい。少しでも多くの人にこの映画をみてほしいので、ぜひ周りの人にすすめてください。」と力強く締め、イベントは終了した。

【ストーリー】
インドネシア、バンダ・アチェの海岸で倒れている謎の男が発見される。片言の日本語やインドネシア語を話すが正体は不明。その謎の男にラウ(=インドネシア語で「海」)と名付けて預かることになった、災害復興の仕事をしている貴子と息子のタカシたち。その周辺で謎の男・ラウは様々な不思議な奇跡と事件を巻き起こしていくーー 果たしてラウは何者なのか…
【キャスト】ディーン・フジオカ 太賀 阿部純子 アディパティ・ドルケン セカール・サリ 鶴田真由
【スタッフ】監督・脚本・編集:深田晃司
企画制作:日活   配給:日活 東京テアトル  ©︎2018 “The Man from the Sea” FILM PARTNERS   公式HP:umikake.jp

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