実話から生まれた『かぞくへ』

関西で6/2(土)より大阪/シネ・ヌーヴォ、京都/出町座、神戸/元町映画館の3館で一斉公開となった映画『かぞくへ』。6/9(土)、春本雄二郎監督と主演の梅田誠弘さんがシネ・ヌーヴォにて舞台挨拶を行った。

『かぞくへ』の企画は、2010年、春本監督と主演の松浦慎一郎さんが、自分たちの代表作を作ろうとスタートさせた。
松浦さんは『かぞくへ』の設定と同じく長崎県の五島列島出身。ボクシングジムのトレーナーをしながら俳優を目指していた。子供の頃から家族同然に育った親友を詐欺に合わせてしまい、借金を返しながら犯人追い詰めたが、結局お金は帰って来ず大変な状況だという話を聞かされ、
「そんな過酷な話をドラマにしたら、どれだけ人の心を打つかわからないですねという話をして」
春本監督は、松浦さんに掘り下げた取材しながらテーマとして何を語るかを考え、“家族”というキーワードに思い至った。
実際の松浦さんと親友、共に両親は健在だが、テーマを際立たせるために家族がいない2人とした。そして、
旭(松浦慎一郎)にとって洋人(梅田誠弘)と同じように大切なもの、守るべき存在として佳織(遠藤祐美)という架空のキャラクターを加えドラマを組み立てていった。

「日本での直系家族制度、サザエさんのような何世代もの家族が暮らすような家庭がなくなって、核家族が当たり前の中で、結婚されない選択を取る方がいたり、同性婚やシングルで養子縁組をしたり、体外受精で子どもを授かる方がいたり、様々な形が存在している中で、もう一度“家の族”と書く“家族”ではなく、ひらがなの“かぞく”として見つめ直して行く機会になればと」

家族のぬくもりを求めた不器用な男が、婚約者と親友の間で板挟みとなり葛藤する。
『かぞくへ』は、2016年東京国際映画祭スプラッシュ部門で観客の心を掴み、フランス・ヴズール国際アジア映画祭では、NETPAC賞(最優秀アジア映画賞)含む3冠を達成、ドイツ・ニッポンコネクションほか海外映画祭でも高い評価を得ている。

 

6番目の洋人だった梅田誠弘さん

助監督をして溜めたお金で『かぞくへ』の製作を始めた春本監督。予算の関係で五島列島でのロケは厳しいと判断し東京で撮影することに。観客が東京での旭と洋人の姿を見て、彼らの五島時代を想像できる人と考えたため、洋人のキャスティングは大いに悩んだという。オーディションのために候補の俳優を5人に絞った。
「漁師なんで、屈強な方だったり日焼けされてる方とか、身長の大きな方を選んでいたんですね」
そんな中、細身の梅田さんのプロフィール写真を見て驚かされた。
「見ての通りのイケメンなんで(笑)。しかもその写真が物凄いスーツを着て、GLAYみたいな立ち方してるんですよ(笑)」
「プロフィール写真でちょっとイキったんですよ(笑)。20半ばぐらいで撮ったから」と飄々と語る梅田さん。
「全然漁師っぽくないのに、この人なんでプロフィール渡してきたんやろうと、捨てかけて(笑)」
“特技・シャドーボクシング”との記載が目に留まり、梅田さんは洋人役、6人目の候補となった。
「蓋を開けてみれば、一番だったんですね」
ヤンキー感やオラオラ感を出して肩に力が入り過ぎる他の候補者たちの中、梅田さんは松浦さんの芝居と自然にフィットしたという。
「小芝居してる感覚がなくて、一緒に座った空気感に一発でビッと来てお願いしました」

普段は天然キャラだという梅田さんについて春本監督は、
「芝居に入ると途端にスイッチが変わるんですね。皆さんにロケ現場を見せてあげたいくらいです。これから梅田誠弘は多分有名になっていくんで、今日見たお客さん覚えといてくださいね」と、観客にアピールした。

 

海外での評価

『かぞくへ』は東京国際映画祭にノミネートされ、ドイツ・フランス・韓国・オランダで上映でれている。
「外国の皆さんから松浦さん梅田さんの芝居が素晴らしいと。日本の小さな住人たちの生活にフォーカスした映画にも関わらず感動して頂いて。本当の芝居は国境を超えるものなんだなって実感しました」
これからも人間の心を大事に丁寧に描いた作品を作っていきたいと語る春本監督。
梅田さんと一緒に、今年の秋から年末に掛けての撮影を念頭に次回作の準備をしているという。

春本監督は駆け出しの映画人にとってのミニシアターの存在の有難さに触れ、
「こうやってみなさんに作品をお見せできる場として、ミニシアターを観客の皆さんの手で守って頂ければと思います。どうぞよろしくお願いいたします」と語った。

 

五島弁を学ぶ

観客の女性から梅田さん演じる洋人の五島列島の方言について質問が。
鳥取県の出身である梅田さん。
「オーディションに通った後、松浦さんに教えてもらって。あとは『悪人』っていう映画が下五島の話でみんな五島弁で喋ってるんで、それを家でずっと流してイントネーションを聞いて覚えましたね」と独特な学習方法について語った。

 

英語タイトルの意味とは

『かぞくへ』は、“going the Distance”が英語のタイトルだ。
英語字幕を担当したイギリス人のジョン・ウィリアムズさんがつけてくれた。当初は“dear my family” とか“To my family”といったタイトルを考えていたが、その表現はネイティブにとっては古臭いと指摘を受けたという。
「“going the Distance”は実はボクシング用語で、ファイナルラウンドまで戦い抜くという意味あって、この映画は家族にを守るためにそれぞれの登場人物が戦いを尽くすことから勧めてくださったんですね。結構海外でも受けが良かったです」
と裏話を披露した。その意味を知って『かぞくへ』を観ると改めて感慨深い。

 

ああ、監督のココロ、俳優知らず

通常、2時間程度の映画やスペシャルドラマの撮影は2週間ほどかかると言われているが、『かぞくへ』は、1週間で撮影した。初日に機材車が到着しなかったり、小道具として使う予定だった緩衝材のロールが現場から消えうせ、時間との戦いの中スタッフに買いに行ってもらったり、毎日ハプニングの連続だったという。
春本監督のヒヤヒヤエピソードを受けた梅田さんは、
「僕はそんなヒヤヒヤ体験してないですけどね」
「言ってないからさ!(笑)ヒヤヒヤをみんなに伝えたら、みんなヒヤヒヤしながら演技しないといけなくなるじゃん?(笑)」
これには観客も爆笑となり、梅田さんも
「そうですね(笑)」と答えるしかなかった。

そんな現場の様子が収録された撮影日誌、アドリブも含めた本編のシナリオ、春本監督と松浦さんの座談会も収録されたパンフレットが絶賛発売中とのこと。気になった方はぜひ劇場で手にとって頂きたい。

映画『かぞくへ』は、神戸元町映画館では6/22(金)まで、シネ・ヌーヴォでは6/29(金)までの上映となっている。