映画『万引き家族』是枝裕和監督×松岡茉優 早稲田大学学生700人を前に熱く語り尽くす!
様々な“家族のかたち”を描き続けてきた是枝裕和監督が「この10年間考え続けてきたことを全部込めた」と語る渾身作『万引き家族』が6月8日(金)より全国公開となります。第71回カンヌ国際映画祭【コンペティション部門】にて最高賞<パルムドール>を受賞!21年ぶりの快挙を成し遂げた本作。
この度、多彩な映像制作者たちをゲストに招き、制作にまつわる様々な事柄を語る早稲田大学の人気講義「マスターズ・オブ・シネマ」に、同大学の教授(基幹理工学部)も務める是枝裕和監督と、ゲストに松岡茉優さんが登壇!
カンヌ受賞後はじめての公の場となった松岡さんですが、早稲田大学生700名ほどを前に、『万引き家族』のことや演技のことについて、ときにはコミカルに語り会場の笑いを誘い、ときに真剣に熱く語り尽くしました。質疑応答では、多くの手が挙がり、ひとりひとりの質問に真摯に応え、学生たちは大満足の様子をみせました。また、講義の最後には、「改めてパルムドールおめでとうございます!」とお祝いの言葉を伝えた松岡さんが是枝監督にハグする場面もみられ、その様子に拍手も起こるなど大盛況の講義となりました。
是枝裕和監督「マスターズ・オブ・シネマ」概要
【日時】 6月2日(土)
【場所】 早稲田大学 8号館1階106教室(東京都新宿区戸塚町1-104)
【登壇者(予定)※敬称略】 是枝裕和監督、松岡茉優
※マスターズ・オブ・シネマ 映画のすべて」は、早稲田大学基幹理工学部およびグローバルエデュケーションセンターに設置された科目です。映画・テレビドラマ・アニメーションなどの映像分野を支え、活躍するゲストスピーカーを迎えて、履修する学生たちとのディスカッションを交えながら、創作行為に対する姿勢やその手法についてお話を伺っています。講義は、毎週土曜日に90分間の枠組みのなかで行われていますが、ゲストの作品や著書をあらかじめ観ておくことや読んでおくことが学生には求められており、正規の履修者には単位が付与されています。早稲田大学の全学部を対象として、現在では選考を経たおおよそ400人の学生が毎年この授業を履修しています。
<イベント内容>
早稲田大学生からの大きな拍手に迎えられ、是枝監督が「こんなに埋まっているの初めてみた・・・」と声を漏らすほどに満席となった会場に登壇した松岡さん。松岡さんは「今日はパルムドール賞を受賞して初の公の場なんです!今日はわたしからも監督に色々聞きたいと思っているのでよろしくお願いします!」と挨拶。続けて、松岡さんが檀上に上がる前に流れた松岡さんのこれまでのフィルモグラフィを辿る映像が流れたことを受けて是枝監督がこれまでのキャリアに触れると、松岡さんは「キャリアは15年なんですけど、不遇の時代もあったので…きゅっとしたら5年です!監督の子役への指導方法ってとてつもなく愛があるんです。わたしも子役のときに会ってたら、とんでもない役者になっていたと思うし、人としても豊かになっていたと思んです」と熱弁。
佐々木みゆちゃん演じるりんと松岡さん演じる亜紀のシーン大好きだという是枝監督は、台詞はほとんどお任せで、みゆちゃんをなんか笑わせくれということのみを松岡さんに指示したそうですが、そのときの松岡さんについて「こちらが求めている以上に子供からとてもうまく引き出しくれた」と絶賛!子役時代の経験が活きているのか質問が及ぶと、松岡さんは「活きてないです。妹がいたことの方が活かされているかも」といい、「このときのみゆちゃんは、誰よりも熱く毎日頑張っていましたし、子供としての役割をとても果たしてくれました。女の子って5、6歳でももう女というのを理解しているんですよね。なので髪のことに触れたりして、女の子が好きな話をしたりしました」と明かしました。
次に是枝監督の「『勝手にふるえてろ』と『万引き家族』では演技設計は違うんですか?」という質問に対し、松岡さんは「不遇の子役、女子中高生時代に周りの同世代の子たちが売れてきて、オーディションではこれをやる、お芝居に対してこのときはこうするみたいな自分なりのうまくやるためのジンクスをつくってきたんです。例えば、泣くシーンであればここでジャブ打っとくぞっていう感じの、言うなれば作為的な演技の仕方をこれまでに培ってきて。でも『万引き家族』ではそれが全く通用しなくて全然OKが出なかったんです。なので、これまでやってきたことを全部捨ててやったらやっとOKが出て。まるで、むき出しの卵みたいな、はじめての経験をしました」と明かし、続けて「わたしは、是枝監督の作品に出たいと10年間ずっと思っていて、あと三谷(幸喜)さんとお仕事するのも夢だったんですが、それが去年の12月末から4カ月の間でふたつともぎゅっと叶ったんです。なので、自分の人生のチャプター1は終わったと思っていて。なので、今は色んなことを吸収して、経験して、それを組み合わせてチャプター2を生きていきたいと思っています」と現在の心境を吐露。
その後、大九明子監督の『勝手にふるえてろ』や坂元裕二さんが脚本を務めたドラマ「問題のないレストラン」『ちはやふる』などを例にあげ、是枝監督が松岡さんの演技力を褒めちぎると「あー!アレルギーが、褒められるすぎるのもちょっと・・・」といい、会場からから笑いが起きる場面も見られました。
「『万引き家族』は各世代一番うまい役者を集めた」という是枝監督の言葉に、「本当ですか!!?じゃあ私が20代で一番ってことですよね??」と疑う素振りをみせる松岡さんに対し、「なにをもって一番うまいと解釈するかはあるけど、樹木希林、安藤サクラという役者がいて、そこに太刀打ちできるとなると相当でないといけないし、自分だけ上手くできると思っていてもすぐに見透かされる。関係性の中でうまい芝居ができる俳優さんじゃないとだめだから」とその理由を明かす是枝監督ですが、松岡さんが「あの現場の中の自分自身を表現すると、ドラゴン、恐竜、トカゲって感じ。今回はレベル1からレベル2000くらいの人に対して、新たな扉は開いたつもりだから」と振り返ると、是枝監督は「僕はサクラさんと樹木さんは素晴らしいし、共演するのは財産になるし、学ぶものも多かったと思う」と語りました。
次に是枝監督から「カンヌはどうだった?」と尋ねられると「本当のこと、マスコミさん向け、学生さん向けとそれぞれに違うんだけど、今日はどれで答えればいいんだろう?!」と回答に悩む様子をみせた松岡さんですが、まずはマスコミ向けとして「カンヌはすごいですよ!記者の方が全員正装で、そんな空間で映画を一緒にみるという機会もないですし、上映中はいい感じのシーンとかで声があがったり、反応が如実だから、『万引き家族』は非常に良い反応が得られましたけど、逆にすごくシビアだとも思いました。映画を含むエンターテイメントというものに、日本もこんなふうに真摯に向き合えるといいなと思いました」と回答。
また、学生向けとしては「今回は是枝監督の作品にでるという夢が叶って、カンヌまで歩かせてもらって、全てがそうではないと思うし、運も大事だと思うけど、信じ続けることが叶うことに繋がると思いましたし、人生に無駄なことはないんだということを伝えたいです」と回答。
最後に躊躇しながらも本当のことについても明かした松岡さん。「樹木さんは、我々俳優の中では伝説で、安藤さんの存在は全女優にとって絶望的な存在なんです。嘘でしょってくらい。リリーさんは俳優さんにとってもだよって仰っていましたけど、絶望的に素晴らしい芝居をやられるんです。わたしは『愛のむきだし』で安藤さんが今のわたしと同じくらいの歳で、わたしが今の城くん(桧吏)と同じ歳くらいに共演をさせていただいていて、歳が10近く違うんですけど、わたしが10年後安藤さんと同じ歳にあそこまで達せられているのか。本当のことをいうと、カンヌで赤い絨毯を歩く上で安藤さんと同じ笑顔で歩けないと思いました。だから今度はこのひとと同じ笑顔で歩きたいって思いましたね」と回答。
松岡さんの回答を受けて是枝監督は「それくらい安藤さんはすごかった。お芝居というものでこんな場所までにたどり着けるんだと思った。言葉を越えてというものがわかった気がしたのが、審査員の女優さんたちのみんながみんな安藤さんがすごいと言って帰るといった状態だった。とでもないのをみたなという顔しているのが、すごいと思った」とカンヌでの出来事を振り返り、「役者にとって励みになる?」と尋ねると、松岡さんは「励みになるのは時間がかかります。俳優のお友達には元気なときにみてねといっています。」と胸の内を明かしました。
<質疑応答>
Q、役作りはいつもどうされているのか?役者をやっていて大変だと感じることやりがいについて教えてください。
役については、ひとつひとつアプローチの方法が違うんですけど、必ずやっていることは、演じる役の生年月日、血液型、星座、生まれ年、家族構成を書き出します。『万引き家族』は初めてそれをやりませんでした。OKがでないから(苦笑)
大変なことは、他の職業にもいえることかもしれないですが、休みというのが実質ないことかな。最近、演じることから遠ざかるくらい長いお休みをもらったら、小学生依頼の感覚を思い出して。そういうのが俳優あるあるです。
あと、よかったなって思うことは、反響をいただくことですね。わたしが出演したドラマや映画などをみて頑張って生きようと思いましたっていわれることです。その決断は結果として幸せかはわからないけど、何かを動かせたという瞬間はよかったと思えます。
Q、是枝監督以外の監督ですごいな、好きだなという方はいらっしゃいますか?
監督も人間だからひととなりもでるので、同じ感覚でジャンル分けできないですけど…でも、中高生の頃に受けたオーディションの最終審査で落とされた、リベンジマッチさせていただきたい方が5、6人います!
Q、「ウチの夫は仕事ができない」での松岡さんは“かわいい”演技をやられていたと思うのですが、そういったものは演技でできるものなのでしょうか?お笑いの司会などもやられていますが、そういうことが演技をする上で参考になったりするのですか?
“かわいいはつくれる”に関しては、つくれる!だから、自分に自信がない子も、女の子も男の子もこうみられたいというのはつくれます。コミカルな演技については、その道のプロの方と一緒にお仕事させていただいたことで、間とかタイミングがみれました。お笑いでも俳優でもジャンルは違うように思いますが、お互いがお互いに刺激を受けている。だからこれからも、演技も勿論やりたいし、バラエティにも出たいし、色んなものに挑戦していきたいと思っています。
Q、不遇の時代があったとお伺いしましたが、そういったことを乗り越える為のモチベーション保ち方を教えてください。
かっこ悪いことをいうと、妬み嫉み、です!でも、映画やドラマを通して、生きることが苦手だったりする人にとって、楽しく生きる上でのお手伝いをしたいと思っています。自分が演じた役をみて、頑張ろうと思いましたとか、何々を目指そうと思いましたといったそういう反響があると続けたいと思いますね。
Q、具体的なチャプター2の目標を教えてください。
人として豊かになることです。今回、安藤さんや樹木さんとご一緒して、女性としての豊かさというのをすごく感じたんです。日々の生活、仕事の向き合い方もそうですし、人として俳優として、第二次成長期と思ってやっていきたいです。
以上。