AV業界や社会のあり方が変わり始めた時代だからこそ出来た映画 『名前のない女たち うそつき女』サトウトシキ監督、第七藝術劇場にて舞台挨拶
2/10、雨模様となった大阪。淀川区の第七藝術劇場にて映画『名前のない女たち うそつき女』の公開初日舞台挨拶が行われた。
原作は累計売り上げ数40万部突破の中村淳彦著「名前のない女たち」シリーズの最新刊「名前のない女たち 貧困 AV 嬢の独白」。
ピンク四天王のサトウトシキさんが監督を務め、主演のルポライター志村を『冷たい熱帯魚』の吹越満さん。企画AV女優の葉菜子を多摩大初代ミスコングランプリを経てモデル・女優として活動中の城アンティアさん、葉菜子の妹・明日香としてアイドルグループ CANDYGO!GO!の元メンバー円田はるかさんを配した。
登壇したのはサトウトシキ監督とプロデューサーの小林良二さん。
「雨で足元の悪い中お越しいただいてありがとうございます」と観客に感謝を伝えたサトウトシキ監督。
5年ぶりの劇場作品となった本作について、
「9年ぐらい前にプロデューサーの小林に呼ばれて中村さんの原作を渡されました。どれか好きなインタビューを撮ってみないかと言われて」
プロデューサーの小林さん、サトウ監督、サトウ監督が日本映画学校(2011より日本映画大学)で講師を務めた際の教え子である加瀬仁美さんが脚本で参加し、映画化に向けて動いたが、企画は頓挫してしまう。数年後に中村さんのシリーズ新作出版を機に再びサトウ監督に声がかかるも再度頓挫となった。しかし2017年に『名前のない女たち貧困 AV女優の告白』というシリーズ最新作が出版され、 またしても企画が動いたという。
「9年前に読んだ本から受けた印象がずいぶん変わってきました。よく分からない人たち、見えて来ない人たちを描いたインタビュー集、そんなふうに見てたんですけど、昨今 AV業界のあり方が社会問題化されましてそういう大枠や、私たちの周辺の変化も取り混ぜて企画を脚本化していきました」
プロデューサーの小林さんはこう語る。
「9年前に作って完成したであろうものよりもおそらく9年後に作られたこの映画の方が成熟した企画であり、皆さんが9年間見つめて来た何かが集結している企画になっているのではないかと思っております。原作者の中村淳彦さんを通してアダルトビデオの女優さんやそれを取り巻く人たちの生き様描いた作品になっています」
作品に対するこだわりを尋ねられたサトウ監督。
「当初から、ヒロインである葉菜子の女性像と言うか、生き方は変わらず、今に通じる何かがあるんじゃないかと思って描いています」
こだわりを反映したのは特定のシーンではなく、作品を通して“関係性”をキーワードに撮影を進めた。
「加瀬さんとの脚本作りや撮影の中で、人と人の結びつき、例えば家族とか兄弟とか決定的なものではなくて、それ以外の結びつきみたいな関係性は色々変わったりすることもありえる。結びつきみたいなものに興味を持って演出をしたと思います」
意外にも第七藝術劇場に初めて登壇したというサトウ監督。現在進んでいる企画が十三を舞台にしていて、主人公が暮らす町として駅前から第七藝術劇場に着くまでの町並みの描写があるというからこちらも完成が楽しみだ。
最後にサトウ監督から観客へメッセージが送られた。
「小さい映画で 大ヒットみたいなことないと思うんですけど、一人でも多くの人に届けることが出来たらと思っております。
こうして立っていられるのも皆様のおかげで嬉しいです。本当に一人でも多くの方に見ていただけますように願っています。ご支持、応援してくださる方がいましたらよろしくお願いします」
舞台挨拶の際にサトウ監督がこんなエピソードを披露した。本作の撮影が終わった頃、ある女優さんに会った際に、「吹越さん主演でハードコアを撮ってるの?」と聞かれたことがあったという。驚いて笑いながら否定したというサトウ監督。その女優さんも先日完成作を観て「ごめんなさいね」と言ってくれたという。AV業界を取り扱った作品という話が過激な噂話に発展したのかもしれない。
そんな笑い話が出るように、タイトルを聞いただけである種の過激なイメージを持たれる可能性を孕んだ題材ではあるが、本作は極めて静謐な作品だ。
撮影の現場ではライトの元、肢体を晒し、インタビューでは自分を肯定するための空虚な嘘をつく彼女たち。
彼女たちの心はライトの当たらない場所で現れる。
ヒモ同然の優しい彼氏と同棲中の葉菜子。ベッドでの営みは夜の穏やかな闇の中で慎ましやかに行われる。
カウンセラーの壮絶な過去は、夜走る車の中で淡々と語られる。
サトウ監督が”関係性”に興味を持ったと語ったように、様々な関係性が微妙なバランスで成り立っている。そのせめぎ合いが、自分の意思に関わりなく日常を揺らし、人々の生き方をも変えていく。貧困や対等でない関係性の逃れられない息苦しさを丁寧に描いて、様々な人に響く作品となっている。
『名前のない女たち うそつき女』の第七藝術劇場公開予定は、2/10~2/16が20:20より、2/17、18が12:20より、2/24~3/2が17:30よりとなっている。
(レポート︰デューイ松田)