1/6(土)、大阪市淀川区の第七藝術劇場にて切通理作監督・脚本、深琴さん・須森隆文さん主演『青春夜話 Amazing Place』が公開された。批評家であり『宮崎駿の<世界>』『怪獣使いと少年~ウルトラマンの作家たち』『お前が世界を殺したいなら』などの著作で知られる切通理作さんが50歳にして初監督作品を撮り上げた。水井真希監督の『ら』、友松直之監督の『レイプゾンビシリーズ』『マッチ売りの殺人少女』などに出演し、「ウェット&メッシー」というアート表現を中心としたモデルサークルを主宰し活動をしている深琴さんと、塚本晋也監督『野火』で独特な風貌が強烈な印象を残す役柄を演じ、内田伸輝監督『ぼくらの亡命』で初主演を果たした須森隆文さんが、夜の学校をフェティッシュに穢す切通ワールドの住人となった。

●『青春夜話』の続きが始まる
上映後、第七藝術劇場の舞台に登壇したのは切通監督と深琴さん。作品の中では時々顔をのぞかせる“S”気質で須森さん演じる“野島喬”を翻弄した深琴さん。劇場ロビーでお会いしたときもそうだったが、どことなく所在なさげな様子と役柄の表情のギャップに驚かされた。
役柄について尋ねられ、
「普段は暗いんで いつも通りの自分でいられました」と語った深琴さんだが、“暗い”という単純な表現には収まらない人柄がすぐに明らかになっていく。

切通監督から披露されたのは撮影初日のエピソード。切通監督が深琴さん演じる”青井深琴”のいじわるな同僚役の黒木歩さん、晴野未子さんと挨拶を交わしている間に、気がつくといつのまにか深琴さんが佇んでいたという。
「そのぐらい目立たなくて。この映画の主演のヒロインなのに。オフィスのシーンは印象に残っていますか」
切通さんの質問には答えない深琴さん。
「それは黒木さんや晴野さんより華がないっていうことですか(笑)」
といきなり直球返しが来た。普段のやり取りで慣れているのか動じない切通監督。
「そういう意味じゃなくて、僕が言いたいのは深琴さんが前半地味なキャラを演じるんだけど、気配を消すことができるんだなと思ったんです」
学校や撮影現場は基本怒られる、という深琴さん。
「私は悪目立ちして目をつけられるんで、なるべく意識的に気配を消してばれないようにしてます」
人と感覚が違うんだろうと自分で分析する。

たくさんのエロティックかつフェティッシュなシーンを演じた感想について訊かれ、
「なんか女性のお客さんに申し訳ないなって 思いました(笑)」
「申し訳ないってどういうことなんですか」
「男性ドリームみたいな映画で良かったのかなって(笑)」
「すみません。私が男性なんで(笑)」
なかなか普通の舞台挨拶ではお目にかかれない、ストレートなラリーが続く。あれ、この感じ?“青井深琴”と“野島喬”が話しているような。そう、まるで映画の続きを観ているようなのだ。

 

●激突!男女の関係をどう考える?
作品で描かれた男女の関係について
「女性と楽しい時間が成立しているなと思って浸っているとしっぺ返しを食うみたいな感じが、リアルな感覚としてあるんです」という切通監督に対して、
「態度が風俗の客みたいな感じなんだと思います。女性の扱いわかってないから女性が怒ってるんじゃないですか」
気配を消しているどころじゃない深琴さんの冴え渡る言葉。ハラハラすると同時に、溝が埋まる気配もない男女の感覚の違いが可笑しくて仕方ない。切通監督もあえてそこを深掘りしていく。
「だから“風俗行って満足してろよ”ってセリフがあるんですね。こんなんじゃお金は払ってもらわなきゃやってらんないって感じなんですか?」
「まさに喬はそういう態度でしたよ。 ちょっと料金が発生しないと一晩過ごせないかな」

「やらせてくれる女の人っていうのは男からしたら天使に見えるって言うのはよく聞く言葉なんですよね。深琴さん自身はそういう考え方についてどう思いますか」
「その答えが今日の映画のやり取りにされている感じでしたよね」

切通監督が、女性の難しさについてこんなエピソードを披露した。以前、仕事で若い女性モデルのグラビア撮影に立ち合っていた時、当時遠距離恋愛をしていた女性から、自分はホテトルをやっている、今一人目が終わり。二人目終わり、とメールが来た。本気にしていなかった切通監督だったが、後日尋ねてみたという。
「聞くのが礼儀だと思って、本当だったの?って聞いたら、映画の中みたいな態度で“教えてあげない”って。僕切れちゃったんですよ。“なめんじゃねえよ、この野郎”って(笑)」
「何でそこで切れるんですか」
「俺は一応なんか聞かなきゃいけないから聞いてやったのに、教えないとか言うからムカっときて」
おそらく女性であれば、根本にある“聞いてやった”という態度に反応するのではないだろうか。深琴さんはどこまでもストレートである。
「それ本当に恋人だったんですか(笑)」
「当然うまくいかず最後は別れましたけども。これはノロケじゃないんですけども、後で“一緒に仲良くしていた時期が人生で一番楽しかった”って言ってましたよ。気性が激しくって青井深琴みたいな人だったんですけど」
半分呆れた笑顔の深琴さんの表情が、ますます映画の中の“青井深琴”と重なっていく。

 

●切通監督と深琴さんの出会い
切通監督が深琴さんに強く惹かれたのは、友松監督の撮ったセミドキュメントを観てのことだったという。
「ずっと自分の影を消しまくってるな感じの暗いおとなしいキャラだと思っていたら、意地悪なところもあるんだなぁと。それでこの映画を企画したんですけど、その辺のこと覚えてますか」

「覚えてますけど、元々その映画を見てもらう前はそんなに気に入られてなかったですよね(笑)」とチクリ。
友松監督の『マッチ売りの殺人少女』に“ももは”名義で出演した深琴さん。メルマガで映画批評を展開している切通監督は、“シナリオは良かったが、タイトルロールをやった女優だけは良くなかった。キャストを変えてリメイクしていただきたい”と酷評した。

『青春夜話』のオファーの際、そんなことはすっかり忘れていたという切通監督に深琴さんがにこやかに言い放つ。
「だってすごい傷ついたんだもん。役者やめようかなってすごい悩んだりしましたよ。おかげさまで(笑)」

今までの出演作がワンポイント・リリーフ的な出演が多かった深琴さんと須森隆文さん。
「普通の人なんかやったことなかった二人が、ちょっと駄目であるけど普通の人をやるという映画ですよね」

出演者の中で深琴さんと須森さんは一か月前から立ち稽古を行った。
「僕は今でも覚えてるのは、一番最初の本読みの時に深琴さんは完全に青井深琴っていうものが中に入ってるって思ったんですよ」
セリフ覚えのことではなく完全にキャラクターをつかんでいたという。映画の中で登場する深琴さんの“上履きにイタズラしたらチクられて…”や、須森さんが“昔太っていて…”というのは本当のエピソードだ。切通監督の様々な場面で女の子に対して勇気が出せずにいたことや、事情があって中学3年生を2回体験したことから、学校に対してどこかコンプレックスがありリベンジしたいというを気持ちと併せて反映しているのだという。

学校について、深琴さんはこう語る。
「二度と行きたくないですね。お給料もらえないじゃないですか?その割に拘束時間が長いし、朝も早い。体育の授業とか無理やりやらされて恥をかかされるし。側転とかみんなできるわけじゃないのにやらされて。できないと屈辱でしかないですね」
自分も劣等生で運動神経も良くなかった、と同意する切通監督。今回、深夜バスで来阪したがその際に学校時代を思い出す出来事があったという。隣の席の男性が、近くでヒソヒソ話をしていた人に怒鳴りつけるのを見て、お菓子を齧る音も立てられないくらい完全に萎縮した。
「大人になってコンプレックスは克服したと思っていたけど、そういう環境に放り込まれると全く無力な存在に戻るんだなって」

そんな切通監督がお気に入りのシーンがある。
「長い手をつないで体育館の中を走るところが好きなんですよ」
誰もいないところで王様みたいに振る舞うことに惹かれるという。
「誰も見てない学校だから、ちょっと大胆になれるみたいな。学校という空間自体は深琴さんもそんなに嫌いじゃないって言ってましたよね」
「そうですね、意地悪な人がいなければ」

 

●女性の多面性を表した髪型
『青春夜話』の中の深琴さんは様々なコスチューム姿を披露しその都度髪型も変わる。一人の女性の違う面が現れるようでとても魅力的だ。
撮影時に提案したのは深琴さんだった。
「同じ女優がずっとエッチなことしてるんで見てる人が飽きちゃうんじゃないかなって思って。違う人に見えたらなと思って」
「さすがですね!深琴さん、自分のことをエロプロと呼んでますからね。
深琴さんはエロ担当でありながら、同時に青春の甘酸っぱいところも思い出すような役でもあるんです。小学校高学年の女の子ってどんどん成長するんですけど、男の子ってまだ背が伸びてなくて。僕はその時期の強い女の子に憧れがあるんですよね」
「だから M になったんですね(笑)」
「何言ってるんですか!人の性癖をバラさないでくださいよ(笑)」

そして話は切通監督の渾身の様々な萌えセリフについて。深琴さんは監督絶賛の素晴らしい演技で応えていたのだが、その男性の感覚が理解できないがゆえに表情にも説得力が出たことが分かり、男女の溝の深さをしみじみと感じさせられた。

 

●『青春夜話』の続きの2人
30分に及んだトークもそろそろお開きの時間が迫ってきた。
ラストの話題は二人の関係について。青井深琴が投げかけた疑問に対して喬から答えがなかったと感じている深琴さん。
二人はお互いをさらけ出すことができたと思っている切通監督。その認識のずれが、この日のトークの中で一番興味深く感じた。

これはテーマではないと前置きした切通監督。
「僕にとって女子って、気持ちが打ち解け時はずっと一緒に居たいと言ったのに、ふっと見たら居ないってイメージがあるんですけどね」
「そこはやっぱり切通さんがずるっこい恋の仕方ををしてきたから。
女の人が一時は盛り上がってたけど、ふっと 冷静になった時に“やっぱりあいつはクソだな”と思って我に返って帰っちゃうんじゃないですか(笑)」
その後、ラスト以降の主人公2人の行方について切通監督と深琴さんそれそれが予想を語ったが、正反対の意見になったのは当然かもしれない。

”男性ドリームみたいな映画”という深琴さんの評があったが、それだけの映画ではない。様々な矛盾を見据えつつ関係を築きたいという欲求は男女ともにある。スクリーンの中でどんどん欲望にピュアになっていく不埒な2人の姿は愛おしさすら感じた。夜の学校の体験は、分かり合えなくても通じ合えた証を残して2人の日常を変えていく予感に満ちていた。

第七藝術劇場では1/12(金)までの上映。ゲスト、イベント情報はこちら
名古屋・シネマスコーレでは1/13(土)〜19(金)、神戸元町映画館では2/3(土)〜9(金)、京都出町座では2/10(土)〜16(金)の日程で上映予定となっている。

(レポート︰デューイ松田)