小田香監督、三浦崇志監督、大力拓哉監督

大阪市西区のシネ・ヌーヴォにて、ドキュメンタリー映画『鉱 ARAGANE』が凱旋上映中だ。2017年10月から新宿 K’scinemaを皮切りにロードショー上映が始まり、シネ・ヌーヴォでは昨年12月に上映されて以来2度目の登場となった。小田香監督は初日である12/9の舞台挨拶に続いて12/10、トークショーを行った。ゲストは12/16から上映が始まる『ニコトコ島』『石と歌とペタ』の大力拓哉監督、三浦崇志監督だ。
『鉱 ARAGANE』の舞台となったのはボスニア・ヘルツェゴビナの首都サラエボ近郊にある操業100年のブレザ炭鉱。黙々と作業を進める坑夫たち、唸りを上げる巨大な掘削重機など地下300メートルに広がる漆黒の世界を捉えた作品だ。
小田香監督は長編デビューである本作にて、山形国際ドキュメンタリー映画祭2015アジア千波万波部門特別賞を受賞している。

シネ・ヌーヴォの山崎支配人は、世界の映画祭で作品が上映される3人が共に大阪出身で大阪を拠点にしていることに触れ、場所にこだわりがあるかとの質問を投げかけた。大阪が好きで特に東京に出たいと思ったことがないという大力・三浦コンビ。プロジェクトごとに海外で撮影に挑むため、東京・大阪を意識することがないという小田監督。それぞれのスタンスの違いが作品の色にもつながっているようだ。



元々ドキュメンタリーを見るの好きだが、自分で撮りたいと思ったことはあまりなかったという三浦監督。
「これは撮るのが凄く楽しそうやなって。画面全体がずっと動いたり揺れたりしているのが凄く面白かったです。自分たちはストーリーを後から付けて劇映画として出してるんですけど、撮影はドキュメンタリーみたいに撮っています」

『鉱 ARAGANE』の撮影は2014年10月から2015年5月ぐらいまで10回程行った。撮影時は小田監督ひとりでは坑道に入れないため、 世話係となったベゴ氏が付き添い二人一組で坑道を歩いた。外は雪が降り積もる季節でも、坑道の中はもの凄い湿気で暑い状態だったという。毎回撮影素材のレビューをするが、その都度の編集はしなかった。坑夫たちの間で交わされる言葉の意味は全く分かってなかったという。

「分からんかったらめっちゃ怖いんじゃないかなと思ったんです」
小田監督は、
「そうですね。何か言い合いしてるな、ぐらいは認識してたんですけど(笑)。レビューの時に言葉の分かる友人に隣についてもらって、こんな事喋ってるよって教えてもらいました」

三浦監督は後半に出てくる巨大な重機が少しずつ移動していくシーンに言及し、
「ペットボトルがめっちゃいい感じに置いてあってそこに光が入って来て、撮ってる時に凄く興奮しそうやなって見てました(笑)」
小田監督は、撮影中に映像をほとんど確認できなかったと振り返る。
「一眼で撮ってるんでモニターは反射して見えなくて。分かるのは明暗ぐらい。感覚だけでやっていたのでレビューする時に、いいの撮れたなーって(笑)」

 


●水中洞窟から想起するもの
話題は冒頭に上映された大阪限定・特別併映作品の1本である12分の「メキシコプロジェクト/リサーチ映像」に。
今年の春、小田監督がメキシコ人の友人をコーディネーターとしてメキシコのユカタン半島メリダで撮影した水中洞窟や地元の人々の生活の様子を中心に構成し、モノローグを加えたものだ。

「水中洞窟とその周辺にマヤの方々のコミュニティがたくさんあって、彼らの神話もしくは雨を降らせるために生贄になった女性や子供達の意識を通して、人の持つ集団的な記憶というものを探れないかなと思っています」

コミュニティの人々の個人的な記憶に関するインタビューも始めており、時間をかけて取り組む予定だ。
「私が胆力があれば長編にすべき題材だと思います」

この映像をどう活かすのか、8mm とデジタルを併用するのかで話が盛り上がる。
「それは今考えてるところですが、デジタル撮影はiPhoneです」

めちゃくちゃキレイだったと大力・三浦コンビ。音も加工はしているがiPhoneだという。ノイズの使い方と静かになる瞬間の切り替えが上手いと感嘆しきりだった。



●『鉱 ARAGANE』はセルフドキュメンタリーでもある

2回目の鑑賞という観客の女性から、撮影時、編集時、上映時の心境の違いについて質問が上がった。映画制作の中で撮影が一番好きと語る小田監督。
「危険な現場ではあったんですけど、もの凄く楽しく撮ってました。もちろん楽しい=楽ではないですけど、全然知らない空間に連れて行ってもらって、冒険のような気持ちですかね」

作品として仕上げるにあたり、特に着地点を考えてなかった小田監督は師事するタル・ベーラ氏に相談したという。
「自分が本当に何に惹かれているかもう1回確かめなさいって言われて」

自身を見つめ直すことで構成が決まった。
「私が惹かれたのは地下の空間や、労働と言ってしまうと少し違う気がするんですけど、身近でない国の人たちの身体的な動きの美しさ。後、彼らが私が行くたびに重機を凄く自慢するんですね。言葉分かんないのに自慢してるなって分かって(笑)。それは私の撮り得るベストな形で入れようと思っていて、その三つを中心に構成したつもりです」
撮影の最終日にベゴ氏が渡してくれた一日の工程のメモ書きしたものを元に地下の作業を再構築した。

「この後セルフドキュメンタリーを撮ってるんですけど、『鉱 ARAGANE』を見るのは凄く楽なんですね。これも私はセルフドキュメンタリーだと思ってるけど、自意識が見えづらい。ショットがちょっと長いなーとか、この劇場はこんな響き方をするなとか考えながら見てます」と今の心境を語った。

●挑発してくる大力・三浦作品
山崎支配人は、12/16から上映されるゲストの大力拓哉監督、三浦崇志監督の『ニコトコ島』『石と歌とペタ』についてこう紹介する。
『鉱 ARAGANE』とは一見全く違うように思えるかもしれないですけど、挑戦的で挑発してくる作品なのでぜひご覧ください」

小田監督は、
「まず驚いたのがお二人のカメラのセンスの良さ、絵の強さです。例えば観客として意味探しもできるけども、まずイメージが作品として確立されているなと思いました。後、よくわかんない歌もモゴモゴ歌っているのが…(笑)」
強い画と、強いとは違うニュアンスで構成される音に二人のバランス感覚の良さを感じると語った。

自作と『鉱 ARAGANE』について大力監督は、物を見る視点や心地よさについて共通するものがあると感じたという。
「撮影に行って、録って来たもの見て、また撮りに行ってを繰り返すプロセスも僕たちと同じ。ほとんど一緒の作り方なんです。僕らの方はお話というほどではないですけど、そういうものがあったり、アホな感じがあったりする作品なので、見比べていただけたら凄く面白いかなと思います」

三浦監督は、
「予告を見てもらって分かるように二人とも出ていて、こういう感じで喋ってるような映画です(笑)。 ま、観てください」と観客にアピールした。

 

上映後に小田監督にお聞きしたところ、この鉱山は完全なる現役で作業が止まれば電気の供給がストップするという。日本と全く異なる状況も興味深い。

重機音と振動に彩られた知られざる地下300メートルの世界。愚直に鉱山を掘り進める坑夫たちの姿と暗闇に君臨する重機の映像は圧巻で、SF映画の世界に入ったような新鮮な驚きを覚えるとともに、人類の終わることなき生産活動そのもののように見えた。

『鉱ARAGANE』は日替わりの大阪特別併映作品とともに12/15(金)まで上映される。
その後は水戸CinemaVOICEにて12/18(月)-12/22(金)、12/26(火)-12/29(金)の日程で上映予定となっている。

 

(レポート︰デューイ松田)