国内外で常に注目を集める黒沢清監督が劇作家・前川知大氏率いる劇団「イキウメ」の人気舞台「散歩する侵略者」を映画化。数日間の行方不明の後、夫が「侵略者」に乗っ取られて帰ってくる、という大胆なアイディアのもと、長澤まさみ、松田龍平、長谷川博己ら豪華オールスターキャストを迎え、誰も見たことがない新たなエンターテインメントが誕生、現在、全国で大ヒット上映中です。
この度10月8日(日)に松田龍平さんと黒沢清監督が語り合うスペシャルトークイベントを実施いたしました! 撮影の裏側から、カンヌ国際映画祭のお話、今だから話せる、とっておきのエピソード満載で大盛り上がりのイベントになりました。

『散歩する侵略者』スペシャルトークイベント概要
【日時】 10月8日(日)15:35~16:15
【場所】新宿ピカデリー シアター6 (新宿区新宿3丁目15番15号)
【登壇者】松田龍平、黒沢清監督 

公開から1カ月が経っても尚、ストーリーや設定について様々な論争を巻き起こし、リピーターが続出している本作。上映後の会場に松田龍平さんと黒沢清監督が登場すると、観客からは大きな拍手が沸き起こりました。
はじめに松田さんは「今日はありがとうございます」と挨拶し、続いて黒沢監督は「公開してしばらく経ちますが、こうやって皆さんにお越しいただき嬉しいです。中には2回、3回と観た方もいるということで、僕は出来上がった作品を何回も観ていないので、僕が気づかなかった事に気づいている方もいるかもしれませんね。何かの機会に聞かせていただけると嬉しいです」と語りました。
公開後、松田さんの周りでも様々な反響があったようで「映画を観た友達からはおもしろいって言われます。公開して1カ月経っても皆さんが観にきてくれて嬉しいです」と喜びを語り、黒沢監督は「これからも上映されたり、のちにはDVD等になったりと今後、作品が色んな形で残っていってくれるんだろうなと思うと感慨深いですね」としみじみとコメントしました。さらに公開後、何度も鑑賞しているリピーターの方からの質問に黒沢監督が驚いたというエピソードを披露。「映画の後半、混乱する病院のロビーを長澤まさみさんと松田さんが動き回る長回しのワンカットのシーンがあるのですが、長澤さん演じる鳴海にそっくりの銅像が置いてあった意図は何でしょうか?と聞かれたのですが、全く覚えていなくて…」その銅像はロケ場所の病院に元から置いてあったもので黒沢監督も全く気がついておらず、想定外の指摘に思わず動揺したと語りました。

松田さんと黒沢監督は、今年5月に開催されたカンヌ国際映画祭での公式上映に参加。改めてカンヌの感想を問われると、黒沢監督は「現地の方はあたたかく受け入れてくれましたね。こちらは冗談のつもりでやっているところも、すごく真剣に観てくれて。一般の方というよりはジャーナリストが多いので日本の現状を象徴しているのかとか、物語の意味を一つ一つ聞かれました。複雑で色んな要素のつまった作品なので、色んな解釈をして観てくれて嬉しかったですし、とても楽しかったです」とコメントした。一方、『御法度』以来の17年ぶりのカンヌ国際映画祭への参加となった松田さんは「17年ぶりということで色んな期待を胸に映画祭に行ったのですが、お酒を飲んでまったりしてしまって、天気もすごく良かったし、黒沢さんとゆっくり一緒にいることも撮影の現場でもなかったので、ああ、もう楽しんじゃおう!と思って。ビーチにも行きましたね」一方、黒沢監督は「撮影の現場ではなかなか松田さんと話す時間もなかったので、カンヌでゆっくりお話しできて楽しみました」と、映画祭を存分に楽しんだことを明かしました。

ここから話題は『散歩する侵略者』の制作秘話に。侵略者に乗っ取られた男・加瀬真治役を松田さんにオファーした理由について話が及ぶと、黒沢監督は「『御法度』以来、松田さんの出演している色んな作品を観させていていただいていますが、すごくピュアというか、世俗的なものに毒されていない方だなと思いました。経験は豊かな方ですが、ピュアな部分が残っていて。侵略者の役は「作りたての人間」というゼロの状態からキャラクターを作り上げていく役なので、最初から変な癖のある人やしがらみを背負ってしまっている人だと難しくて。30歳くらいの年齢でピュアな要素を持っている、というと、松田さんしかいませんでした!」とその理由を明かしました。黒沢監督の絶賛コメントに対し、松田さんは「うれしいですね。僕も演じている時に、まっさらであるという、概念を一つも持っていない、縛られていない役のイメージを持っていたので、本当にそういう気持ちでいたいと思っていました。ただ、実際の撮影現場で“ただそこにいる”というのは難しくて不安もあったので、現場では黒沢さんの顔をいつも窺っていました。難しい役でしたね」と苦労を語りつつも、「概念を奪うことによる真治の変化は、最初は少し考えてみたんですけど、あまりわかりづらい芝居をするのも違うかなと思って。結局は自分なりにその「概念」を想像してみるということに留まりました。普段、一つ一つの概念について考える機会はないので、そういったことを想像してみるというのは面白かったです」と難しい役どころにも、楽しんで取り組んでいた様子。

また、侵略者が人間から概念を奪う印象的なポーズの誕生秘話を黒沢監督が明かす場面も。「概念を奪う時にわかりやすいアクションをやるべきかどうか僕も悩んでいたんですが、一番最初に撮影したのが、真治が前田敦子さん演じる鳴海の妹・明日美から概念を奪うシーンで、その時、試しに、松田さんに人差し指を突き出すポーズをやってもらったところ、すごくお手軽なことなんですが、決定的に何かが失われたように見えるなと確信して、他もあのポーズでやることに決めました」と明かし、松田さんは「面白いなって思いました。スタッフも聞かされてなくて、黒沢さんが撮影当日にこういう風にやってみてと仰ることが何度かあって。想像が広がるというか、そういう瞬発力というのが大事なんだなと思いました」と、初となる黒沢組の撮影現場を振り返りました。真治がテレビの気象予報士の動きを真似るシーンについて聞かれると、黒沢監督は「気象予報士役の方には、あの方はすごくうまくやってくれたんですが、かなりしつこく演出しました(笑)。でも、松田さんにはほとんど演出しませんでした。画面を見せてこんな感じで!と」それを聞いて松田さんは、「気象予報士役の方づてに演出されたんですね(笑)あの時、肩が痛かったんですけど、あの動きをしたら見違えるように治ったので、家でもやろうと思って」と意外なエピソードを明かし、会場の笑いを誘いました。

今後、松田さんと一緒に作品を作ることになったとしたら、どのような作品で松田さんにどんな役をお願いしたいかという問いかけに関し、黒沢監督は「何でもやってみたいですが、今回は人類とかけ離れたところからのスタートする役だったので、逆に国会議員とか、スパイとか。松田さんは犬派か猫派かといったら犬派だと思うので、まずは忠実に動いてみる、大きな組織にまずは属していることからスタートするような人がものすごく合う気がしますね」と期待を寄せ、対して松田さんは「でも、どっちかというと猫派ですが…(笑)」それについて監督は「最初は犬派なんだけど、だんだん猫派だって気づいていくみたいな」そして松田さんは、「それはワクワクしますね!ぜひお願いします」と次回作に意欲を見せました。

また、現在WOWOWで放送中のスピンオフドラマ「予兆 散歩する侵略者」が『予兆 散歩する侵略者 劇場版』として11月11日(土)から劇場公開することが決定。黒沢監督は「映画版の『散歩する侵略者』で松田さんと東出さんの教会でのやり取りは僕自身いつも笑ってしまうのですが、あの東出さんが何者なのかが明かされます。映画版の事件が起こっているときとほぼ同じ時間軸の中で、別の街では何が起こっていたのかという発想で作ってみました。ぜひご覧ください」と見どころを語りました。
最後に松田さんと黒沢監督からこれからメッセージをいただきました。
松田さん:今日は本当にありがとうございました。まだまだ上映しているので、何回でも観てください。
黒沢監督:今日は久しぶりに松田さんと会えて楽しい時間を過ごせました。何度も映画を観てくださった方もいて感激しています。色んな要素がつまった映画ですが、最終的にはわかりやすいメッセージを込めたつもりです。公開が終わっても、皆さんの心の中にこの映画の記憶と、そのメッセージが少しでも長く残り続けてくれたら、作ったかいがあったというものです。本日はありがとうございました。