第70回カンヌ国際映画祭便り【CANNES2017】15
映画祭11日目の27日(土)。 “コンペティション”部門の正式上映は今日が最終日となり、イギリスのリン・ラムジー監督の『ユー・ワー・ネバー・リアリー・ヒア』が掉尾を飾った。招待作品にはロマン・ポランスキー監督の『ベースド・オン・ア・トゥルー・ストーリー』が登場。短編コンペティション部門の出品作9本も11時&16時の2回に渡って正式上映されている。そして、最終日を明日に控えた本日、一足早くエキュメニカル賞と国際批評家連盟賞が発表された。
◆名匠ポランスキー監督の『ベースド・オン・ア・トゥルー・ストーリー』は、人気女流作家のストーカー恐怖を描くスリラー!
2002年の『戦場のピアニスト』でパルムドールに輝き、(米アカデミー賞では監督賞&脚色賞&主演男優賞:エイドリアン・ブロディの3賞を受賞)した大御所監督ロマン・ポランスキー(御年83歳)のアウト・オブ・コンペティション(賞レースの対象外)作品『ベースド・オン・ア・トゥルー・ストーリー』は、デルフィーヌ・ドゥ・ヴィガンの同名小説の映画化で、ロマン・ポランスキーとオリヴィエ・アサイヤス(昨年、『パーソナル・ショッパー』で監督賞を受賞!)が共同で脚色した第一級のスリラーだ。
ベストセラーになった私小説に対しての心外な波紋に悩み、次回作が書けなくなった人気女性作家(エマニュエル・セニエ)の前に、貴女の一番の理解者だと自認する熱烈な女性ファン(エヴァ・グリーン)が現れる。同い年の彼女は近所に住み、生業はゴーストライターだという。2人は次第に親しくなるが、徐々にストーカーへと変貌した彼女は……。
朝の8時30分からの上映に続き、11時半から行われた『ベースド・オン・ア・トゥルー・ストーリー』の公式記者会見には、ロマン・ポランスキー監督とプロデューサー、原作者のデルフィーヌ・ドゥ・ヴィガン、共同脚本したオリヴィエ・アサイヤス、出演俳優のエマニュエル・セニエ、エヴァ・グリーン、ヴァンサン・ペレーズ、そして作曲家のアレクサンドル・デスプラが登壇した。
私生活上のパートナーでもあるエマニュエル・セニエを本作のヒロインに据えたロマン・ポランスキー監督は、相手役のエヴァ・グリーンの起用について「『シン・シティ 復讐の女神』で彼女が演じたキャラクターにとても惹かれていたんだ。なので、脚本が出来上がる前にオファーをしたよ」とコメント。
本作で名匠の期待に応え、得体の知れない謎めいた女を好演したエヴァ・グリーンは英語&仏語を流暢に操ることで知られているが、「英語作品の時はアクセントに気を遣うので、とっても疲れるの。フランス語だと心底ホッとするわ」と微笑んだ。
◆ホアキン・フェニックスの圧倒的な存在感が光るリン・ラムジー監督の『ユー・ワー・ネバー・リアリー・ヒア』
スコットランドのグラスゴー出身のリン・ラムジー監督は短編2作がカンヌで高く評価され、1999年の『ボクと空と麦畑』(ある視点)、2002年の『モーヴァン』(監督週間)を経た後、2011年の衝撃作『少年は残酷な弓を射る』でコンペ初参戦した才媛で、『ユー・ワー・ネバー・リアリー・ヒア』は2度目のコンペ作となる。
主人公は幼い頃に受けた虐待がトラウマとなった男ジョー。湾岸戦争の帰還兵にして元FBI捜査官であった彼は今、売春目的で人身売買された女性たちを荒っぽいやり方で助け出す仕事の請負人だ。ニューヨークの上院議員の娘ニーナの救出という新たな仕事を依頼され、彼女が拉致監禁されているマンハッタンの売春宿に単身で向かったジョーは……。
本作はアメリカの作家ジョナサン・エイムズの同名小説を監督自らが脚色して映画化した壮絶なリベンジ・スリラーで、フラッシュバックを多用するリン・ラムジー監督独特の演出とセンス、そして美意識が炸裂。ヘビーかつ陰惨なバイオレンス映画だが、“くせ者俳優”のホアキン・ファニックスがハンマーを武器として敵地に単身で乗り込んでいくアンチヒーローの複雑な内面までも圧倒的な存在感で演じきった鮮烈な作品だ。
夜の正式上映に先立ち、12時30分から行われた『ユー・ワー・ネバー・リアリー・ヒア』の公式記者会見にはリン・ラムジー監督と主演のホアキン・フェニックスが登壇。2人が意気投合して撮影を行ったことがよく伝わる会見となり、その模様をニーナ役を好演した子役のエカテリーナ・サムソノフが記者席の最前列に座って見守っていた。
主人公が使うハンマーについて、リン・ラムジー監督は「これは原作にあるの。滑稽だけど、凶器がハンマーだったら静かに押し入って、静かに帰ってくることができる。銃でもいいんだけど月並みで飽きちゃった感があるので、ユニークな方法でアプローチしてみたのよ」とコメント。さらにはジョニ・ミッチェルのポップソングの使用やポール・デイヴィスが手がけたサウンド・デザインにも言及した。
一方、ホアキン・フェニックスは主人公のダブついた体型について「彼は子供時代のトラウマを抱えてるから、強靭になる必要があったんだ。己の身を守るためにね。だから、出来るだけ肉をつけて体を大きくはしたが、ハリウッド映画に登場する典型的な筋肉マッチョにはならないよう気をつけたんだ」とコメント。
(Text & Photo:Yoko KIKKA)